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こうしてヒット商品は生まれた! 朝の八甲田

地元でとれた材料と手づくりにこだわった「朝の八甲田」。一度食べると病みつきになり、リピーターも多い。10個入り1944円(税込み)

青森県八戸市を中心に洋菓子店を4店舖展開しているアルパジョン。同社のオーナーパティシエ松坂和治さんがつくったチーズケーキ「朝の八甲田」は、“4日間で35万個の注文が殺到”という伝説を打ち立て、現在も変わらぬ人気を誇っている。多くの人の舌を捉え、うならせた“ヒット”スイーツの道のりをたどる。

好評を博したが同時に危機感も

程よい甘味と爽やかな酸味。ふわふわなのにしっとりとした心地よい食感。普段洋菓子を食べていない人でも、きっとペロッと食べてしまうだろう。青森県にある“まちのケーキ屋さん”アルパジョンのオーナーパティシエ、松坂和治さんがつくったチーズケーキ「朝の八甲田」である。

同商品が誕生したのは、同店が創業した平成4年のことだ。

「このチーズケーキは、店の開店記念品として用意したものです。地元産の新鮮な卵と搾りたての牛乳、そしてチーズを使って、ふんわりと焼き上げた100%手づくりの自信作でした」と松坂さんは説明する。

創業後、同店はたちまちファンを獲得する。売り上げは年を追うごとに伸びて、店舗数も徐々に増えていった。そんな同店に転機が訪れたのは11年のこと。東京・新宿の高島屋で開催された、東北を代表する6人のパティシエを集めたスイーツフェアに出展したときだ。

「1週間の開催期間中は大盛況でした。『とてもおいしかったから、人にもあげたい』と、何度もチーズケーキを買いに来てくれるお客さまもいました。看板商品の味に確かな手応えを感じることができた反面、このままではダメだと思い知らされました」

その理由は、ネーミングだった。同商品は当時、「はいっチーズ」という名前だった。同店ではほかの商品にもシンプルな名前が多かったのだが、物産展で軒を並べた他店の商品には、一つ一つおしゃれで気の利いた名前が付いていた。これではケーキに込めたつくり手の思いが伝わらない。松坂さんはすぐさまパッケージのリニューアルを決め、福岡県の銘菓「博多通りもん」など多くの商品を手掛けたデザイナーに依頼した。何度も打ち合わせを重ねた結果、青森県の象徴ともいえる八甲田山の山裾に広がる朝もやの風景と、その地で育まれた食材を使っている自負を込めて、「朝の八甲田」に決まった。

食通芸能人の大絶賛で一気にヒット商品へ

心機一転、同商品の認知を広げようと、その後も積極的に物産展に出展した。名前の効果もあって、女性誌などに取り上げられるようになり、全国的に知られる商品となっていく。そして15年の秋、松坂さんが自宅で庭いじりをしていると、店のスタッフから1本の電話が入る。

「朝から電話が鳴りっぱなしで、『朝の八甲田』の注文が殺到しているというんです。急にどうしたのかと思えば、前日の夜に放映されたテレビ番組で、オペラ歌手の森公美子さんがこのチーズケーキを絶賛してくれたらしいのです。スタッフはしばらく電話対応に追われ、ほかのケーキをつくる余裕もなくなりました」

その後も注文は増え続け、一時は4日間で35万個の注文が舞い込み、最長で3カ月半待ちの状態となる。楽天市場の売り上げ総合ランキングでも、1位から10位を独占する快挙を成し遂げた。少しでも商品を早く届けようと、急きょ松坂さんは近くで廃業した工場を買い、郷アルパジョンという同商品の製造に特化した別会社をつくる。こうして生産力を強化してたまった予約の対応を終えたが、その後も人気は衰えず、現在も好調な売れ行きが続いている。

“青森”の詰まったケーキで地元を元気にしたい

八戸市出身の松坂さんは、高校を卒業後、パティシエを目指して日本一厳しいといわれたケーキ店に入った。その後、渡仏して本場のケーキづくりを学び、日本に戻って都内の洋菓子店で働きながら、コンクールに挑戦し続けた。数々の入賞歴が評価されて、都内の有名ホテルの初代パティシエにヘッドハンティングされたが、それを断って帰郷し、起業したのがアルパジョンだ。ちなみにアルパジョンとは、フランスの地名であり、洋菓子の世界的コンクールにも使われている名前だ。

「なぜ帰ってきたのかとよく聞かれますが、私は青森が好きなんです。元気を失いつつある故郷を、自分のつくるケーキで少しでも元気にできたらという思いがありました。店舗の外観もそうです。今ある四つの店は、どれもお菓子の家のようなつくりをしています。夜になるとイルミネーションの光をともして、さらにメルヘンなたたずまいになります。これも少しでもまちを明るく照らしたいという気持ちからなんです」

そう語る通り、松坂さんの洋菓子づくりの根底には“青森”がある。同商品はもちろん、ほかの洋菓子も地元の食材をふんだんに活用し、地元にまつわるエピソードが添えられている。青森の魅力が詰まった洋菓子を食べに観光客が訪れ、まちの活性化に貢献するのが夢だと言う。

そんな松坂さんが今年になって新たに挑戦したのが、コンビニとのコラボだ。コンビニ大手ローソンの青森出店20周年を記念して、5月から東北地方の1058店舗限定で「伝説のチーズケーキ 朝の八甲田」を販売している。「コンビニスイーツはそれなりの味」という先入観を覆したいと、製法はそのままに、健康を意識して免疫力を高める乳酸菌を加え、100kcal以下に抑えた一品だ。店舗ではバラ売りをしていない人気商品を手軽に買えるとあって、発売後2日間で11万個の注文が来たという。

「おかげさまで売れ行きは好調で、次は関東地方限定で販売しようという話も出ています。今後もいろいろな形で、ずっと語り継がれるものにしたい」とうれしそうに語る松坂さん。同商品の快進撃はまだまだ続きそうだ。

会社データ

社名:有限会社アルパジョン/郷アルパジョン

所在地:青森県八戸市下長2-1-25

電話:0178-20-5822

HP:http://www.arpajon.co.jp

代表者:松坂和治 代表取締役

設立:平成6年

従業員:60人

※月刊石垣2017年9月号に掲載された記事です。

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