事例2 地元に密着した中小企業の国産材への熱い思い
恵那楽器(岐阜県恵那市)
恵那楽器は、バイオリンやマンドリン、チェロ、コントラバスなどの弦楽器を製造・販売している。この地で創業して60年、弦楽器を手づくりで、大量生産している同社の伊藤英彦社長に、国産の木材を使うことにこだわる理由を聞いた。
弦楽器製作に適した環境
ギターやバイオリンに代表される弦楽器は、弦が振動することにより発生する音を増幅するための共鳴体が必要となる。その多くに使われているのが木材である。そして木材の質は、楽器の音の良し悪しに大きく関わってくる。
緑豊かな笠置山の山麓、海抜500m。年間を通して湿度が低く、楽器製作に適した気候の地域に恵那楽器はある。恵那の楽器づくりは、日本で最初の世界的なバイオリン製作者である鈴木政吉氏が名古屋で創業した鈴木バイオリンが、戦時中の空襲を避けてこの地に工場を移してきたのがその始まりだった。伊藤社長はこう説明する。
「戦後、鈴木バイオリンが名古屋に戻ったことにより、昭和29年にこの工場が恵那楽器として独立しました。以来ずっと鈴木バイオリンの子会社としてバイオリンやギターを製造してきました」
1970年代、若者の間に広まったギターブームにより業績は急上昇。ギターの生産数は多いときで月産1万本を超えていたこともあったという。そのほか、バイオリンは月産1000本、マンドリンも1200本で、約160人もの従業員が生産に従事していた。
「しかし、だいぶ前にギターブームは終わり、バイオリンも中国製の安いものが入ってくるようになりました。現在の月産量はバイオリンが約150本、マンドリン40本です」
生産本数は最盛期に比べるとかなり落ち込んだものの、その製造技術を生かし、全て手づくりで量産する珍しい弦楽器メーカーとなっている。伊藤社長はこう胸を張る。
「ほかは分業生産でやっているところがほとんどで、うちのように最初から最後までやっているところは日本にはありません。世界でもほとんどないと思います」
国産素材にこだわりたい
現在、恵那楽器が主に製作しているのは、自社ブランドの「Ena Violin」。お手頃な価格ながらもつくりや仕上げは非常に精巧で、素材も日本産の木材を多く使用。一本一本の質にこだわりをもった製品となっている。
「材料となる木材は7割が国産、3割が外国産。国産だけにこだわりたかったのですが、製品の価格競争的にも安い外国産を使わざるを得ない部分もあるのです。また、国産の木材だけでは生産が間に合わなくなってしまったという面もあります」
以前は木材を丸太で買い、それを5~6年寝かせておいてから使うというサイクルを繰り返してきた。だが生産数の減少と資金面の問題でそのサイクルが2~3年になり、1年になりと、徐々に短縮せざるを得なくなっていった。伊藤社長は表情を曇らせるが、それでもやはり国産の素材にはこだわっていくと断言する。
「国産にこだわる理由は、やはりメード・イン・ジャパンの楽器を製造していきたいから。現状では全て国産というわけにはいきませんが、できるだけ多くの国産材料を使っていきたいですね」
バイオリン本体の表板に使われるスプルース(マツ科の一種)と裏板、側板、ネックなどに使われるメープル(カエデ)は国産素材。北海道産のものを使っている。
「北海道産の木は、寒いところで育ったために木目が締まっている。楽器の材料としてほどよく硬く、加工もしやすい。それに比べると外国産は木目が締まっていません。これが音に大きく影響します。木目が細かいほど音が良く、きれいに仕上がるのです」
岐阜県の木の活用にもチャレンジしていく
恵那楽器は笠置山の森林に囲まれた場所にあるが、実は楽器の製作に地元の木材は使われていない。国産の木材は北海道産だ。地元とはどう関わっているのだろうか。
「従業員は地元の人たちばかり。技術を持ったOBの方々も数多くいます。なので忙しいときには無理をきいてもらえるし、手伝ってもらっています。また、地元のコミュニティセンターにバイオリンとマンドリンを提供し、地域の人たちが気軽に楽器に触れられるようにしています。ここは田舎ですが、マンドリンのクラブが一つ、バイオリンのクラブが二つもあるんですよ」(伊藤さん)
岐阜県のヒノキ、スギ、マツといった木は楽器の素材としては使えない。しかし、地元木材の活用も、検討を進めているところだ。
「うちは木材を加工する技術を持っているので、楽器に限らず、何かアイデアがあれば製作していきたい。実際、バイオリンの置き物をつくるというアイデアをいただき、試作品をつくったところ、これが岐阜県から名産品として認められ、販売されるようになりました。これ以外にも、バイオリンの形をしたお弁当箱なども考えています」
本業の弦楽器づくりも、地道な努力が認められ、新たな取引の話が進行中だという。このように山の中にある楽器工場が、再び活気を取り戻そうとしている。
「これが決まれば、また忙しくなります。その後は新たな製品にも取り組んでいきたいですね」
会社データ
社名:恵那楽器株式会社
住所:岐阜県恵那市中野方町2618
電話:0573-23-2311
代表者:伊藤英彦 代表取締役社長
従業員:20人
※月刊石垣2015年10月号に掲載された記事です。
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