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テーマ別企業事例 医工連携で切り開く未来

これまで医療分野とは全く関係のなかった小さな製造会社が、医療分野の機関と連携することで、もともと持っていた高い技術力を生かし、新たな市場開拓に取り組んでいる。今号は、自社の強みを生かしながら医療関連産業で活路を見いだしている事例を紹介する。

事例1 金属加工会社が医療ロボットを開発

アイザック(福島県会津若松市)

「私は以前から、ここのほかにサーバーメンテナンスの会社を運営していますが、その知識や技術もロボット開発に役立っています」と語る馬場法孝さん

東北初のロボット開発会社、アイザック。病院や医療福祉関連企業、ロボット開発メーカーや大学などと連携をとりつつ、医療介護ロボットや危険現場作業ロボットなどの開発に取り組んでいる。もともとは金属加工を扱っていた会社が医療分野に飛び込んだ理由には、地域の抱える〝必然〟があった。

医療・介護現場の人手不足を解消したい

JR会津若松駅から南東方向に約2㎞。市街地の比較的閑静な一角に、ロボット開発会社アイザックはある。設立して3年余り。事業の柱は、医療介護ロボットと危険現場作業ロボットの開発だ。どちらも形は出来上がっているが、機能性の向上や細部の問題解決に向けて日々ブラッシュアップに努めている。同社のルーツは、九州のテムザックと金属加工、FA事業、地域プロバイダーを手掛ける会津エンジニアリングだ。この両者の加工技術を見込んで、市内にある会津中央病院が医療介護ロボットの共同開発を打診したのがことの始まりだ。同社企画部長の馬場法孝さんは「医療や介護の現場では、体の不自由な人の介助作業に費やす時間と労力が大きな負担になっていて、また人手も不足しています。会津中央病院はそうした現状に危機感を覚え、その不足を補ってくれるロボットの開発を、会津エンジニアリングに持ちかけて来たんです」と振り返る。

世界中でIT企業がロボット産業に参入し始めている昨今だが、地方の中小企業にとっては未知の領域だ。そこで会津中央病院、医療福祉関連企業、ロボット開発メーカーの草分け的存在であるテムザックから数人ずつスタッフを集めた別会社としてアイザックを設立。会津エンジニアリング社長の馬場優子さんが社長に就任し、それぞれが連携しながら開発をスタートした。

各専門機関、現場の声を聞きながら試行錯誤の日々

まず取り組んだのが「移乗・移動ロボット」である。自力で歩けない人にとって、〝移動〟にはいくつものステップがある。例えばトイレに行く場合、ベッドから車いす、車いすからトイレへと〝移乗〟しなければならず、付きっきりの介助が必要となる。介助をする人にとって重労働であるとともに、介助を受ける人としても、バランスを崩して転倒するなどのリスクがある。

そうした負担を軽減する役目を果たすのが、移乗・移動ロボットだ。移乗の際に大変なのは、体の向きを旋回させること。体の向きを変えずに移乗できる車いす型ロボットがあれば、腰をスライドさせて車いすに乗り、そのまま目的の場所まで移動して、トイレに着いたらまた腰をスライドさせればいい。自力で腰をずらす動作ができる人なら、介助なしでの移動も可能になる。福岡県で約20年にわたりロボットを開発しているテムザックが、そんな車いすロボットのコンセプトモデルを開発し、それを基に試作に取り組んだ。

「試作は、初期段階から会津中央病院や関連の介護施設の患者や入所者、その方に日常接している現場のスタッフの声を聞きながら進めています。試作機が完成したら病院と施設に持ち込んで、ユーザーテストを実施し、また声を集めて改良するという感じです。現在3号機までつくりましたが、『上半身が後ろに倒れることのないよう、背もたれをつけられないか?』と指摘されています。日々試行錯誤ですが、確実に製品化に向かっています」

医療分野と並行して、開発を進めているのが「危険現場作業ロボット」だ。これは東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を間近で体験し、原発廃炉活動をはじめ、大規模災害時の救助活動や復旧活動を行う最先端のロボットの必要性を感じたことが製作のきっかけになっている。

そこでこの技術分野をリードする千葉大学などと提携。広範囲に調査業務が行える「自律飛行ロボット(ドローン)」、災害現場や危険地域でも遠隔操作で情報収集・作業のできる「危険現場作業用小型ロボット」、お年寄り世帯が重宝する「除雪ロボット」などの製作に取り組んでいる。これらの新戦力の完成には各方面から大きな期待が寄せられている。

ニーズに沿った受託開発で新たなロボットを開発

同社が開発するロボットは、いずれも高度な機能が要求され、多額の開発資金が必要となる。そのため、補助金などを最大限活用している。例えば、医療用ロボットはふくしま医療福祉機器開発補助金、危険現場作業用では復興関連の補助事業や県災害対応ロボット等開発費補助金に公募申請し、採択されたものだ。

しかし、いつまでも補助金頼みで開発を続けていては、なかなか収益には結びつかない。そこで同社では、企業や自治体などのニーズに沿った機能を持つロボットの「受託開発」にも積極的に取り組んでいる。馬場さんは新たなロボットが実際に活躍する姿を楽しそうにこう語る。

「大手医薬品卸会社からの依頼で、小ロットの医薬品を運べる電動走行台車をつくっています。物流施設内でも小回りがきいて、手すりを前に押すと前進し、左方向に押すと左折するという機能を搭載したものです。また、珍しいものでは、アイガモ農法のアイガモに代わる水田除草ロボットも製作中です。ロボットが水田内を動き回ることで雑草の種子が土壌に定着するのを抑制する仕組みなんですが、早く水田で働く姿を見たいですね」

社員一人ひとりが持ち前の専門性や強みを生かし、連携する各機関と良好な関係を保ちながら開発を進めていることから、製品化する日もそう先のことではないだろう。大きな期待と責任を背負っているロボットたちが、現場で活躍する日が待ち遠しい。

会社データ

社名:株式会社アイザック

住所:福島県会津若松市行仁町9-28

電話:0242-85-8590

代表者:馬場優子 代表取締役社長

従業員:8人

※月刊石垣2015年10月号に掲載された記事です。

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