2020年版中小企業白書・小規模企業白書(概要)
新たな価値創造に挑戦を
中小企業庁は4月24日、「2020年版中小企業白書・小規模企業白書」を公表した。中小企業・小規模事業者に期待される「役割・機能」や、それぞれが生み出す「価値」に着目し、経済的な付加価値の増大、地域の安定・雇用維持に資する取り組みを調査・分析した。新型コロナウイルス感染症の影響にも触れ、中小企業・小規模事業者の具体的な対応事例についても掲載した。特集では、白書の概要を紹介する。
総 論
第1部 令和元年度(2019年度)の中小企業の動向
●中小企業・小規模事業者の動向
中小企業・小規模事業者の業績は2019年以降横ばいから低下傾向で推移し、業況にも一服感が見られること、(新型コロナウイルス)感染症の影響による厳しい状況が続くと見込まれる中、多様な課題に対処する必要があることなどを示す。
●中小企業・小規模事業者の労働生産性
中小企業の労働生産性が横ばい傾向で推移しており、業種にかかわらず大企業との格差が存在していること、その一方で、中小企業の中にも大企業の労働生産性を上回る企業が一定程度存在することなどを示す。
●中小企業・小規模事業者の新陳代謝
企業の廃業は、経済全体の生産性向上に寄与する側面がある一方、生産性の高い企業の廃業も一定程度生じていることなどを示す。また、生産性の高い企業の廃業の背景には、経営者の高齢化と後継者不足があると考えられ、企業の貴重な経営資源を散逸させない事業承継の取り組みが重要性を増していることなどを示す。
●中小企業・小規模事業者の多様性と役割・機能
中小企業・小規模事業者の「目指す姿」を四つの類型に分類した上で、それぞれの特徴を分析し、業種だけでは捉えきれない異質性を有することなどを示す。
第2部 新たな価値を生み出す中小企業
●付加価値の創出に向けた取り組み
(企業が生み出す付加価値と労働生産性)
収益拡大から賃金引き上げへの好循環を継続するためには、起点となる企業が生み出す付加価値自体を増大させていくことが必要であることなどを示す。
(事業領域・分野の見直し、製品・サービスの差別化)
新たな事業領域・分野への進出は数量増加や単価上昇に有効であること、既存領域での差別化の取り組みとして、製品・サービス開発に取り組む企業の労働生産性の上昇幅が大きいことなどを示す。
(無形資産の有効活用、外部連携・オープンイノベーションの推進)
人的資本投資を実施している企業の労働生産性の上昇幅が大きいこと、製造業では知的財産権・ノウハウを重視する企業の労働生産性が高い傾向にあること、異業種や大学と連携してオープンイノベーションに取り組む企業において、労働生産性の上昇幅が大きいことなどを示す。
●付加価値の獲得に向けた適正な価格設定
競合他社と比較して製品・サービスに優位性を有する企業の中にも、優位性が価格に十分に反映されていない企業が約半数存在すること、「顧客への優位性の発信」「価格競争に参加しない意識」、「個々の製品・サービスごとのコスト管理」が、優位性を価格に反映する上で有効であることなどを示す。
●付加価値の獲得に向けた取引関係の構築
中小企業が自らの強みを発揮し、付加価値を獲得していくためには、それぞれの企業が交渉力を高めるとともに、取引条件の改善を図る必要があること、良好な取引関係の構築に向けては、大企業を含む発注側事業者に求められる役割も大きいことなどを示す。
Ⅰ 中小企業の新陳代謝と生産性・業績
〇廃業した企業の労働生産性は相対的に低いが、一部で生産性の高い企業の廃業も生じている。(図1)
〇経営者の高齢化や後継者不足を背景に、年間4万者以上の企業が休廃業・解散しているが、このうち、約6割は黒字企業。培ってきた技術や従業員などといった中小企業の貴重な経営資源を、次世代の意欲ある経営者に引き継いでいくことが重要。(図2)
Ⅱ 中小企業の四つの役割・機能と目指す姿
〇中小企業・小規模事業者を、役割や機能に着目した四つの類型(1.グローバル型、2.サプライチェーン型、3.地域資源型、4.生活インフラ関連型)に分類し、比較・分析。(図3)
〇中小企業の「目指す姿」は多様であり、業績や成長意向も、類型ごとに傾向が異なる。企業の役割や機能を意識した支援が重要に。(図4)
テーマ別分析
1.新たな価値を生み出す中小企業・小規模事業者
