本日は、日本商工会議所第124回通常会員総会を、安倍内閣総理大臣、世耕経済産業大臣をはじめ各政党のご来賓の皆さま、また、全国各地の商工会議所から、多数の皆さまにご出席いただき、盛大に開催することができ、誠にありがとうございます。
3年9カ月前のアベノミクスの始動により、わが国経済は劇的に改善しました。第一の矢の「大胆な金融政策」、第二の矢の「機動的な財政政策」は、需要創造政策として需給ギャップの解消を進め、デフレからの脱却まであと一歩というところまで至りました。この点は大きく評価したいと思います。
しかし、9月8日に公表された4~6月期のGDPの2次速報値は、年率換算で0・7%であり、現在の日本の実力を反映したものであると思いますが、力強さを欠いています。
私は、アベノミクスの狙いは、デフレからの脱却と、0%台前半にとどまる潜在成長率の引き上げのためのサプライサイド政策の実行であると考えています。潜在成長率は、日本経済が成長する力を示しますが、それが0%台で低迷しているようでは、成長の果実が全国津々浦々にまで及ぶのは極めて困難であります。日本経済の成長力を高めるために、強固な成長基盤を構築しなければなりません。強い経済力を持つことが、何よりも強力な安全保障政策にもなると思います。
サプライサイド政策は、需要創造政策に比べて、成果が出るまでには一定の時間が必要となります。現在は、成果が出るまでの我慢の時です。サプライサイド政策の実行の主体は民間であり、企業経営者自らがデフレマインドを払しょくして、積極的な経営姿勢に転換しなければなりません。
また、サプライサイド政策は、国全体の効率化・生産性向上に向けた構造改革であり、一部の人には痛みが伴うことも、時間がかかる要因です。
例えば、働き方改革は、労働人口の減少が続く中で、高齢者と女性の労働参加を促進するとともに、各人の能力を発揮しやすい労働環境を整え、労働生産性を引き上げるという、成長率向上のための一丁目一番地ですが、長年続いた労働慣行の転換を図るなど、効果が出るまでに時間がかかります。
政府には、安定政権ゆえの責務として、たとえ痛みを伴う政策でも、負担の分配政策として国民・各界に丁寧に説明し、コンセンサスを得て改革を断行していただきたいと思います。
その中で、特に、早急かつ集中的に取り組むべき政策課題として、これから述べる3点が重要であると考えます。
ICTで生産性向上
第一は、「企業の競争力を強化するビジネス環境の整備」であります。
六重苦の解消は画期的な成果でした。さらにビジネスしやすい環境が整うことで、企業の設備投資意欲も高まってきます。
英国のEU離脱の決定や米国の大統領選挙を巡り、内向き志向ともいえる動きが見られています。しかしながら、わが国は、グローバル化を推進しなければ、生き残っていくことはできません。
臨時国会において、TPP協定をぜひとも承認し、貿易・投資の自由化の重要性を世界に強くアピールしていただきたいと思います。
また、企業活動の活性化を促す税制、安価で安定的なエネルギー供給、規制改革、生産性向上に寄与する行政手続きの簡素化も重要です。特に、規制改革は新たなビジネス創出につながりますので、日本商工会議所としても、各地商工会議所のニーズを聞きながら、引き続き、具体的な提案を行ってまいります。
人手不足が大きな経営課題となっている中で、民間は、ICTやロボットの活用により、中小・小規模企業の生産性向上に取り組むべきです。IT分野に長けた人材の確保や資金などの課題を、国の支援策などをうまく活用しながら克服し、取り組みを進めていくことが重要と考えます。
もちろん、商工会議所としても、中小・小規模企業の取り組みを強力に後押ししていく所存です。
人口減少は、逆に、デジタル需要、デジタル技術開発を加速させます。これは、労働人口が豊富なインドなどとは対照的な環境であり、日本には、他国に先んじたイノベーションが生まれるアドバンテージがあるともいえます。
観光と農商工連携が鍵
成長力を高める第二は、実行段階に入った「地方創生の実現」であります。わが国の付加価値額の約半分は三大都市圏以外の地方で産み出されており、地方創生は、潜在成長率の底上げに不可欠であります。
私はかねてから、地方創生の実現には、観光振興と農商工連携が極めて重要であると申し上げてまいりました。
人口減少により地域内の需要が縮小する中にあって、域外の需要・消費・投資をいかに取り込むかが課題であり、これら2つの取り組みは、その解決の鍵になるからです。
観光は、訪日外国人客数とその観光消費額が注目されがちですが、莫大(ばくだい)な交流人口を生み出す観光を、地域の需要創出産業と捉えるべきであります。昨年で25兆円の需要をもたらした観光には、中小企業を中心とした裾野の広さがありますので、取り組みを加速していくことが必要です。
農林水産業も長い年月をかけて育てられた貴重な地域資源であり、連携によって付加価値の高い商品を開発し、海外を含め、広く販路を求めていくことが重要です。
各地を訪問し、地方創生プランを聞かせていただきますが、この1年でそのレベルが格段に向上しており、地方創生に具体的につながるものも相当数、出現したことを喜んでおります。
こうした地方創生の取り組みを加速するのが、物流・人流の円滑化を促すための社会資本整備であります。高規格幹線道路は、結節してこそ広域でのネットワークの効果が発揮されるものであり、残されているミッシングリンクを早急に解消する必要があります。また、整備新幹線やリニア中央新幹線についても、ストック効果を重視しながら、新たな整備計画の検討も含め、早期の整備が強く望まれます。
