事例2 チームへの支援は営業戦略を超えた日光への愛着
日昇堂(栃木県日光市)
日光東照宮御用達の菓子処・日昇堂。同社がアイスホッケークラブ「H.C.栃木日光アイスバックス」を支援している最大の理由は、地元愛だ。日本アイスホッケー全体の伸び悩みから、ファン離れの進む同チームの魅力を広く伝えようと、〝お菓子〟を通じて地道な支援活動を展開している。
地域貢献しているチームにできることはないか?
H.C.栃木日光アイスバックス(以下バックス)の前身は、大正14年に創部した古河電工アイスホッケー部である。かつて名門実業団チームとして名を馳せたが、平成11年に廃部となり、同年日本アイスホッケー界初となる市民クラブとして生まれ変わった。翌年に大口スポンサーが撤退して資金難に陥り、再び廃部を余儀なくされたが、当時の栃木県知事が支援を表明。市、地元企業や個人が次々と援助を申し出たことで13年に再始動し、現在に至っている。
3年前から同チームのスポンサーに名を連ねているのが、創業80年近い歴史を持つ菓子製造・販売の日昇堂だ。日昇堂は、ようかんの製造でスタートし、その後和菓子を中心に商品数を増やして地域土産のメーカーとして成長。6年前、日光の目抜き通りに店舗をオープンし、今や日光東照宮御用達の菓子処として認知されている。
日本ではマイナースポーツといわれるアイスホッケーと老舗の菓子処を引き合わせたきっかけは何だったのか。日昇堂社長の長島孝昌さんはこう振り返る。「実は私もアイスホッケーをやっていた時期があり、昔からよく試合を見に行っていたんです。ところが最近では客席に空席が目立ち、かつての盛り上がりがないのを寂しく感じていました。そんなときにバックスの監督を務めていたことのある人物と出会いました。その人を通じて、選手たちが少年たちにアイスホッケーを教えたり、青少年が非行に走らないように見守る取り組みに参加したりと、さまざまな地域貢献活動をしていることを知ったのです。私にもそんな彼らにしてあげられることがあるんじゃないかと考えるようになりました」。
地元チームの支援を通じて日光をアピール
契機となったのは、東日本大震災だった。原発事故の風評被害で観光客がパタッと来なくなり、売上が激減した。その時、あらためて〝日光〟をアピールする必要性を感じた。そうしてつくったのが、同社初の洋菓子「日光ラスク」だ。パッケージに地元の名所や名物のイラストをあしらい、これでもかというくらい日光らしさを前面に出した。
「スポンサーになる助走期間として、まずは『日光ラスク』をチームに無償提供し、試合やイベントに足を運んでくれたバックスファンへのプレゼントに使ってもらうことにしました。これが予想以上に好評で、ファンに喜んでもらえた。それだけでなく、当店が洋菓子も扱っていることを知ってもらう良い機会になりました。そこで翌26年に正式なスポンサー契約を交わし、支援活動を開始しました」
メーンは、ホームゲームでの商品販売の収益金の一部をチーム運営費に還元することや、イベント時の商品提供などだ。ほかにも、「日光ラスクマッチデー」という同社主催のスペシャルゲームを企画したり、全日本アイスホッケー選手権大会でチームが優勝した際には、選手全員の似顔絵をパッケージにプリントした限定商品をつくって盛り上げるなど、新たなバックスファンの獲得に向けた取り組みも積極的に展開している。
「アイスホッケーは施設が限られていて、目に触れる機会が少ないので、きっかけがないと関心を持ってもらいにくい。でも、一度試合を見たら、きっと好きになります。選手たちが全身全霊でぶつかり合うあの迫力やスピード感に圧倒され、鳥肌が立ちますよ。一人でも多くの人に見てもらうためにも、商品だけでなく知恵を絞っていきたいと思っています」
チームのファン獲得を永続的にサポートしたい
昭和55年以降、男子日本代表は自国開催枠で出場した長野オリンピック以外、一度もオリンピックに出場していない。また、日本のトップリーグだった「日本アイスホッケーリーグ」も平成16年に休止となった。その後、中国や韓国のチームを交えた「アジアリーグ」がスタートしたが、人気は低迷している。そんな中でもバックスはアイスホッケー人気を高めるべくファンクラブ会員の獲得に努めている。
「明るい話題もあります。将来日本を背負って立つ逸材と期待されている地元・日光出身のルーキーが久しぶりに入団したんです。そこで今年は同じスポンサー企業の金谷ベーカリーさんと一緒に、ファン感謝イベントを開催しました。選手とファンが交流できる場を設けて、新たなファンの獲得につなげたいですね」
こうした支援活動を通じて、同社にもたらされたメリットは少なくない。例えば「日光ラスク」は、発売3年で市民なら知らない人はいないといえるだけの認知を得、今年の春には全日空の機内誌にも掲載された。日光東照宮献上菓子に指定された定番和菓子の売上も好調に推移している。これらは地元チームと連携した宣伝広告が功を奏したといえる。
「もちろん営業戦略的な目的も重要ですが、チームに関われば関わるほど『選手やスタッフがこんなに頑張っているのだから、地元としてもっとできることがあるはず』と思うようになりました。今やリターン度外視ですよ(笑)。当店にできるのは微々たるものですが、今後も永続的にファン獲得のお手伝いをするのが使命だと思っています」
日光をホームとするチームと企業。互いの地元への思いが強力な連携を築いているようだ。
会社データ
社名:株式会社日昇堂
住所:栃木県日光市今市1447
電話:0288-21-0533
代表者:長島孝昌 代表取締役社長
従業員:60人
※月刊石垣2015年9月号に掲載された記事です。
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