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まちの解体新書 神に選ばれし豊穣の地歴史を学んで、名物グルメも味わえる

宇佐神宮の西大門。桃山時代の建築様式でつくられている

昔話に出てくる土地

四国を覗き込むように九州から伊予灘に顔を突き出した形の国東半島。そのうなじの部分に位置するのが大分県宇佐市だ。米や麦などが豊かに実る千畳敷の宇佐平野を、穏やかな海となだらかな山並みが挟み込む。そして、全国八幡社の総本宮として有名な宇佐神宮が鎮座する。

「宇佐の一番の魅力は豊かな自然。日本の昔話に出てくるような土地柄です。風水害もあまりありません。昨年秋の台風も宇佐神宮のおかげで来ませんでした。来ないからこそ、神宮があったんだと思います」。宇佐商工会議所の熊埜御堂宏實会頭は柔和な笑顔で話す。

宇佐の誇る恵まれた自然環境は、地域に日本酒、焼酎、ワイン、小ねぎ、海老、すっぽんなどバラエティーに富む山の幸、海の幸をもたらす。最近は鶏のから揚げ専門店が発祥した地として大ブレーク中だ。自然、歴史、食がぎっしり詰まった宇佐は、まさに神に選ばれし豊穣の地である。

宇佐商工会議所会頭 熊埜御堂(くまのみどう) 宏實氏

八幡大神が降臨

八幡神はもともと宇佐独自の地方神。京都の石清水八幡宮や鎌倉の鶴岡八幡宮など全国に広まり、武運長久の神としても知られる

宇佐は古来より、瀬戸内海から東シナ海に抜ける海上交通の重要な中継地だった。穏やかで住みやすい環境もあって、大陸文化がいち早く輸入され発展してきた。地域のシンボルである宇佐神宮の主祭神は八幡大神。八幡は「やわた」とも読み、船の大漁旗が翻る様子を表した言葉である。宇佐の先達が海上交通に関係した民族であったことが伺える。

八幡大神は、応神天皇のご神霊と伝えられ、欽明天皇32(571)年に宇佐の地に顕現された。歴史上で宇佐神宮の名を広く知らしめたのが、二つの「御神託」。天平19(747)年、聖武天皇の東大寺大仏建立を助ける御神託と、神護景雲3(769)年、弓削道鏡の皇位を狙う野望を砕いた和気清麻呂への御神託である。これをきっかけに、中央の朝廷との関係が深まった。

宇佐神宮は全国に4万社以上あるといわれる八幡神社の総本宮であり、伊勢神宮に次ぐ「第二の宗廟」という高い格式を誇る。また、養毛年間の折に仏教の不殺生戒に倣った行事「放生会」が行われたことから、神仏習合の発祥地としても知られている。

寄藻川に架かる神橋を渡り宇佐神宮に入る。大鳥居をくぐった右手には「日本三沢の池」の一つ初沢池。夏は古代蓮が水面を薄紅色に染める。参道には、みやげ物店や茶店が立ち並び、宇佐特産のねぎを使用した「ねぎ焼き」も味わえる。参道を左に折れて石段を登ると深い木立の中から漆喰の白と朱塗りの柱が目に鮮やかな社殿が姿を現す。境内にある大楠は樹齢800年以上と推定される御神木。EXILEのメンバーがヒットを祈願したことでも有名な、大分県を代表するパワースポットだ。

「神宮があるからこその宇佐」(熊埜御堂会頭)。日本人の心のふるさとともいえる宇佐神宮は、この地に来て最初に訪れたいスポットである。

から揚げで世界制覇

宇佐のから揚げは塩味、しょうゆ味、しょうが、骨付きなど各店が個性を競う

日本人の食卓に、お弁当のおかずに、お酒のつまみに、最も人気あるメニューは何か。おそらく、「鶏のから揚げ」を挙げる人が多いだろう。大分県は全国屈指の鶏肉消費量を誇る。中でも宇佐は、から揚げ専門店が発祥した「から揚げのまち」である。当初は、隣接する中津市も「発祥」と言っていたが、同市の発祥店が「宇佐のから揚げ店に習った」ことが判明。今では宇佐が「発祥」、中津が「聖地」とすみ分けている。

