事例2 健康に特化した靴下で販路を開拓
コーポレーションパールスター(広島県東広島市)
創業以来、靴下ひと筋に製造販売してきたコーポレーションパールスター。平成3年に法人化したころから、一般靴下の製造をやめて健康関連商品に特化し、産官学連携の下で持続保温靴下や転倒予防靴下などを世に送り続けてきた。昨年発売した「むくみ対策靴下」は、同社初の一般医療機器の認定を受け、多くの人に支持されている。
一般靴下から健康靴下の製造にシフト
健康的な体を支えているのは足、といっても決して過言ではない。例えば、足に何らかの問題を抱えていると、腰痛や膝痛、頭痛や肩こりを引き起こす原因となる。また、ふくらはぎは「第二の心臓」とも言われ、足先の血液を心臓に戻すポンプとして重要な役割を果たしている。靴下は、そうした足の働きを左右しているといえる。
今年創業100年を迎えたコーポレーションパールスターは、そんな靴下をひと筋に製造販売してきた会社だ。当初は一般の靴下を扱っていたが、ほどなく旧陸海軍の指定監督工場となって軍足を製造。戦後は再び一般の靴下に戻り、厚手で丈夫な二重靴下などの製品づくりに力を入れてきた。ところが、平成3年に法人化したころに方針を転換する。一般靴下の製造をやめ、全て健康関連商品へと切り替えたのだ。同社社長の新宅光男さんはこう説明する。
「実はその前から、帝人が開発したテビロンという保温性の高い繊維を使った健康靴下をつくっていたんです。その愛用者に糖尿病を患っている方がいて、『靴下を何枚重ねても足先が冷えて困っていたけれど、ここの靴下をはいたらまったく冷えなくなった』と喜ばれたことが妙に心に残って。大手メーカーと差別化する意味でも、健康に特化していこうと決めたんです」
当時は、現在ほど健康が注目されていた時代ではなく、「予防医療」という言葉もまだ一般的ではなかった。しかし、同社はいち早く「病気にならない」ことに着目し、「健康に良い靴下」という独自路線を歩み始めたわけだ。
予防医療より美容効果をアピール
平成16年、同社は経産省の中小企業ベンチャー挑戦支援事業に応募し、広島大学大学院と連携して「二重あぜ編み靴下」を開発する。あぜ編みとは凹凸状にする編み方で、中に空気層ができることから温かさが持続し、足の汗を吸ってもすぐに湿気を逃がすため蒸れないのが特徴だ。同商品はユーザーだけでなく各方面から高く評価され、数々の賞を受賞した。
次に着目したのは、「転倒予防」というキーワードだ。「加齢とともにだんだん歩幅が狭くなり、すり足になって小さな段差にもつまずきやすくなります。高齢者の場合、転倒して骨折でもすると、そのまま車いすの生活になってしまう可能性が高い。それを防ぐには、靴下に足先をきちんと持ち上げる機能を付ければいいんじゃないかと思ったんです」
平成19年、足の甲の部分に縮む力の強い特殊編みを施し、歩行時に足先が自然に上がるよう設計した「転倒予防靴下」が完成。新宅さんにとっても自信作で、病院や介護施設、百貨店の介護用品売り場などを販路に売り出した。しかし、こちらは思うように売れなかった。
「売れない理由がわかりませんでした。それで当時80歳を超えていた母親に『転倒予防になるから使ってみてくれないか』と頼んだら、『私にはまだ早い』と言われ、これかと。いくつになっても、元気に歩けるうちは自分が転ぶなんて思っていないんです。それを予防になるからと勧めるのは、余計なお世話というもの。上から目線だったなと反省しました」
そこで新宅さんは、別のアプローチを考えてみた。足先が持ち上げやすいということは、自然に歩幅が広くなり、目線も上がるため姿勢が良くなるのではないか。そうした美容効果を広島大学大学院での実験で実証し、「後ろ姿が7歳若く見える」をキャッチフレーズに「どんどんウォーク」と商品名を変更した。さらに、理美容品として美容院にも置いてもらえるよう新たに営業をかけたところ、その読みが当たって急速に売り上げが伸びていった。
大手メーカーとは逆の発想で活路を見いだす
次に取り組んだのは、平成24年に広島県が策定した「医療関連産業クラスターアクションプラン」の支援制度を活用した「むくみ対策靴下」である。立ち続けるとふくらはぎがむくむ。その結果、足先まで届いた血液を心臓に戻す働きが弱くなり、全身の血流を滞らせてしまう。その改善を目的とした膝丈のストッキングだ。
大手メーカーをはじめとする他社製品は強い締め付けにより、足先の血液を強制的に心臓に戻そうと、足首辺りの締め付けが最も強く、上に向かってだんだん緩くなる構造になっている。しかし、同社が考えたのは、まったく逆の仕組みだ。
「若い人ならそこそこ筋肉があるからいいんですが、高齢者や筋肉の少ない人に締め付けの強いストッキングをはかせると、かえって血流を悪くするおそれがあります。それに大手と同じようなものをつくっても、当社のような中小企業では太刀打ちできません。そこで当社では逆に『締め付けない』ことをコンセプトにし、足先を持ち上げやすくすることでふくらはぎの筋肉を刺激し、血流を促すことにしたんです」
県立広島大学保健福祉学部と一緒に開発を進め、試作のたびに県立病院の看護師にモニターテストを実施。締め付けなくても血液やリンパの流れを促す効果を確認したことで、昨年3月に販売を開始した。むくみの軽減はもちろん、姿勢を良くする効果も併せ持つため、当初から女性の注目を集めることに成功した。また、靴下分野では珍しい「一般医療機器」の認定を受けたことで、病院や介護施設での反応もよく、高いリピート率を維持しているという。
超高齢化社会となりつつある今、人々の健康意識は高まり、「予防医療」も一般的な言葉として認知されるようになった。誰もが毎日身につける靴下に「健康と美容」という付加価値を付けてきた同社は、新たなビジネスモデルを切り開いたと言っていいだろう。
会社データ
社名:株式会社コーポレーションパールスター
住所:広島県東広島市安芸津町三津4424
電話:0846-45-0116
代表者:新宅光男 代表取締役社長
従業員:31人(パート含む)
※月刊石垣2015年10月号に掲載された記事です。
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