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日本球界で松坂投手は新しい自分をつくれるか?

久しぶりの日本球界は、心地の良い戦いの場となるのか? あるいはさらなるいばらの道となるのか? メジャーリーグから復帰した松坂大輔投手(福岡ソフトバンクホークス)の動向に注目が集まる。

自らの肘に違和感を覚えたのは、2011年のことだった。アメリカに渡りボストン・レッドソックスでも時速150㎞を超える快球速と抜群の野球センスで活躍を続けてきた松坂だったが、長年の勤続疲労か? 故障による離脱を余儀なくされた。

右肘の靭帯損傷。彼は手術を決断する。いわゆる「トミー・ジョン手術」である。その名の由来となったトミー・ジョン投手は、肘に新たな腱を移植して見事な復活を遂げる。アメリカでは、この手術を受けると故障前より球速が増す……ともいわれ、今や多くの投手が不安なくこの手術を受けて実戦復帰を果たしている。翌年、リハビリを経た松坂も元気な姿でマウンドに戻ってきた。

しかし、彼の苦悩が始まったのは、それからだった。フォームは崩れ、直球に威力がなくなったばかりか、持ち前のコントロールの良さも影をひそめる。ボストンから他チームに移籍し環境も変わったが、復活の兆しは見えなかった。このまま松坂は終わってしまうのか。そんな心配も現実味を帯びてきた中で、日本球界への復帰が決まった。

キャンプではフォームの矯正と投げ込みによるスタミナづくりに取り組んだ。選手の内面や肉体的な不安は、そのフォームに表れる。松坂が課題にする左肩の開きは、以前痛めた肘や肩に対する負担を無意識に軽減しようとするものか。小さく巻き込むような右腕の振りはその反作用で、肩の開きを速い腕の振りでカバーしているようにも映る。

おそらく彼にとって最大の敵は「過去の自分」なのだろう。肉体に残る躍動の記憶。うなるようなボールの軌道。そのイメージと今の肉体の間にズレがあるのだ。だとすれば昔に戻るのではなく新しい何かをつくるしかない。今の肉体と感覚の中で最良の投球を組み立てる。大投手が大投手だったことを忘れる。難しいことだが松坂の成否はそこにかかっている気がする。どんなことでも向き合うべきは現実しかない。それをどう受け入れるか。何を変えるか。彼ほどの選手ならば必ずやってのけるはずだ。それは復活ではなく、新たな創造というチャレンジだ。

青島 健太 スポーツライター&キャスター 1958年新潟市生まれ。埼玉県立春日部高校から慶応義塾大学、東芝を経てヤクルト・スワローズに入団。プロ野球初打席で初ホームランを記録。引退後は、オーストラリアで日本語教師を務め、帰国後、あらゆるメディアでスポーツの醍醐味を伝えている。