唐澤 剣也 (からさわ・けんや)
1994年7月3日群馬県出身。 群馬県社会福祉事業団点字図書館勤務。
T11クラス(全盲)の中長距離ランナー
新型コロナウイルスの影響で、東京パラリンピックは1年延期された。だが、「練習期間が増えてメダルを獲得する確率が増えたかなと思う。できることをやり切って、悔いなく来年を迎えたい」。そう前向きなのは全盲のランナー、唐澤剣也だ。昨年秋、UAEドバイで開かれた世界パラ陸上選手権の5000mで3位に入り、東京パラの代表内定をつかんだ。初陣での活躍が期待される新星だ。
陸上は部活動での経験はあったが、競技として本格的に始めたのは2016年。リオパラリンピックで活躍する視覚障がい選手の姿に心が動いた。「世界の舞台で走りたい!」
まず取り組んだのが、伴走者探しだ。先天性の目の病気で小学4年生で失明した唐澤は一人では走れない。「目の代わり」となる伴走者とロープを握り合い、路面状況やタイムなど視覚的な情報を伝えてもらい、走る。
頼ったのは盲学校時代の先輩で、鍼灸院を営み、学生や市民ランナーを多数治療する清野衣里子さんだ。
とはいえ、世界を目指すとなれば、伴走者の人生も巻き込む。心配する清野さんに唐澤は、「本気です」。
強い覚悟を受け止めた清野さんはまず、陸上コーチ経験もある星野和昭さんに相談。その後、トマト農家の茂木洋晃さんをはじめ、伴走者は少しずつ増え、チーム「からけん会」も発足。フルタイムで勤務する唐澤の朝晩や週末の練習から、合宿や大会の遠征まで、約12人の伴走者が交代でサポートする体制が整った。
距離走やスピード練習、筋トレなどを織り交ぜた練習サイクルも整い、真面目な努力家は着実に力をつけた。伴走者とも共に過ごす時間を重ねることで絆は深まり、チームワークも磨かれ、今では「互いに力を高め合える戦友」と絶対の信頼を寄せ合う。「頑張った分、記録が伸びる点が陸上の魅力」と本人も話すように、トラック種目からマラソンまでタイムを順調に縮め、18年には自身初の国際大会となったアジアパラ競技大会で金・銅メダルを獲得。19年世界選手権での快走へ弾みになった。
「東京パラでは表彰台に上がり、忙しい中で時間を割いて支えてくれる、多くの人たちに恩返ししたい」
夢見る大舞台に向かって、戦友たちとの二人三脚は続く。
陸上競技
走る、跳ぶ、投げる ―― 個人の能力競争を支えるチームワークにも注目!
視覚障がいの他、肢体不自由、知的障がいを対象とし、公平に競技ができるよう障がいの種類や程度によりクラスに分かれる。視覚障がいクラスは見え方の違いで3つに分かれ、障がいの重い選手は、走種目では伴走するガイドランナー、跳躍や投てき種目では助走の方向や踏切、投てきラインの位置などを音声で伝えるコーラーによるサポートも受けられる。
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