「昼休みに4人でから揚げの食べ歩きをしたことがきっかけです」。宇佐におけるから揚げブームの火つけ役である「USA☆宇佐からあげ合衆国」の吉武裕子大統領は話す。吉武さんの本職は宇佐市役所の南部学校給食センター所長。市役所の商工観光課に勤務していたころ、職場の仲間との食べ歩きを記録したサイトが好評を博し、市の観光予算でマップを作成した。これがメディアなどでも取り上げられ話題になり、活動は徐々に広がった。専門店発祥地の記念碑建立、から揚げフェスティバルの実施、さらに昨秋には元モーニング娘。のリーダー、高橋愛さん主演の映画「カラアゲ☆USA」まで作成され、全国ロードショーされた。

宇佐のから揚げは独自の味付けがあるわけではない。市内に約30ある専門店は醤油やにんにく、カレーなどそれぞれ個性ある味や食感を主張している。市民は「お気に入りの店」をいくつか持っており、「今日はこの人が来るので、あの店にしよう」などシチュエーションに応じて使い分けている。味にうるさい地域だけに、お店側も生き残りに必死。某大手の全国チェーン店が数週間で撤退したことでも有名だ。

吉武さんらは一部ボランティアによる活動の輪をさらに広げようと平成24年に合衆国を建国した。「国民は、イベントがあるときに募集するので、永住してはいません。税金もありません。登録もなくて自己申告で国民ですと言えばいいのです。人口は流動的だが合わせて100人くらい」と話す吉武大統領。夢は何かと尋ねると「世界制覇です」と、揚げたての鶏のように熱く語った。

門前町のにぎわい復活へ

安心院産のぶどうでつくるワインの工程見学や試飲ができる安心院葡萄酒工房

文化財の宝庫といわれる宇佐市。なかでもとりわけ歴史情緒あふれるのが四日市地区だ。全国でも珍しく、東西両本願寺の別院が小路を挟んで並び立っている。そのおこりは江戸時代。真宗大谷派(東本願寺)の「真勝寺」住職が東本願寺から西本願寺に転派したが、時の寺社奉行・大岡越前守忠相はこれを認めなかった。しかし末寺11カ寺と檀家1300戸はそのまま西本願寺に属し、勢力を拡大して別院ができた。

この東西別院を中心に門前町が形成され、日田代官所四日市陣屋があったことから行政のまちとしても栄えた。そのような歴史ある同地区で、まちおこしの中核的役割を果たしているのが「四日市伝統技能伝承クラブ」だ。

同クラブを主宰する牧野省三さんは、「子どものころは東西別院のお祭りなどでまちがにぎわっていましたが、バブル崩壊後の経済低迷で、消沈してしまった。そこで、往時のにぎわいを取り戻そうと、平成21年に伝統技能伝承クラブを立ち上げました」と話す。同クラブでは門前町ならではの体験観光を企画、実施している。「街並み散策」「お数珠つくり体験」「四日市人形つくり・絵付け体験」などのグループに分かれ、地元住民のボランティアによる手づくりの活動を行っている。

特に、「数珠つくり」は門前町ならではの取り組み。同グループ担当の服部洋子さんは「使い慣れた思い出のある数珠を修理してほしいという依頼が多い」と話す。全国でも珍しい「念珠を編むことのできる門前町」をPRする。「人形つくり」は、戦時中の空襲などで途絶えた地域の伝統技能の復活を目指している。年々、学校関係者など参加者が増えている。

