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コラム石垣 2014年3月1日号 丁野朗

今月下旬、高山市(岐阜県)で東京フィルハーモニー交響楽団による弦楽四重奏コンサートが開催される。これだけでは珍しくもないが、このコンサートで使用されるバイオリンやチェロなどの楽器には、いずれも「透漆」と呼ばれる半透明の春慶塗が施されている。イタリア・クレモナ市の弦楽器職人リカルド・ベルゴンツィさんと春慶塗師熊崎信行さんのコラボレーション作品である。楽器は木目が美しく際立ち、その色合いは50年後には、さらに独特の深みを増すという。

▼昨年、高山は訪日外国人宿泊客が20万人を超え、重要伝統的建造物群保存地区の素晴らしい街並みには多くの日本人客も訪れており、観光的に見れば絶好調だ。しかし國島芳明市長は、将来に危惧を抱いている。それは観光を支えてきた地域伝統工芸や町並み、景観、高山に伝わる食文化や作法など、先人たちが営々と築いてきた歴史と暮らしの文化を、これから先も長く維持できるかどうかという懸念である。

▼全般的に観光で成功している地域の市民は往々にして観光に冷たい見方をすることがある。車の渋滞や騒音、ゴミなどで迷惑を被ることがあるからだ。儲かるのは一部の観光事業者だけで自分たちには関係がないといった批判もある。

▼地域間競争に打ち勝つために、観光地は訪れる人の「あこがれの地(ブランド)」であり続ける必要がある。しかし市民が自地域の歴史や文化を忘れ、なりわいに元気がなければ地域の未来は危うい。「地域ブランド」とともに必要なのは地域への愛着と誇り、「地域プライド」である。自らの地域を誇れない住民には、本当の意味での「おもてなし」はできないからだ。

(公益社団法人日本観光振興協会総合研究所長・丁野朗)

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