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真壁昭夫の経済底流を読み解く 農業改革で商機をつかめ 政府は早急に環境整備を

2月初旬、安倍政権は全国農業協同組合中央会(JA全中)の体制を見直す改革案を示し、同会も基本的にこの案を受け入れた。これにより、昭和29(1954)年に創設されたJA全中を頂点とする、わが国の農業分野の体制が大きく変革されることになった。今回、JA全中側には、農業従事者の高齢化などへの危機感があったとみられる。必要性があったにもかかわらず、なかなかメスを入れられなかった農業分野の改革に手を付ける意味は大きい。安倍政権がその第一歩を踏み出したことは評価されるべきだ。

終戦後、わが国は食糧事情の悪化に苦しんだ。それを改善するには、まずは主食であった米の生産高を増やすことが必須であり、各農家の努力が重要だった。22年、国は、小規模な農家が助け合って生産を増やすことを目的に農業協同組合法(農協法)を制定し、各地域の農協を創設。各農協は、生産物の販売や肥料の共同購入、農業機械の販売を担当する〝経済事業〟や、資金の融資や貯金などを扱う〝信用事業〟、さらには保険などを扱う〝共済事業〟などを、農家向けに展開した。しかし、地域ごとにつくられた農協は事業ノウハウが十分でなかったこともあり、一部では破綻するケースが発生した。それに対応するため、29年に国は農協法を改正し、農協の総元締めとしてJA全中を創設。各農協の経営指導や監査などを行う仕組みをつくった。多くの農協や農家を傘下に収めたJA全中は、次第に政治の分野でも発言力を増し、〝農林族〟と呼ばれる議員を通して存在感を高めていく。ところが、農業生産の増大と食生活の欧米化から、農産物へのニーズも変化。全国展開するスーパーなどの流通網も発達し、農協を通さない流通の割合が高まった。50年以上前につくった仕組みが、いつの間にか経済の実体に適合しなくなってしまったのだ。それにもかかわらず、その改革が遅れてしまった。

わが国の農業で忘れてはならない問題は、農業従事者の減少と平均年齢の上昇だ。国内で農家の収入が伸び悩んだこともあり、新規の農業従事者の数が大きく減り、特に若い層が減少した。農林水産省の資料では、平成22年の農業従事者は約261万人で、12年と比較して33%の減少。しかも、農業従事者の平均年齢は65・8歳と、かなり高齢化している。そうした状況を放置すると、わが国の農業は機能しなくなる懸念がある。それは、食糧安全保障の観点からも、重大な問題をはらむことになる。若い人たちが農業への関心を持ち、従事してくれるよう導くには、何といっても農家の収入を増やし、農業を魅力ある産業分野に育成することが必要だ。

農家の収入を増やすために必要な方策としては、まず、今までの「生産者=農家」と消費者が、農協の流通システムで遮断されていた点を改めることが必要だ。もともと、生産者は消費者のニーズを捉えて〝売れるもの〟をつくることが重要なのだが、従来のシステムでは農産物は農協の流通網を通して消費者に届くことが多かったため、農家自らが消費者のニーズを捉えることが難しかった。これでは、農家から戦略的な発想は出てこない。付加価値の高い、競争力のある作物をつくる創意工夫は働きにくい。

今後、TPP交渉が進展すると、海外から安価な農産物の輸入が可能になる。そうなると、わが国の農業は一段と厳しい状況に追い込まれることが想定される。そうした状況を防ぎ、わが国の農業を守るためには、古くなったシステムを見直して、新しいビジネスチャンスをつかむことが必須の課題となる。今後、各地域の農協が農家と一緒になって独自の経営能力を発揮するためには、それなりのノウハウや知見を持った民間企業の参入が重要になるだろう。これからは、農業の産業化にビジネスチャンスを見いだした民間企業が、できる限り自由に業務を行えるような環境整備が必要になる。その役割を果たすのは政治だ。政治が本気でわが国の農業を変える覚悟を持って取り組まないと、いつものように、農業改革が絵に描いた餅になってしまう。政治が本気で農業改革に取り組むことを期待したい。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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