インターネットを介して広く資金を集めるクラウドファンディングが注目されている。事業の資金調達に留まらず、地域活性化の起爆剤になると期待されているクラウドファンディングを取り入れた事例を紹介したい。
事例1 個人から集めたお金だからこそ経営者には誠実さが必要
豊中商工会議所 SABAR(大阪府豊中市)
大阪府豊中市の豊中商工会議所は、会員企業向けにクラウドファンディングの仕組みを使った「CCIファンズ」を平成25年から提供している。どのような企業がクラウドファンディングに向いているのか、どのような利用が適しているのか、その狙いと成功事例を探ってみた。
広く知ってもらうためにモデルケースをつくりたい
平成19年、豊中商工会議所は、公的資金で組成された「おおさか地域創造ファンド」の活用を促進する豊能地域活性化推進協議会の事務局を務め、中小企業を支援していた。しかし、このファンドは助成金のため必要資金の全額を調達できるわけではなく、1000万円という上限もあった。
助成対象も開発型企業が中心。また、これから本格的に販路開拓を、というときに助成期間が終了してしまうという問題もあった。そこで経営指導員の吉田哲平さんは、一般個人が共感する企業に資金を投じる「クラウドファンディング」の活用を思い立ったが、まだ知名度が低く、なかなか実現には至らなかった。
しかし、クラウドファンディングの活用促進が25年6月に公表された国の成長戦略(日本再興戦略)に盛り込まれたことから、流れが変わりはじめた。大阪府も、中小企業の資金調達の多様化を進めるためにクラウドファンディングを活用する方向に舵(かじ)を切ったのだ。
同月、大阪府はクラウドファンディングの活用に実績のあるミュージックセキュリティーズの地域子会社である大阪セキュリティーズを「クラウド型ファンド活用促進事業」の委託先に決定。大阪府はこの事業を通じて中小企業のクラウドファンディングに対する認知度を高めるとともに、商工会議所など府内各団体に有望プロジェクトの発掘促進を呼びかけた。なお、この事業は現在も「クラウド・ファンディング等支援ツール活用促進事業」として継続中だ。
大阪府の方針が示されたことから豊中商工会議所は素早く反応した。大阪セキュリティーズと提携して少額投資型クラウドファンディング活用支援サービス「CCIファンズ」を立ち上げたのだ。
吉田さんは「CCIファンズを広く知ってもらうためには、企業に使ってもらい、モデルケースをつくることが必要」と考えた。早速、これまで資金を必要としていながら助成金が使いにくかった販売型企業を中心に声を掛けてまわった。その結果、ユズを使ったコスメ商品の売り出しを考えている企業、たこ焼き器の製造・販売企業、そしてサバ寿司の製造卸販売の「鯖や」の3社との具体的な話が進んでいった。「鯖やの社長・右田孝宣さんは『やりましょう』と即答でした」(吉田さん)
資金調達だけでなく新規事業のPRも狙う
右田さんが即答した理由の一つに、同時期にクラウドファンディングが新規事業として考えていたとろさば料理専門店SABAR(サバー)に合っていることがあった。
「見知らぬ会社に投資をしてもらうためには、投資家の共感を得られなければなりません。サバ料理専門店は他にない業態です。ファンドを通じて国内のサバファンに私の〝サバ愛〟(サバに対する深い愛情とサバ料理一本に賭ける情熱)を知ってもらえれば、必ず共感してもらえるし、それが上得意客の獲得にもつながると考えたのです」
右田さんは、1年間に3店舗(大阪2店・東京1店)を出店するためにファンドも3本組成した。
「ファンドを組成するためには比較的高額な手数料(今回のケースでは約80万円)が掛かります。しかし同じ内容であれば2本目以降は安く(約20万円)なるので3店舗分の資金3500万円を調達しようと決めました」
世界でも珍しいサバ料理専門店3店舗をクラウドファンディングを使い、短期間に立ち上げればマスコミの話題にもなるという目算もあった。つまり、右田さんはクラウドファンディングを資金調達だけでなく、新規事業のPRのために利用しようと考えたのである。吉田さんも「助成金とは違い必要な資金を全額調達することもできますが、単純な資金調達目的では使わない方がいい。右田さんのような『ファンづくり』の仕組みとしての使い方は理想的ですね」とアドバイスする。
組成した3本のファンドには順調に資金が集まり、無事に予定通り3店が開店した。成功の要因は何か? サバ好きな投資家から見ると「SABARファンド」に投資すれば、サバ料理が食べられるようになる上に、1口当たり3150円相当のサバ寿司がもらえるという楽しみがある。また、店が利益を出せれば出資金も戻ってくる。つまり、応援する投資家側にも大きなメリットがあるわけだ。第1号「SABARファンド」は5年償還の予定が2年で、第3号のファンドに至っては3年償還が1年償還という最速償還になりそうだという。
右田さんは、クラウドファンディングを利用する心構えについて、「集まったお金は一般の個人の大切なお金です。融資のプロが十分な審査の後に貸す資金とは違う性格のものなので絶対に失敗するわけにはいきません。だから余計に経営者は誠実である必要があると思うのです」と真剣な眼差しで語る。
スタートには最適だが後々は自力で調達すべし
SABAR展開後の鯖やの売り上げは順調に推移している。将来的には売上100億円が目標と夢も大きい。新たなステージを目指して事業にまい進する右田さんだが、今後は、新たにクラウドファンディングを使って資金を集める予定はないという。
「クラウドファンディングは新規事業のスタートアップには最適な方法だと思います。事業の固定客づくりと資金調達が同時にでき、広告効果も見込めますから。でも、事業が軌道に乗って金融機関の信用が得られ、お客さまの心をつかむ仕組みを構築できたら、IPO(株式公開)などの手法も含め自力で資金調達をしていくべきです。その方が企業側にもメリットがあります」
吉田さんも「CCIファンズは企業あるいは事業の成長ステージでいえば初期段階のアーリーステージでの利用を想定しています。ただ、業態により向き不向きがはっきりしているので、まずは商工会議所に相談していただきたいですね」と説明する。また、手軽なイメージのあるクラウドファンディングを活用した資金調達は簡単ではないと警鐘を鳴らす。「クラウドファンディングはネットで簡単に資金調達ができると思われがちですが、実は綿密な事業計画と財務内容の透明化、共感を呼ぶ経営者の訴えが不可欠なのです」
事業スタート時に頼りになるクラウドファンディング。決して万能薬ではないが、志の高い経営者には大きな助けになりそうだ。
会社データ
社名:株式会社SABAR
住所:大阪府豊中市庄内栄町4-21-40
電話:06-6335-2204
代表者:右田 孝宣 代表取締役
従業員:62人(パート含む。27年6月現在)
※月刊石垣2015年11月号に掲載された記事です。
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