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コラム石垣 2015年11月11日号 宇津井輝史

ドイツには何度か旅をした。旅の断片からドイツ気質が知れる経験もした。たとえば鉄道。低いプラットフォームから列車に乗り込む際、ここに把手があればと思う位置に、順番に掴むべき把手が据え付けられている。たとえば自動車旅行。ある街に入ったことを示す標識はどの国にもあるが、その街が終わることを示す標識があるのはドイツだけだろう。些細なことだが、利用者の立場で考える視点が社会に浸透している。

▼こういう思想は当然製品の仕様や設計にも反映する。堅牢さや優れた工業デザインはむろんだが、ドイツ製品の真骨頂は合理性の追求にある。使う人の立場から考え抜かれた厳密性。それはときに融通の効かない国民性にも通じる。秩序を重んじるのは社会生活の基本だが、駐車違反の摘発は有無を言わせぬ厳格さである。長くドイツに暮らした知人によれば、少々庭の手入れを怠れば近所から苦情を受けるという。信頼の厚いドイツブランドはこんな国民性に支えられている。

▼いま欧州はドイツの一人勝ちである。とびぬけた競争力で盟主となったドイツがEU経済をけん引する。あふれる中東難民の受け入れにもリーダーぶりを発揮。政治的発言力も増している。

▼そのドイツで、世界的自動車メーカーが大きなダメージを受けた。排ガス規制を不正に逃れたのは、規律と高い技術水準を標榜してきた国への信頼を揺るがした。回復は容易ではあるまい。

▼事件の遠景に見える時代の位相転換。世界は、グローバル競争に勝ち抜くために帝国主義的傾向を強めている。なりふり構わぬ国益の追求。市場で競り勝つために絶え間ない圧力が企業にかかる。社員に過度な負担はないか。事件を他山の石とせねばなるまい。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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