さらには、大型船に対応した港湾の整備も重要となります。頻発する災害に対応する観点からもインフラ整備は不可欠でありますので、しっかり進めていただきたいと考えます。
将来不安払しょくを
第三は、「人口減少対策の加速化と社会保障制度改革の断行による将来不安の払しょく」であります。
潜在成長率を引き上げるためには、人口減少トレンドの中にあっても、何とか労働力の拡大を図らなければなりません。女性や若者、高齢者など多様な人材の労働参加を促進していくことが必要です。特に、女性については、働く希望があるにもかかわらず、出産・育児、介護や、ミスマッチにより仕事に就いていない者が約200万人に上っています。これらの人々が労働市場に参入できるよう、保育、介護の受け皿整備や働きやすい税・社会保障制度への見直し、キャリア支援などの人材育成を図っていく必要があります。
また、各世代が就業者として力を発揮するためには、健康であることが大前提となります。個々の企業が「健康経営」に積極的に取り組み、人々がいつまでも健康で元気に働き続けられる社会づくりに貢献していくことも重要であると考えます。
こうした労働の「量の拡大」とともに、働き方改革によって労働生産性の向上を図る「質の向上」も不可欠であります。成果と時間を分離し、多様な働き方が可能となる労働法制の改正案の早期の成立を強く望みます。
一方、政府は「同一労働同一賃金」を実現する方針を示しています。その考え方が、非正規労働者に対し「不合理な理由による不利益な扱いをしてはならない」という趣旨であるならば、総論としては理解することができますが、同一労働の定義を明確にし、現場に大変な混乱を引き起こさぬようお願いします。
最低賃金も大きな問題です。今年度の上げ幅は、全国平均で過去最大の25円となりました。中小・小規模企業が対応するには、収益力の向上が不可欠でありますので、政府には、取引価格の適正化に向けた独占禁止法の運用強化などの対応を強く求めたいと思います。
また、そもそも余力のある企業が賃金を引き上げることは望ましいことですが、最低賃金は、法律によって強制的に適用されるものです。その決定には、支払い能力などが考慮されるべきですが、近年は景気や経営状況とかい離した引き上げが行われていますので、今後、最低賃金の審議の在り方も再検討が必要と考えます。
高齢化率世界1位のわが国は、増え続ける社会保障費の増大が財政を逼迫(ひっぱく)させています。また、消費の低迷が指摘されていますが、なぜ消費が上向かないのか。私は、30歳代、40歳代の将来不安が、最も大きな要因だと考えています。
解決には、社会保障制度改革によって、限りある財源を高齢世代から、将来を担う若い世代の支援に振り向け、将来不安を払しょくしなければなりません。少子化対策をはじめ、必要となる恒久財源を確保するためには、社会保障給付の重点化・効率化のみならず、高齢者の応能負担の割合を高めるなど、負担の分配を軸とした制度改革が必要であります。2年半延期される消費税率の引き上げも、確実に実行しなければならないと考えます。
以上3点に加え、震災復興の加速化と福島再生も、われわれが今後も継続的に取り組まなければならない重要な課題です。
東日本大震災から5年半が経過しましたが、基幹産業の売り上げ回復の遅れや風評被害などが足かせになっており、従来以上に、きめ細かい支援が必要です。また、福島県においては、国が前面に立って、除染・汚染水処理、賠償などを着実に進めることが不可欠であります。 熊本地震については、全国から4億4000万円を超える義援金をお寄せいただくとともに、経営指導員の応援派遣をいただき、深く感謝申し上げます。今なお地震活動が続いていますが、生活・産業インフラの復旧を最優先としつつ、販路回復・雇用確保や観光振興への支援などについて、スピード感を持って強力に進めることが必要であります。
日本商工会議所では、今後も被災企業の事業再開や販路の回復・開拓を強力に支援してまいります。各地商工会議所におかれましても、引き続きのご支援をよろしくお願いいたします。
最後に、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会について申し述べます。 リオ大会における日本選手団の活躍は、国民に大きな感動をもたらし、東京大会への期待を高めることにつながっていると思います。
東京大会は、日本全体で取り組む一大事業であり、文化、観光、技術、特産品など各地域の魅力を全世界にアピールする絶好の機会です。今後、より多くの皆さまが、さまざまな形で機運盛り上げに参加いただくことを期待しています。東京商工会議所が推進している「声かけサポート運動」も大きな効果を期待できる取り組みだと思います。
以上、所信の一端を申し述べました。
日本商工会議所は、この10月末で第29期が終了します。全国の商工会議所の会頭をはじめ役員、議員の皆さまの中には、退任される方が少なからずおられると存じます。皆さまの、これまでの地域における活動に対し、深く敬意を表するとともに、日本商工会議所へのご協力に対し、心からお礼申し上げる次第であります。
11月からスタートする第30期においても、日本商工会議所は、全国の商工会議所の皆さまと共に、商工会議所のネットワークを最大限活用して、山積する諸課題を乗り越えていきたいと思います。多大なるご支援、ご協力をお願いして私のあいさつとします。 (9月15日)
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