事例1 木材の「地材地消」を目指す
ハルキ(北海道茅部郡森町)
製材やプレカット加工販売を主事業とするハルキ。市場に輸入材が減少してきたのを機に、北海道南部(道南)地方に生育する地域材「道南スギ」に着目。その特性を生かした建材や遊具を開発するとともに、木の良さを伝える木育活動などを通じて、地域の木材を地元で消費する「地材地消」に取り組んでいる。
北限に生育する「道南スギ」に活路を見いだす
森林が総面積の約7割を占める北海道。代表的な樹木に、針葉樹のトドマツ、カラマツ、エゾマツ、広葉樹のミズナラ、カンバ、ブナなどがある。道南地方では、スギが針葉樹の約4割を占めており、古くから建築用材として活用されてきた。
昭和35年、そんな道南の地で創業したのがハルキだ。当初は木の伐採や植樹、まきの切り出しなどを行っていた。しかし、高度成長とともに地域材が切り尽くされ、輸入材に取って代わられたのを機に製材へとシフトする。木造住宅の柱や梁(はり)の継ぎ手や仕口(しぐち)を、機械で加工するプレカットシステムを構築し、事業を拡大していった。
「耐久性があり、軽量で加工もしやすいことから、主にウエスタンレッドシダーという高級無垢(むく)の外壁材をつくっていました。ところが10年ほど前から、アメリカでの生産量減少や中国需要の増大、円高などの要因で、ウエスタンレッドシダーがあまり入ってこなくなったため、それに代わる木材として目を付けたのが、この辺りだけに生育する『道南スギ』でした」と同社社長の春木芳則さんは、経緯を説明する。
道南スギは、ウエスタンレッドシダーに見た目が似ている。ウエスタンレッドシダーと同じく芯部が赤いのだ。さらに厳しい気候のせいで成長が遅い。その分、身が詰まっており、弾力性や断熱性にも優れている。そんな特徴を生かして加工した外壁材やデッキ材が、北海道有数のリゾート地であるニセコのペンションやログハウス、コンドミニアムなどに採用された。すると、たちまちその評判が広がり、札幌市内の一般住宅からも注文が来るようになる。そうしたニーズを追い風に、同社はさらなる道南スギの活用に乗り出していく。
もっと木に親しめる機会をつくっていきたい
ちょうどそのころ同社に入ったのが現在、企画開発室長と総務部長を兼務する鈴木正樹さんだ。かつて東京でIT企業に勤めていた経験が買われて、道南スギをPRする仕事を任される。その一つが、地元の幼稚園からの要請で始まった工場見学だ。
「道南スギは、一切無駄なところがありません。内側の赤い部分は外装材に、外側の白い部分は垂木(たるき)や内装材に適しています。端材は細かくチップにして製紙工場に送ったり、木炭にしたり。皮も木材乾燥や暖房の燃料に使えます。当初はそんなことを説明しながら工場を回るだけでしたが、子どもたちがすごく楽しそうに木に触っているのを見て、もっと木と親しめる機会をつくりたいと思うようになったんです」
そこで鈴木さんは、平成22年に北海道が創設した「木育マイスター」の資格を取得。その第一期生として、木でものづくりをする木工体験、アスレチックでの冒険遊び、森の自然体験などバラエティーに富んだイベントを企画し、毎回多くの参加者を集めては、木の良さの周知に努めている。
それと並行して力を入れたのが、建物の目に見えるところに木を取り入れる取り組みだ。例えば、マンションの外装に木を使いたいと、1階ベランダ部分にウッドデッキを設置するデザインを創作。前例のないプランだったため新規性が認められ、林野庁の森林整備加速化・林業再生事業の採択を受け、事業化して成功した。
また、函館空港から「地域の人にも気軽に来てもらいたい」という要望を受け、木製の遊具スペースを発案する。26年10月、空港内に迷路や滑り台、トンネルなどのユニットを組み合わせた「ハコダケ広場」がオープンすると、それを目当てに訪れる利用客が大幅に増加した。
地域材の活用からさまざまな可能性が生まれる
今年に入り、建物の「木質化」の流れが加速している。「木質化」とは、内装に木材を使うこと。地域材を消費できるほか、利用者に過ごしやすい環境を提供できることからも注目を集めている手法だ。来年3月の北海道新幹線の開業に合わせ、その玄関口となる木古内(きこない)駅前に地域材を使った木造の観光交流センター(道の駅)が建設中だ。このほかにも、駅前に屋台をつくろうという企画も持ち上がるなど動きが加速している。
「これから本格化する予定なのが、病院です。木でできた空間にいるとホッとして、何となく癒やされるでしょう? その効果を生かして、内装に木を使います。ただ、衛生上の課題もあるため、研究機関と連携して実験を行ったり、病院関係者にアンケートをとっています。興味を持ってくれるところが多いので、問題がクリアされたら一気に具体化すると思っています」(鈴木さん)
このほかにも、道南では木質バイオマス燃料や道南スギを使った防火木材の開発、里山づくりなど、さまざまな事業が進行している。ただ、かつて地域材が切り尽くされた時代に植樹した木が、そろそろ成熟期を迎えつつあるものの、その3割強しか活用されていないのが現状だという。春木さんもこう続ける。
「こうして地域材が活用されれば地元の林業も活性化し、森林環境が良くなって、山、川、海もきれいになります。自然を守る意味でも、今後も積極的に地材地消を進めていくつもりです」
新たな使い道を模索し、企業や行政、大学などと連携しながら新商品・新技術を着実に形にしている同社は、今後の林業の方向性を示唆しているようだ。
会社データ
社名:株式会社ハルキ
住所:北海道茅部郡森町字姫川11-13
電話:01374-2-5057
代表者:春木芳則 代表取締役社長
従業員:59人
※月刊石垣2015年10月号に掲載された記事です。
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