事例2 伊勢志摩サミットを追い風に新たな島の魅力で女性層を狙う
鳥羽商工会議所(三重県鳥羽市)
鳥羽市に属する答志島(とうしじま)では、平成22年よりさまざまな島おこし事業を展開している。豊かな自然と美しい景観、「御食国(みけつくに)」の一つに数えられる新鮮な海の幸、「太陽の道」が通るとされる神秘性など、そうした島の魅力の最大価値化に取り組んできた結果、近年は特に若い女性の心をとらえている。
足を運びたくなる仕組みをつくる
5月に行われたG7伊勢志摩サミット(先進7カ国首脳会議)により、国内外から大きな注目を集めている三重県志摩半島。このエリアは伊勢志摩国立公園に指定され、複雑な海岸線や海に浮かぶ大小の島々が織りなす景観が美しい日本有数の観光地である。さらに「お伊勢さん」と親しまれる伊勢神宮を擁することから、年間多くの参拝客や観光客が訪れる。鳥羽市観光課のデータによると、27年同市の観光客数は約461万7500人。宿泊客数は約188万4350人、うち外国人の宿泊客は約4万700人である。
その志摩半島の中の鳥羽市の沖合にある答志島は、鳥羽市内で最大の面積を持つ漁業と観光の島である。周辺の海には餌となるプランクトンが多いことから、多種多様な魚が水揚げされる。伊勢エビ、アワビ、カキなどの高級魚介も豊富だ。そのため、かつてはそれを目当てに多くの観光客が団体で訪れたが、自家用車を使った個人旅行が主流の現代、客足は減少の一途をたどっていた。
「古くは『御食国』として、天皇や朝廷に食べ物を献上していたほど質の高い魚介も、それだけでは人を呼べなくなってきています。もっと別の角度から島の魅力を発掘し、付加価値を見出して、短時間でも気軽に足を運んでもらえる仕組みが必要だと思いました」と鳥羽商工会議所経営指導員で、答志島事業担当の吉川龍さんは島おこしの発端を語る。
数々の取り組みを経て「BBQツアー」を商品化
いち早く取り組んだのは、島のルーツや名所を巡るウォーキングツアーである。4つのコースには、それぞれ「禅の道」「天空の道」「万葉の道」「希望の道」というテーマを設け、そこを歩くことで得られる発見や活力、希望、癒やしなどをうたったウォーキングマップをつくった。険しい道もあることから、ウォーキング用のレンタルポールを各旅館に常備し、年代を問わず無理なく楽しんでもらえるように配慮しながら、新たな楽しみ方としてアピールしてきた。
平成25年には、島の海水浴場の白浜近くに多目的スペース「ブルーフィールド」を開設する。これは海に向かって広がる三角形のウッドデッキで、漁港の隣にあるとは思えない洗練された空間だ。
「この場所を選んだのは、ある冬の早朝、水平線から昇ってくる朝日を見たのがきっかけでした。思わず『でけー!』と叫んでしまったほど大きい太陽から、たくさんのエネルギーをもらっているような感覚になり、同じ体験を多くの人にしてもらいたいと考えました。それでここに島の新たなランドマークとなる施設をつくり、さまざまなイベントの拠点にして人を呼ぼうと思ったのです」
そうして企画したのが、ブルーフィールドから望む日の出ツアー、自然を感じながら行うヨガ&瞑想(めいそう)、キャンプ&BBQ(バーベキュー)など、非日常を味わう数々のイベントだ。また、ここを青空食堂に仕立てて、島が誇る海の幸を堪能してもらう「リストランテ・フィールド・答志島」事業にも乗り出す。これは島の若手料理人がアイデアを出し、新鮮な魚介を地中海風に調理して、彩り豊かに盛り付けることで、従来とは違うおもてなしをアピールするのが狙いだ。大阪の辻調理師専門学校の監修でモニターツアーを企画したところ、予想以上の反響を得たという。
「この春、そのノウハウを応用して、島の料理人が目の前で調理してくれるBBQツアーが商品化され、すでに申し込みが何件も来ています。今後も観光客のニーズをとらえながら、日の出ツアー&リストランテ、ヨガ&リストランテ、ウォーキング&リストランテというように、イベント企画を組み合わせた宿泊プランも大々的に打ち出していきたいと思っています」
島の神秘性で女性の心をつかむ
こうした一連の取り組みは、若い女性をターゲットに想定して行っているという。その背景には、島の持つ神秘性がある。北緯34度32分には、「太陽の道(レイライン)」と呼ばれる緯線が存在するのだという。その線上には、古代遺跡や由緒ある神社が点在し、どこも太陽神との縁が深いという共通点がある。その緯線と、富士山と伊勢神宮を結んだ線がちょうど交わる場所に、答志島は位置しているのだ。そのことから、太陽にまつわる不思議な力を秘めている可能性が考えられる。そうしたスピリチュアルなストーリーは特に女性が好むところであり、ヨガや瞑想を行う人にとっては願ってもない環境といえるかもしれない。このような島の神秘性も一つの資源ととらえ、各企画の隠れたテーマとして組み込んでいるのだ。その狙いは見事に女性客の心をとらえ、一度島を訪れた女性の多くが「必ずまた来ます」と言って帰っていくという。
「いろいろやってきて、最近ようやく効果が目に見えてきました。今年は伊勢志摩サミットが行われ、地域全体が世界中から注目を浴びています。年が明けてから、国内だけでなく各国からもメディアがたくさん取材に訪れていますが、中には答志島まで足を延ばし、取材してくれた人もいます。皆さん、島の料理を味わうと、絶賛し、本国でも紹介したいと言っていました。こうした追い風に乗り、さらに島の魅力の付加価値化に取り組みたい」
島の資源を再発見し、新たな価値を付けることで、来島者をとりこにするアイデアを次々と繰り出してきた答志島。メーンターゲットと位置付ける女性たちは、口コミやSNSの活用など情報発信力が高いだけに、今後、人が人を呼ぶ効果が大いに期待される。
※月刊石垣2016年6月号に掲載された記事です。
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