事例1 スポーツを通じて地域経済の活性化に貢献
伊予銀行(愛媛県松山市)
愛媛県松山市に本店を置く伊予銀行は、地域のスポーツや文化活動への支援を盛んに行っている。特にスポーツでは女子ソフトボール部とテニス部を擁し、国体や日本リーグで活躍。同行がスポーツ活動に取り組む理由と意義について、同行の元頭取で、現在は取締役相談役を務める森田浩治(松山商工会議所会頭)さんに話を伺った。
野球部廃部の後に残されたグラウンド
伊予銀行の女子ソフトボール部が創設されたのは昭和60年。今年で創部30周年を迎えた。現在は日本女子ソフトボールリーグ1部に所属し、平成25年の国体では準優勝もしている強豪チームだ。しかし、そもそも、なぜ比較的注目度の低い女子ソフトボール部を選んだのだろうか。
「伊予銀行は以前、社会人野球のチームを持っていました。愛媛は野球が盛んな地域なので、企業スポーツとして野球チームを持っていたわけです。しかし、不況が原因で昭和52年に休部になり、野球場だけが残ってしまいました。その後、愛媛県ソフトボール協会の会長さんから当行に、男子ソフトボール部をつくってくれないかという依頼がありました。女子は他に強いチームがあったのですが、男子チームはなかったのです」と、森田さんは当時を振り返る。
その後、当時は人事部の副長だった森田さんが、伊予銀行のソフトボール部創設のために奔走することになる。ただし、それは男子ではなく、女子のチームをつくるためだった。
「男性行員は全国転勤が多く、なかなか選手を固定しにくい。しかし女性行員なら松山市内の支店にも多いので、つくるなら女子にしようということに行内で決まったのです。ただ、すでに女子ソフトボール部を持っている企業というのが当行のお客さまだったので内緒でつくろうと、当時の頭取から私に選手集めの密命が下りました(笑)」
森田さんが選手探しを始めたのは59年の春。愛媛県だけでなく四国の高校などを回り、どこにいい選手がいるかといった情報収集に駆け回った。そして新規に12人を採用。行内にいた経験者2人を加え、翌60年4月1日、計14人でチームはスタートした。
「開始当初はまだ監督も決まっておらず、私がグラウンドに出てノックしたこともありました。当時は私もまだ40代初めでしたから」
活動を地元に還元する
「やるからには本格的にやるべきだと思い、私は10年で日本リーグの1部に入るという目標をたてました。社内ではいわゆる部活動みたいな形でいいじゃないかという意見もありました。ですが、トップの理解もあり、午前中は行内で通常業務を行い、午後2時から練習を始められるようにできました」
結局、チームが念願の日本リーグ1部に昇格したのは創部から17年後の平成14年。国体では、平成4年、18年、25年に準優勝という好成績を収めている(22年には雨天により8チーム同時優勝)。
チームが順調に成長を続けていくなか、企業がスポーツのチームを持つことの位置付けはどのようになっているのだろうか。
「地域の企業や個人のご預金、お借り入れなどで成り立っている地方銀行は、地域あってのものです。当行の企業理念の一つである『潤いと活力ある地域の明日を創る』が、地域のトップバンクとしての伊予銀行の存在意義。そのためには、金融の面で地域経済の活性化に貢献するのはもちろんですが、それ以外にも福祉・文化の向上、教育・スポーツの振興、環境保全、地域活性化など、いろいろな面で地域のお役に立ちたいと考えています。女子ソフトボール部などのスポーツのチーム活動はその一環なのです」
そのため女子ソフトボール部は、オフの期間には子ども向け教室を開いたり、県内の男子チームなどから希望があれば対戦もしているという。また、トップレベルの選手を県民の人たちに見てもらうため、女子ソフトボールの「マドンナカップ」という大会を平成16年から伊予銀行の主催で毎年開催。日本各地から強豪10チームを呼んでオープン戦を行っている。一方、平成元年に創設したテニス部も、県内各地でテニス教室を開いたり、ジュニア強化練習会などを開催して、県内におけるテニスの普及・強化に努めている。
銀行は地元との運命共同体
スポーツチームの活動は、地域への貢献だけでなく、もちろん企業としてもメリットがあるという。
「スポーツや文化的な活動は、伊予銀行が本業以外に〝企業市民〟として地域のためにいろいろなことをやってくれているというブランドイメージの向上にも貢献しています。内部の行員にとっては、同僚である選手は午後には業務からいなくなるので仕事の上では迷惑が掛かる存在かもしれない。でもその選手は仕事をしながらも休みなく毎日練習しています。そういう仲間が社内にいるということは、行員にとっても刺激になっているのではないかと思います」
そういったスポーツに打ち込むひたむきな姿は、人々を感動させ、夢を与えてくれる。伊予銀行による顧客満足度調査でも、同行のCSR活動のうち、もっとも高い評価を得ていたのが「愛媛マラソンへの協賛」と「ソフトボール部・テニス部の活動」だったという。
「また行員全体にとっても、自分の会社は地域に貢献しているんだという誇りを持つことができる。本業ばかりではなく、利益の一部を使って幅広く地域に貢献している企業で自分は働いているのだという自負と自信につながっていると信じています」
この活動だけが理由ではないだろうが、愛媛県全体の預金高のうちの半分以上は伊予銀行に預けられ、貸金も県内全体の約4割が同行からのものだという。
「銀行というのは、その地域との運命共同体。本業以外でも地域に貢献できなければ、存在意義がないとさえ私は思っています。そのためにはスポーツや文化活動は継続していくことが大切。そのことが、地域から愛され支持されることにつながっていくと信じています」
会社データ
社名:株式会社伊予銀行
住所:愛媛県松山市南堀端町1番地(本店)
電話:089-941-1141
代表者:大塚岩男 頭取
従業員:2899人
※月刊石垣2015年9月号に掲載された記事です。
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