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こうしてヒット商品は生まれた! コッペパン

長さ約16~17㎝、幅約10㎝もある大きめのコッペパンに、お客さまがオーダーした具材を挟んで提供。コンビーフをトッピングしたオリジナル野菜サンド(427円税込)

盛岡市に創業し、今年70周年を迎えた福田パン。あんこやジャム、タマゴやコンビーフなど、50数種類ある中から選んだ具材を、コッペパンに挟んで提供するスタイルのパン屋さんだ。学生時代から慣れ親しんだ青春の味として、「盛岡市民のソウルフード」と呼ばれるようになった同商品を求めて、今では県外からも多くのお客さまが訪れる人気店となっている。

好きな具材を挟んで食べるどこか懐かしい味

民家もまばらな幹線道路沿いにある福田パン矢巾店。人通りが多い立地ではないにもかかわらず、お客さまがひっきりなしにやって来ては袋いっぱいに買っていく―。

一般的にベーカリーでは、棚の上に陳列されたパンから好きなものをトレーに取って、レジに持っていくスタイルが多い。しかし、同店に陳列棚はなく、注文カウンターがあるのみだ。カウンターの上にはメニュー表があり、50数種類の具材が並んでいる。あんこ、ジャム、ピーナッツ、チョコなどの「甘いもの系」と、ハム、タマゴ、コンビーフ、カレーなどの「調理系」に分かれ、お客さまが選んだ具材をコッペパンに挟んで渡す。「あんこ+バター」「タマゴ+コンビーフ」というように具材は2種類まで組み合わせることができ、選んだ具材に応じて値段が加算されるしくみだ。

「やはり甘いもの系では、『あんバター』が一番人気ですね。調理系は人それぞれですが、生野菜の上にタマゴやコンビーフなどをトッピングする『オリジナル野菜サンド』がよく売れています」と福田パン社長の福田潔さんは話す。

同社は1948年に潔さんの祖父・留吉さんが創業した。戦時中に京都のイーストメーカーの研究所で働いていた留吉さんは、終戦後、この会社が解散したのを機に郷里の岩手に戻ってきた。7人の子どもを養うため、メーカーで培った知識をもとにパンをつくり、店を出したのが始まりだ。

「もともと職人ではない上に、戦後の物不足で満足に材料が手に入らず苦労したようです。材料が手に入るようになってからは、戦前に岩手大学で助手をしていた関係で、大学の売店にパンを卸せるようになりました。学生のお腹をいっぱいにしてあげたいと、コッペパン1個でご飯2膳と牛乳1本分のカロリーになるように計算して、大きさを決めたそうです」

普通のパン屋さんからコッペパン専門店に

福田パンは当初、あんパンやジャムパン、クロワッサンなども扱っていて、売れ行きは好調だったという。むしろコッペパンは人気がなく、販路を大学や高校の売店、学校給食などに特化していた。次第にコッペパンの中にあんこやジャム、バターなどを挟んで売るようになり、食べ盛りの学生たちの胃袋をつかんでいった。

「ところがスーパーマーケットが登場して、そこで袋入りのパンが手軽に買えるようになると、店の菓子パンが売れなくなりました。一方、学校に卸しているコッペパンの売れ行きは好調だったので、徐々に菓子パンの製造を減らして、コッペパンをメインに扱うようになっていったんです」

2007年、同社は盛岡駅近くにある本店を、注文カウンターだけの店舗に一新し、コッペパン専門店としてリニューアルした。外観は昔懐かしい木造校舎をイメージしたつくりで、カウンター上のメニュー表も黒板風になっており、手書きで書かれている。

「その当時でメニューは40種類くらいあったと思います。祖父のころは中に挟む具材もうちでつくっていたんですが、種類が増えるにつれて賄いきれなくなり、今では全て専門メーカーにつくってもらっています。パンに塗るものなので、伸びをよくしたり、甘さを抑えたり、当時は珍しかった抹茶クリームを開発するなどして、いろいろ工夫しています」

おいしくてボリューム満点の「福田パン」は、本店と矢巾店のほか、盛岡市近郊のスーパーやコンビニ、高校や大学の売店で販売され、1日当たり1万個を売り上げる人気商品となった。

舌に味を刷り込んで末永く食べてもらいたい

同商品の認知を一気に押し上げたのは、2016年に放映された全国ネットのテレビ番組だ。そこで「盛岡市民のソウルフード」と紹介されるや人気が沸騰。県外からも多くのお客さまが訪れて連日行列ができるようになり、盛岡の観光スポットの一つに数えられるようになった。現在は少し落ち着いてきたものの、平日で1万2000個、週末には1万7000個を売り上げ、閉店時間を前にしてコッペパンが売り切れてしまうことも珍しくない。

その勢いに乗って潔さんが事業拡大を図っているかといえば、どうもそうではないようだ。 「わざわざ遠くから足を運んでもらって申し訳ないのですが、店舗を増やす気も、全国にチェーン展開するつもりもありません。うちはまちのパン屋さんとして、地元の人に食べてもらいたいんです。特に学生さんには、慣れ親しんだ青春の味として舌に刷り込み、長く食べてほしいので、売り上げは減っていますが高校や大学での販売をやめるつもりはありません」

その言葉を証明するように、同店ではあえてHPを開設していない。地元の人に愛される店であり続け、家族や従業員が食べていけるだけの売り上げがあれば十分だと言い切る。経常利益はなだらかに右肩上がりを続けているそうだが、「今がピークだと思っているので、売り上げが現在の8割くらいに落ち込んでも大丈夫なように設備を整えておきたい」と潔さんは、突然のブームにも冷静だ。

スーパーやコンビニなどではセルフレジが普及するなど、効率化が進んでいる。一方、福田パンでは注文しなければ買えず、効率化からは逆行しているように見える。しかし、そこには懐かしさや温かみがあり、人を引き付ける魅力の一つになっている。

会社データ

社名:有限会社福田パン

所在地:岩手県盛岡市長田町12-11

電話:019-622-5896

代表者:福田潔 代表取締役

設立:1948年

従業員:53人

※月刊石垣2018年10月号に掲載された記事です。

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