事例1 らくらく走る!工・工連携で自転車用「エコギア」を製品化
FREE POWER(宮崎県宮崎市)
自転車部品などの企画・開発を行うFREE POWER。自社の特許を生かした製品づくりを目指し、金属加工会社や大学などと連携して、走行性能を高める「エコギア(エコ自転車チェーリング駆動装置)」の開発に成功する。これを世に出すため、事業支援会社などとも連携して認知度アップを図り、ジャパンブランドとしての普及を狙う。
通勤の経験から生まれたアイデア
もっと楽にこげたらよいのに……。自転車で坂道を上ったり、長距離走行するときなど、誰もがそう思うのではないだろうか。
「以前、私も自転車通勤をしていてきつかったので、楽にこげる仕組みを自分なりに追求して、『エコギア』に行き着いたんです」とFREE POWER社長の浜元陽一郎さんは振り返る。
エコギアとは、自転車の内輪ギアと外輪ギアの間に、ゴム製の蓄力材を組み込んだものだ(写真参照)。ペダルを踏み込むとゴムが圧縮され、その復元力を利用してギアを駆動させる。そのため、軽い力でこぐことができ、疲れにくい、膝に優しい、加速性がよいなどの特長がある。
浜元さんは平成19年ごろこの仕組みを思い付き、開発をスタートさせた。本業である社会保険労務士の仕事の傍ら、コツコツと試作を繰り返し、ついにゴムを内蔵したギアを完成。22年に日本で、翌23年には台湾と中国で特許を取得した。
「早速このアイデアを売り込もうと、ある自転車部品メーカーに試作を送ったんです。すると軽く断られてしまいまして……。とはいえ自信作だけに、どうしてもエンドユーザーに届けたかったので、自分で製品化しようと腹を決めたんです」
地元企業と連携して 製品化の第一歩を踏み出す
まずは試作品をつくろうと、金属加工技術に定評のある市内の鉄工所を訪ねた。当初、エコギアの厚さは5㎝ほどあったため、実用化するには薄くする必要があったのだ。ギアの仕組みに可能性を感じた鉄工所の社長は、「お金にはならんが、これを育ててみたい」と引き受けてくれた。互いの知恵を出し合って改良を重ね、ようやく厚さ約2㎝となり、薄型化に成功する。
「ただ、量産するには資金が不足していたので、まずは介護用品の杖(つえ)をつくって売ることにしました。従来品とは逆の発想で、あえて下部を重くし、バランスがとりやすいように工夫したもの。それを病院で扱ってもらったところ、通常1本2000円程度で買えるところを、1万円の値をつけても飛ぶように売れました」
資金が調達できた26年ごろ、思わぬ援軍が現れる。特許申請時に世話になった弁理士から、知的財産運用会社を紹介されたのだ。そこは価値のある特許を活用した事業をサポートしている会社で、かねてよりエコギアの技術に一目置いていたのだという。同社から「性能をデータ化した方がいい」とアドバイスされた浜元さんは、国士舘大学体育学部などと連携して、エコギアの学術的検証を行った。その結果、従来車と比べて加速性が約20%アップするほか、最大60%の疲労軽減効果があることなどが実証された。
次は認知度を高めるべく、展示会の出展に乗り出す。その際、エコギアを搭載した自転車の試乗会を行い、大きな反響を得た。NHKの情報番組に取り上げられたことも追い風となり、国内だけでなく海外の商社からも引き合いがあった。また昨年、FREE POWERの理念・理想を理解してくれた大阪のアサヒサイクルと、来年初めからのエコギア搭載自転車の販売に向けて準備中である。
「エコギアを発案してからというもの、これをどうつくり、どう売り出していくのか、最善の方法を模索し続けた結果、力を貸してくれる企業や団体との連携体が大きくなっていきました。私1人の力ではここまで製品を育てることも、可能性を広げることもできなかったでしょう」
しかし、連携する企業が多くなるほど、それぞれが違う方向を向いて力が分散してしまう恐れもある。そこは連携体のコア企業が先を読んで進む方向を決め、皆の力を集約させる強い指導力が必要だと浜元さんは言う。 「今後も各社との連携を一層強固なものにして、エコギアをジャパンブランドへと育てたいですね」
会社データ
社名:株式会社FREE POWER
所在地:宮崎県宮崎市吉村町曽師前甲3172-2
電話:0985-32-1362
代表者:浜元陽一郎 代表取締役社長
従業員:3人
※月刊石垣2016年9月号に掲載された記事です。
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