①中小企業を取り巻く環境と「付加価値増大」の必要性
〇わが国の中小企業は、残業規制や同一労働同一賃金といった「働き方改革」をはじめ、最低賃金の継続的な引き上げ、被用者保険の適用拡大など、相次ぐ制度変更への対応が必要。
〇中小企業の労働分配率は高止まり。労働者への分配に対する意識が高まる中、起点となる付加価値の増大が不可欠。
②差別化や新事業展開による「新たな価値」の創造
〇新たな製品・サービスの開発など、顧客に新たな価値を提供するような他社との差別化は、付加価値の増大につながり、生産性の向上に貢献。
〇一般に、販売数量と販売単価は、トレードオフの関係と考えられているが、新たな事業領域に進出した企業の約4割で、数量・単価が共に向上。
③オープンイノベーションや人材投資による可能性の拡大
〇外部の技術やノウハウの活用は、中小企業の可能性を拡大し、新たな技術開発や製品・サービス創出のきっかけに。特に、異業種企業や大学と連携している企業で生産性が大きく向上。(図5)
〇中小企業が最も重視している経営資源は「人材」。一方で、わが国の人的資本投資(OFFJT)は他国と比べて少ない。人材への投資に取り組むことで、生産性をさらに伸ばせる可能性あり。
④製品・サービスの優位性の「価格」への反映、取引条件の改善
〇製品・サービスの優位性が「価格に十分に反映されていない」とする企業が、約半数。
〇中小企業が最終的に獲得できる付加価値額を増やしていくためには、優位性を顧客に発信していく取り組みや、価格競争からの脱却、発注側事業者との取引条件の改善が重要に。
2.地域で価値を生み出す小規模事業者
①地域の生活やコミュニティーを支える小規模事業者
〇人口密度が低い地方部ほど、暮らしのさまざまな面において、小規模事業者の存在感が大きい。
〇年齢層を問わず、多くの地域住民が、小規模事業者を通じて「地域とのつながり」を感じており、地域の課題解決に向けた中心的な役割を担う存在としても、小規模事業者への期待は大きい。(図6)
②地域の多様な人材活躍の場を提供する小規模事業者
〇小規模事業者は、高齢者や女性が継続して長く働ける場を提供。小規模ならではの柔軟な働き方を可能としている事業者も多く存在。
〇魅力ある労働環境を提供するためには、売り上げや利益を確保することも重要。
3.中小企業・小規模事業者と支援機関
①経営者側から見た、支援機関の有効活用策
〇社外の相談相手からのアドバイスを受けることで、自社の強みや経営課題がより明らかに。
〇単に経営計画を策定するだけでは不十分。外部支援も有効に活用し、計画に基づくPDCAサイクルを回していくことが重要。
②支援機関側に求められる組織間連携の取り組み
〇小規模事業者を主な支援対象とする商工団体(商工会議所・商工会・中央会)は、1人当たりの対応事業者数が多い。伴走型支援を行っていく上で、他の支援機関との連携が重要に。
〇「営業・販路開拓」や「財務」の分野では、支援機関同士の連携が進んでいるが、「商品・サービスの開発など」「技術・研究開発」などの分野では、さらなる連携も期待される。
新型コロナウイルス関連(4月1日時点)
1.新型コロナウイルス感染症の影響
①全国1050カ所に設置している「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」には、3月末までに30万件近い相談(ほぼ全て「資金繰り」関連)が寄せられている。
②中国の生産や貿易が減少。関係するわが国の中小企業にも大きな影響。
③感染症の影響により、インバウンドをはじめとする国内消費が大幅に減少。
④小売業では一部で買いだめが生じているが、総じて、業況は悪化。
⑤既に、企業の売り上げの減少、イベント・展示会の延期・中止といった影響が顕在化。
2.リスクへの備え(事業継続計画(BCP)の策定、テレワークの導入)
〇感染症を含むリスクの影響を可能な限り小さくするには事前の備えも重要。(図7)
〇中小企業・小規模事業者における取り組み事例1
①「感染症BCP」に基づく対応事例や、従業員の生活を守るための取り組み事例も存在。
②感染症の影響が広がる中でも、新たな「価値創造」に取り組む企業も存在。
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