10月初旬、わが国や米国など12カ国が参加するTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が、約5年半の交渉を経て大筋で合意した。その意味は小さくない。日米を中心とした太平洋を取り巻く12の国が、関税撤廃だけではなく知的財産権から環境保護まで31分野の広い範囲の経済活動について、明確なルールをつくったことに大きな意義がある。
今まで、国によっては商慣習が異なり、国有企業を優先する傾向があったため、わが国企業などが理不尽な扱いを受けることもあった。そうした国ごとの〝バラつき〟が、協定に参加する諸国間では少なくなる(一定のルールに収束する)ことが期待できる。
TPPというと、輸入品の関税が低くなり牛肉や乳製品などが安くなるとか、米価が下落して農家がとても苦しくなるということなどを連想しがちだ。しかし、TPPで最も重要なポイントは、国境を跨いだ経済活動を行う場合、国によって異なるルールを統一することだ。
例えば、ある国では商慣習が違って、製品の授受や資金決済などに予想外のコストが掛かることがあった。あるいは、国自身が国有企業を堅く保護して、他の国の企業が当該分野に参入しようとしても、できないケースもあった。そうしたケースは、国境を跨いで経済活動を行う企業にとっては煩雑で、多大なコストを強いられる。そこにルールをつくって、非効率な商慣習などを取り除き参加国の経済を効率化するのがTPPの狙いだ。
また、TPPの特徴は参加国が多いことだ。これまで、特定の二カ国や一定のグループ間で取り決めが多かった。ところが、TPPには太平洋を取り巻く12の国が参加した。しかも、TPPは日米が中心となったことで、GDPベースで世界の約36%、人口では8・1億人を擁する世界最大の経済圏ができることになる。参加国と非参加国では、経済圏内の取引コストなどが大きく異なることも考えられる。それは、多くの参加国にとって長期的にプラスに作用するだろう。特に、わが国のように天然資源に恵まれず、人口減少・少子高齢化を迎える国にとって大きなメリットになる可能性は高い。
一方、TPPは基本的に、参加国間の壁を低くして、国同士のヒト・モノ・カネなどのフローを促進する仕組みであるため、企業間の競争は激化することが予想される。競争が激化するということは、生き残るための戦略や努力が一段と重要性を増すことを意味する。つまり、TPPの下でわが国の産業はより強くなることが求められるのだ。
国際競争力を高めることは口で言うほど容易ではない。今まで関税などの壁で保護されていたものが、その壁がなくなるか、低くなるため、自助努力で強くならなければ生き残れない。それは、国内の産業強化のきっかけになるだろう。
政府は、そうした企業の努力を最大限後押しすることが求められる。政策的に、規制緩和策や労働市場の改革に取り組むことになるはずだ。農業部門についても、今までのような農業行政を続けることは適切ではない。農家はコメ中心の農業生産の考え方を変えて、効率的な生産活動を行い、生き残りの道を見つけなければならない。補助金のような形で農家を支援する場合でも、従来のような単純な米価維持政策ではなく例えば、農業法人の設立・発展を促し、わが国の農業改革を進める方策を実施することが必要だろう。間違っても、従来型のバラマキを踏襲してはならない。農地面積が小さいからといって、農業改革が難しいことには必ずしもつながらない。オランダのように農地面積の小さい国でも、立派な農業が育っている例はあるのだ。
今後、TPPをモデルケースにして、世界の主要国が経済活動に一定のルールを定める方向に進む可能性もあるだろう。そうなると、TPPで決めたルールが世界の標準になることも考えられる。その場合には、TPP参加国は、世界の経済活動ルールの創業者利得を手にすることができるかもしれない。わが国は、TPPをチャンスと捉えうまく使う方法を検討すべきだ。
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