今年は第13回「全国門前町サミット」が四日市で開かれる。伝承クラブのメンバーは、同イベントを地域の魅力をさらに発信する機会にしたいと意気込んでいる。

「英雄」と「平和」を学ぶ

城井一号掩体壕。掩体壕(えんたいごう)は、敵の空襲から機体を守る戦闘機の格納庫

平松守彦・元大分県知事は「一村一品運動」の提唱で知られるが、人材育成を目的に「豊の国づくり塾」もつくった。その卒塾生を中心に昭和62年に結成されたのが「豊の国宇佐市塾」だ。同塾では、宇佐ゆかりの人物を紹介する冊子を刊行している。中でも知名度が高いのは昭和の大横綱・双葉山。宇佐市の出身で、言わずと知れた不滅の69連勝を成し遂げた国民的英雄である。

教覚寺住職で同塾塾頭の平田崇英さんは「宇佐を相撲の聖地に」と力を込める。宇佐市は平成11年、双葉山の顕彰および観光交流を目的に生家、資料館などから成る施設「双葉の里」を開設した。また、双葉山のほか、白鵬、谷風の3力士の手形を刻んだ「超六十連勝力士碑」も建立。同碑には横綱・白鵬も毎年訪れている。

平田塾頭は、「相撲をスポーツから『道』に育てたのが双葉山。右目が見えず右手小指の第一関節から先もない。家業の倒産など数々のハンデを乗り越えて大横綱になった点など多くの子どもたちに学んでほしい」と話す。資料展示室では、双葉山ゆかりの品々が並ぶほか、人格が伝わる数々の名言にも触れることができる。

同塾は人物発掘のほか、宇佐市の戦争関連資料の保存にも力を入れる。戦争末期、宇佐海軍飛行場からは154人の若者が特攻機で出撃し命を落とした。平成25年にオープンした平和資料館(仮設)には、宇佐航空隊所属を表す「721」の数字が尾翼に記された零式艦上戦闘機(ゼロ戦)を展示。映画「永遠のゼロ」の撮影で使用された実物大模型だ。また、市内では軍用機を空襲から守る「掩体壕」も点在している。小学生がガイドしながら航空隊敷地を回る「平和ウオーク」や、掩体壕にペットボトルの灯籠を並べ平和を祈る「平和のともしび」などのイベントも定着している。

「特攻で突っ込んだ人も突っ込まれた方も両方が犠牲者。そうした犠牲の上に今日の社会が乗っていることへの感謝の念を持ってほしい」(平田塾頭)。4年後にオープンする正式な平和資料館への期待も大きい。

地域の結束力を高める

「双葉の里」にある超六十連勝力士碑の横に立つ「豊の国宇佐市塾」塾頭の平田崇英さん。宇佐の活性化に奔走している

自然のみならず多くの観光資源にも恵まれる宇佐だが、地域にある宝を農商工連携などにより一層生かすことが今後の課題。そして、宇佐ブランドをより高めるため、「地域の結束力」と「広域連携」の強化も必要だ。

熊埜御堂会頭は「食、住に困らない地域なので鷹揚な人が多い。たくさんある1次産品をうまく製品化できないところが悩み。商工会議所としても6次産業化の事業に最も力を入れています」と話す。

「宇佐商工会議所は平成2年に4つの商工会が合併して誕生した宇佐市商工会が前身です。商工会議所としては14年にスタートしました。合併はしましたが、それぞれのまちの祭りなども残っています。そして、市町村合併でさらに2地区が加わった。その融和が使命です。宇佐だけでなく豊後高田や中津とも連携を強化しないといけません」

熊埜御堂会頭が会長を務める三和酒類は麦焼酎「いいちこ」など全国ブランドの製品を展開している。同社は日本酒が主力だったが、焼酎への大胆なシフトチェンジにより危機を乗り切ってきた。「三和」は三社合併を表している。地域の融和は、その苦労をよく知る熊埜御堂会頭のリーダーシップに託されている。「会社のテーマは、従業員が働いて幸せになってもらうこと。地域もそうしたい」。柔和な笑顔が引き締まった。

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