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テーマ別企業事例 地域スポーツを支える企業の挑戦と戦略

まだ野球やサッカーほどの人気を得てはいないが、地域に根付いたスポーツを支援している企業がある。そこには企業PRだけではない地域と歩む企業ならではの挑戦と戦略があった。

総論 地域の活性化につながる新しいパワフルなツール

原田 宗彦氏/早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授 一般社団法人 日本スポーツツーリズム推進機構 会長

原田 宗彦氏 早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授 一般社団法人 日本スポーツツーリズム推進機構 会長 昭和29年生まれ、大阪府出身。52年に京都教育大学を卒業後、筑波大学大学院体育研究科修了、ペンシルバニア州立大学体育・レクリエーション学部博士課程修了(Ph.D)。現在はスポーツマーケティングなどを研究するほか、スポーツ関連団体の理事や委員などを務める

地域スポーツの振興における地元企業のサポートの在り方と、その効果についてスポーツ振興モデルを応用した政策提言的研究やスポーツイベントの経済効果に関する研究などを行っている、早稲田大学スポーツ科学学術院の原田宗彦教授に話を聞いた。

さいたま新都心駅周辺を回る市街地コースで開催されている『ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム』。この大会には世界の強豪自転車チームが集まる。2013年にツール・ド・フランス100周年を記念して始まった。3回目となる今年は10月24日(土)に開催。沿道には多くの観客が集まり声援を送る ©Saitama City yuzuru.sunada

地元だけではなく域外の消費も誘導

──原田教授が取り組んでいるスポーツ振興モデルを応用した政策提言的研究やスポーツイベントの経済効果というのは、どのようなものなのでしょうか。

原田 従来の地域スポーツ振興は、ほとんど地元に経済波及効果を与えない、教育の延長線上にあるものでした。もちろん、これはこれで、「青少年の健康」や「フェアプレー精神の育成」といった面で非常に大事なことです。しかし経済的な効果が少ないため、地域の政策的優先順位としてはどうしても低くなっていました。それが今では、スポーツの在り方が変わって産業化が進んできた。これにより、スポーツイベントがパワフルな経済活性化装置になってきたのです。

そのような中で、スポーツイベントで、地元だけではなく域外からの消費も誘導して地域スポーツを経済の振興に結びつけようという動きが出ています。私が会長を務めている日本スポーツツーリズム振興機構は、スポーツツーリズムを核にした地域スポーツ振興を推進しようとしています。ただし中央から声を掛けているだけでは動き出しが遅くなってしまうため、各地域の取り組みを主導するスポーツコミッションの設立を後押ししています。

──各地域のスポーツコミッションが行っている活動の中には、どのようなものがありますか?

原田 代表的なものが、平成23年に創設された『さいたまスポーツコミッション』です。ここは自転車レースの最高峰である『ツール・ド・フランス』との共催で「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」という自転車レースを毎年開催しており、今年の10月で3回目の開催になります(クリテリウム=街中に設置された短いコースを周回するロードレース)。

これまでに開催した2回は大成功でした。約20万人もの人が沿道に観戦に来てくれたのです。これによりさいたま市には一大会あたり30億円という大きな経済的効果がありました。同時にツール・ド・フランスのネットワークを通じて、世界130カ国にさいたま市を知っていただくことができたのです。このシティ・セールス効果は約36億円といわれています。

現在、同じような組織が日本中に14あります。これらはスポーツイベントにより域外から人を呼び込んで経済効果を起こし、その波及効果を地域のスポーツ振興に結び付けようとしているわけです。

地元企業はどう関わるべきか

──地方レベルのスポーツイベントでも、その規模に応じた同じような経済波及効果がありますか?

