事例3 行政単位を越えて商工会議所間の連携を図りたい
日田商工会議所(大分県日田市)
日田商工会議所の歴代正副会頭には必ず林業・木材産業関係者が選ばれている。それほど市の経済界にとって林業・木材産業は歴史があり、重要な存在なのだ。しかし同市に限らず全国的に林業・木材産業が衰退の方向へ向かっていることも事実。そんな中で、日田市は平成27年3月、「新しい日田の森林・林業・木材産業振興ビジョン」(日田もりビジョン)を策定し、将来を見据えた林業・木材産業再生への第一歩を踏み出した。
林業関係者の声を吸い上げて行政に届ける
24年時点の市の全産業における林業・木材産業の割合は事業所数で5・4%(235事業所)、従業者数で7・0%(2008人)とピーク時から大きく減少している。特に衰退が著しいのは家具・装備品の分野で8年と24年の比較では事業所数で97社から65社へ、従業者数で1298人から601人へと大きく減っている。
そうした状況の中で日田商工会議所は林業・木材産業再生にどのように関わっているのだろうか。副会頭の瀬戸亨一郎さんは「振興策の実施は日田木材協同組合や家具工業会などの団体、それらを構成している組織に主体となってやってもらっています。商工会議所は彼らの声を吸い上げて行政に意見具申をするという立場です」と説明する。日田もりビジョンを策定するにあたり、会頭の立場で髙山英彦さん、日田木材協同組合理事長の立場で瀬戸さんが委員として参画している。
日田で木造建築を設計できる人材を育てる
日田もりビジョンには「公共建築物等における木造化・木質化の推進」を目標の一つにしている。国は22年に「公共建築物における木材利用の促進に関する法律」を施行、市でも23年に「日田市公共建築物等における地域材の利用の促進に関する基本方針」を策定し、公共施設の木造化を推進している。そのため市の学校や公民館などは木造化・木質化が進んでいるが、全国的にはまだ緒に就いた段階にすぎない。今後、公共建築物の木造率が向上すれば木材需要は大きく拡大する。ところが話は、そう簡単ではなかった。
「大学の建築学科には木造建築に関するカリキュラムがほぼないといえます。木造建築を教えることができる先生も非常に少ない。一級建築士試験には木造建築に関する問題が出題されないので、学生の勉学意欲は低く、また勉強したいと思ってもする場所がないのです」。瀬戸さんは「これでは木造化・木質化の掛け声だけで前へは進まない」と、市内で中・大規模の木造建築を設計できる建築士を育てる目的で「木造建築普及促進セミナー」を企画した。講師には東京大学や大分大学などから著名な教授を招き、林業・木材産業の実態、木質系材料の知識、木造建築物の実態と課題といった講座を5カ月間、毎月1回2日間の日程で実施した。受講資格は1級建築士(および準ずる人)で受講料に加え旅費・宿泊費などは自己負担だ。「行政にも木造建築に対する理解を深めてもらうため県職の建築土木系の担当の方にも出席をお願いしました」(瀬戸さん)
受講生が集まるのかという懸念の声もあったが、ふたを開けてみると想定の2倍の20人が集まった。瀬戸さんは「今年度は終了しましたが、来年度以降も実施して2期生、3期生を輩出していきたい」と期待する。
日田もりビジョンの結論は「再クラスター化」である。これまでの日田地域のクラスターは「業種で分かれた協議会や組合は多数あるが、業種横断的なつながりは少ない」状態だった。これを再クラスター化によって有機的に結びつくように柔軟に配置するための取り組みが始まっている。だが、簡単に実現できる話ではない。
県域ではなく圏域で動きたい
そこで瀬戸さんは、商工会議所レベルで実現できる再クラスター化は何かと考えた。林業・木材産業を省庁の管轄でみると、川上は農林水産省となり「森林組合」や「森林所有者」などがいる。川中は経済産業省で「木材流通」「製材」「産業資材」「家具・木工業者」。川下は国土交通省で「木造建築」「土木」「リフォーム」といった事業になる。いくつもの省庁が介在し、さまざまな業種が複雑に絡みあっている。
「本来なら省庁間の垣根を取り払って取り組むべきですが、これを崩すのは難しい」ことから発想を変え、川上を「豊かな森林資源を持ちながら木材需要の少ない小さな都市」、川中を「木材加工流通が充実した中規模の都市」、川下を「旺盛な木材需要を持つ大きな都市」に再区分けした。つまり業種間の連携は難しいかもしれないが、まち同士、商工会議所同士なら管轄にこだわらず商圏をターゲットに連携できるはずと考えたわけだ。「川上には資源があり、川下には需要があります。県域を越えて商工会議所が連携することによって再クラスター化が進むと期待しています」(瀬戸さん)
市の林業・木材産業の再クラスター化を進める上で、今後も商工会議所が果たす役割は大きなものとなりそうである。日田の林業・木材産業の再生が楽しみだ。
※月刊石垣2015年10月号に掲載された記事です。
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