テーマ別企業事例 地域スポーツを支える企業の挑戦と戦略

事例3 アスリートを育成し地域に活気を呼び込む

北海道ハイテクアスリートクラブ(北海道恵庭市)

北海道ハイテクアスリートクラブ(ハイテクAC)は、日本陸上女子短距離(100m・200m・4×100mリレー)の現日本記録保持者である福島千里選手をはじめ、女子トップアスリートが在籍する陸上クラブだ。平成18年、全国に69校の専門学校や大学院大学を運営する滋慶学園グループ・浮舟邦彦総長の全面支援の下に設立以降、地域全体に見守られながら数々の記録を打ち立てている。

男性の練習パートナーと走り込む選手と、それをチェックする中村監督(左)

冬も走れる屋内練習場でトップアスリートを養成

1年の3分の1は雪に覆われているといっても過言ではない北海道。そこに日本女子のトップ選手が集い、素晴らしい成績を上げている陸上クラブがある。札幌市の南に隣接する恵庭市にある北海道ハイテクアスリートクラブだ。

発足したのは平成18年。同クラブ代表で監督を務める中村宏之さんが、道立恵庭北高校の教諭を退職したことに端を発する。

「恵庭北高は、女子短距離や走り幅跳びなどで全国優勝者を何人も輩出している道内きっての名門校で、その陸上部の顧問を長年務めてきたのが中村監督です。その実績と能力を生かす場がないのは宝の持ち腐れだと、『監督を指導者とする陸上クラブをつくりたい』と滋慶学園グループが支援を申し出てくれたのがきっかけです」と同クラブの現役選手であり事務局も務める野村有香さんは説明する。

同グループは昭和51年に歯科技工士養成校を設立以降、専門学校や大学院大学を全国に69校運営する学校法人だ。北海道でその理事を務める正垣雅規氏が中村監督と知り合いだった縁から、運営する学校の一つである北海道ハイテクノロジー専門学校を練習拠点として同クラブを設立した。国内初の直線130m×5レーンのトラックとトレーニングルームを完備した全天候型インドアスタジアムを建設。世界を狙う陸上選手の育成に乗り出した。

個々の潜在能力を引き出す恵まれた練習環境を提供

現在日本で学校卒業後も陸上を続けるには、大きく分けて「企業の陸上部に所属する」「本業を持ちながら競技活動を続ける」「プロの選手になる」という3パターンがある。

多いのは陸上部に所属する方法。給料をもらいながら練習に励むことができる反面、企業の業績によって活動費が左右されたり、最悪廃部に追い込まれる可能性もある。学校の先生や公務員などの本業を持ちながら競技活動を続けるケースでは、自分のペースで練習ができて活動を続けやすい利点があるが、所属する団体からの援助がないため、活動時間が制限され、費用も基本的に自己負担となる。また、プロになる道は、契約しているスポンサー企業からさまざまなサポートを受けられる反面、よほどの実績があるか、将来有望でなければ、その道を選ぶことはできない。

いずれの方法を取るにせよ、決して恵まれた環境にあるとはいえないだろう。そもそも日本では陸上競技の大会数も少なく、サッカーや野球のように観客を動員できるわけではない。比較的人気の高い長距離種目ならまだしも、短距離やフィールド競技となると注目度は低く、積極的に支援しようとする企業はそう多くない。

「厳しい現状の中、選手の多くは北海道ハイテクノロジー専門学校の職員として籍を置きながら、気候に左右されることなく一日中練習できる場が与えられています。しかも、監督は自主性を尊重して各自に練習メニューを組み立てさせ、それを見ながら必要なアドバイスをするという指導スタイル。個々の潜在能力を引き出してくれるので、ほとんどが学生時代よりも記録を伸ばしています。かなり恵まれた環境にあると思いますね」(野村さん)

商工会議所を中心に地元が一丸となって応援

そんな同クラブは、福島千里選手が100m、200m、4×100mリレーで日本記録を樹立し、2回のオリンピック出場に加え、複数の選手が国際大会に出場を果たすなど、着実に結果を残している。それにより北海道ハイテクノロジー専門学校の名は全国区となり、入学希望者が大幅に増加。その結果、運営元である滋慶学園グループの知名度は大きく向上した。

また、恵庭市にも地域を挙げて応援しようという機運が生まれ、後援会が発足し、現在は恵庭商工会議所が事務局を務めている。競技活動をサポートするほか、国際大会の開催時には後援会が中心となって学校や道の駅などにパブリックビューイングを開き、商店街や市民が一丸となって声援を送るのが恒例となっている。選手たちにとっては、大きなモチベーションとなり、地域にも元気を与えているのだ。

現在、同クラブが力を入れているのがジュニア世代の育成だ。25年から同クラブ主催で、小学生から高校生までを対象としたレディース陸上競技選手権大会を開催している。もちろん、東京オリンピックに照準を合わせている。「次世代を担う小中学生の発掘を兼ねたものでした。予想を超える参加者の中から、全日本中学校陸上競技選手権大会の優勝者4人を含む9人を選抜し、現在は当クラブのジュニア部に在籍しています。基本的に土日にここに通ってきて練習しているのですが、みな吸収が速くメキメキと力を付けています」と野村さんは期待を口にする。

設立10年を迎えた同クラブ。企業や地域のバックアップを追い風に、より速く、高く、遠くへと記録を伸ばし、陸上全体を盛り上げていってほしい。

※月刊石垣2015年9月号に掲載された記事です。

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