原田 はい、あります。たとえば500人くらいが競技に参加するトライアスロン大会などでも、参加者や関係者、観客の宿泊や飲食、移動、お土産購入などを通じて、半日で3000万円くらいが地元に落ちるといわれています。現在、トライアスロンの大会は日本全国で1年間に大小織り交ぜて290あり、マラソン大会も1000はあるといわれています。それ以外にも、リバーラフティングやヒルクライムレース、トレイルランなど、さまざまな規模のスポーツイベントが全国各地で行われ、それなりの経済波及効果をあげています。

──そこに地元の企業はどのように関係していけば、よいのでしょうか。

原田 まずはイベントへの協賛という形があります。スポーツをする人が増えると、いろいろな周辺産業にも波及効果があります。その中にはサプリメントやコンビニといった、スポーツとは直接関係のない産業、観光の面からいうと名産品・物産品を売っているお店なども入ってきます。ですので、こういったスポーツイベントに協賛することは、参加した人たちや観戦に来た人たちに自社の商品やサービスを知ってもらう良い機会になるはずです。

──それにはどのような形で協賛するのがいいでしょうか。中小企業などでは、高額の協賛金を出すのは難しいところもあります。

原田 例えば、子どもたちのサッカークラブにユニホームを提供する代わりに、そこに会社の名前を付けさせてもらう。子どもたちが家で名前の付いたユニホームを洗濯して外に干す。企業の規模にもよりますが、これで数十万円から100万円くらいなら効果的な出費といえるでしょう。

また、お金は出さなくてもバーター取り引きのような形で協賛することもできる。例えばクリーニング店がユニホームの洗濯を請け負ったり、マッサージ店が選手のマッサージを引き受ける代わりに、担架の裏に店の名前を書いて宣伝してもらうといった方法などが考えられます。

企業が協賛することでスポーツが発展すれば、地域への貢献もできるし企業にとっても宣伝効果がある。まずは何か一つやってみることが重要だと思います。

──自分たちにとって効果的な協賛方法を考えていくためには、まず何をしなければいけませんか?

原田 企業が地域スポーツに効果的に関わっていくためには、もっとスポーツマーケティングを勉強する必要があります。協賛金を出したらどのような見返りがあるのかではなく、スポーツをどのように活用するのかを自分たちで考え、企業の側から提案していくくらいでないといけません。

地域スポーツの側も協賛する企業側もスポーツマーケティングの知識をもっと持てば、お互いにより良い関係が生まれると思います。それによって企業とスポーツの両方の価値が高まっていく仕組みというものを考えていくことが重要になってきます。

所有から支援へ

──イベント以外に、地域のスポーツチームと企業の関わり方にはどのような形がありますか?

原田 かつては企業がチームを抱えて運営していく実業団スポーツというものがありましたが、バブル崩壊後の90年代から00年代にかけて、実に300ほどの実業団チームが消えてしまいました。ラグビーや社会人野球にはまだそのような形のチームが残っていますが、縮小傾向にあることは間違いないでしょう。

その一方で、Jリーグのような地域密着型のプロスポーツが出てきて、そこにこれまでと違った形で支援するスポンサーシップというものが出てきました。つまり企業とスポーツの関わり方が〝所有〟から〝支援〟という形に変わってきているのです。

──スポーツ支援によりCSRを推進し、企業のブランド資産も向上するという話もありますが、それについてはどうお考えですか?

原田 熊本のあるスーパーに社会人野球チームがあるのですが、地元の人たちに応援されていて、半径10㎞の地域ではものすごく盛り上がっているんです。そしてそのスーパーに行くと、昨日すごいプレーをしていた選手が店で野菜を売っていたりする。このような形のスポーツチームは、企業と地域の結びつきを強めるとともに、企業の地域に対する社会貢献にもなっていると思います。

ブランド力の向上については、巨額のお金を出している企業にいえることで、少額の支援ではその効果はあまり期待できません。ユニホームに名前が入るなら別ですが、看板を出したくらいでは難しい。それよりもチームと一緒に企業も大きくなっていくという考え方を持つほうがいいでしょうね。

──JOC(日本オリンピック委員会)が全国の商工会議所などと連携してトップアスリートたちの就職を支援する「アスナビ」という制度があります。これについてどう思いますか?

原田 今は東京オリンピックという大きな話題があり、企業のアスリートに対する関心が高まっています。アスリート側は雇用されれば生活が安定して競技に集中できるし、企業側も広告宣伝効果が期待できる。ですから、マッチングとしてはとても良い制度だと思います。

しかし、まだ成功例が少ないし、企業側はメセナ的な感覚で参加しているところもまだ多いと思います。アスリート側も、雇ってくれた企業を単なるスポンサーとして考えるのではなく、仕事で返していくことを自覚していかなければいけません。まだまだ改善の余地はあると思いますが、これが良い方向に進んでいけばと期待しています。

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