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こうしてヒット商品は生まれた! CLIP

自動車や家電などの金型・製品設計を手掛けるモールドテック。本業の傍ら、「大好きな文具で町工場を盛り上げたい」と、独自のプロダクトブランド「Factionery(ファクショナリー)」を立ち上げ、町工場の技術と設備を生かした文具を世に送り出している。その一つである回転式クリップ「CLIP」は、今年の「日本文具大賞2018」で優秀賞を受賞し、注目を集めている。

ある大学生の不満の声が開発のきっかけに

昔からある定番文具でも、新たな可能性を秘めていることがまた一つ証明された。モールドテックが企画・販売する回転式クリップ「CLIP」だ。

クリップは紙を挟んで留める金具だが、長円形のゼムクリップ、バネ仕掛けでつまみに穴が開いた目玉クリップ、板バネとワイヤーでできたダブルクリップなど、さまざまな種類がある。しかし、どれも紙を挟んでめくると、留めた部分に折り跡が付いてしまう。

その点「CLIP」は、紙に折り跡が付かない。形はゼムクリップをアレンジしたものだが、特殊なくぼみ形状が付いていて、クリップ同士を付けたり外したりできる。クリップを連結するとそれぞれが独立して回転するので、めくっても跡が付かず、紙をきれいな状態に保てるのが最大の特徴だ。

「これを思い付いたのは、ある大学生の何気ない一言でした。その学生は大学に提出したレポートが戻ってきたとき、折り跡が付いて、くしゃくしゃになっているのが嫌だと言うんです。そこで折り跡が付かない“留め具”がつくれないものかと考え始めました」と同社社長の落合孝明さんは説明する。

落合さんは早速、知り合いのデザイン会社、西村拓紀デザインと精密バネメーカーの五光発條と共に製作に乗り出した。デザインと仕組みは比較的短期間に固まったが、クリップ同士を連結させるくぼみ形状の調整に手こずった。きつ過ぎるとスムーズに回転しないし、ゆるいとすぐに外れてしまう。絶妙な加減を見いだそうと、0・01㎜単位での調整を繰り返し、2017年11月にようやく完成した。

町工場参加型のプロダクトブランドを設立

同社は1982年に落合さんの父親が自宅の一角で始めた設計事務所で、主に金型や製品の設計を手掛けてきた。2005年に入社した落合さんは、設計の仕事をこなす一方、趣味の文具品集めをしながら、いつか自分も文具をつくってみたいと思っていたという。

それが現実となったのは14年のことだ。付き合いのあった精密機械加工会社と共に、展示会に出展する話が持ち上がった。しかし、どちらも下請けなので、展示できる自社製品がない。そこで、それぞれの技術力を結集したオリジナル文具をつくろうという話になり、前述の西村拓紀デザインを交えた3社で金属製定規を製作した。

「見た目は普通の定規ですが、1000分の1㎜の精度で切削した表面、印刷では難しい0・1㎜以下の線で削り出した目盛り、薄いのに反りが出ない仕上がりなど、見る人が見れば分かる高度な技術が盛り込まれています。実際、展示会では多くの来場者に興味を持ってもらえたので、この調子で2作目もつくろうということになりました」

リーマンショック後の不景気を経て、町工場には自社製品に力を入れてBtoCに乗り出す動きが出てきた。しかし、1社だけでつくれるのは1~2個がせいぜい。製品機能は良くてもパッケージがなおざりで、ネット販売しても目立たないケースが多い。

そこで落合さんは多くの人の目に留まるように、町工場がコラボしてつくるプロダクトブランド「Factionery」を立ち上げた。工場の「Factory(ファクトリー)」と文具の「Stationery(ステーショナリー)」を組み合わせた造語。「日本の町工場が持つ“技から生まれる美しさ”」がコンセプトだ。

「その初代が定規で、2代目が精密バネメーカーの五光発條と一緒につくったカードスタンドです。どちらも自信作なのでお披露目する場があればと、昨年『工場マルシェ』というイベントを企画しました。自社製品づくりに力を入れている町工場14社が集まり、製品の展示やワークショップを開催するという内容です。その際、当社の製品が二つだけでは寂しいということになり、新たにつくったのが『CLIP』なんです」

技術PRの営業ツールとして品数の拡大を目指す

イベントは盛況のうちに終わり、「CLIP」は予想以上の売れ行きを示した。しかし、その後はほとんど反響もないまま、ときが過ぎていった。

「いくら良いものでも、使われなければ良さを分かってもらえません。しかも、これらは工場の技術力を広く知ってもらうための営業ツールでもあるので、売れてもらわないと意味がありません。それで注目を集めるきっかけになればと、『日本文具大賞2018』に応募したんです」

初めての応募にして、「CLIP」は機能部門の優秀賞を受賞した。普通のクリップにかつてない機能を追加したことに加え、町工場同士がそれぞれの技術や設備を生かして独自のプロダクトブランドを設立したというストーリーが評価された。その直後から複数の商社の引き合いがあり、東急ハンズや大手家電量販店の文具コーナーなどで扱われるようになる。現在、月平均300セットペースで売れているという。

「一定の注目を集める商品になって、純粋にうれしいです。ただ、いつまでもこの勢いが続くとは考えていません。幸い『CLIP』の受賞のおかげで、紙製品メーカーなど非金属の会社からもコラボの提案をいただいています。ぜひ、今後は異素材なども活用しながら、製品バリエーションを増やしていきたい」と落合さんはすでに先を見ている。

会社データ

社名:株式会社モールドテック

所在地:神奈川県藤沢市菖蒲沢430-4

電話:0466-48-0104

HP:http://www.pluto.dti.ne.jp/~m-tec/

代表者:落合孝明 代表取締役

設立:1982年

従業員:3人

※月刊石垣2018年11月号に掲載された記事です。

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