観光、工業、豊かな自然などさまざまな側面を持つ
山口県央部に位置し、東に周南市、北西に山口市と接している防府市は、瀬戸内海を望み、県内一広い平野を持つ。一級河川・佐波川があるなど、自然が豊かだ。
京都の北野、福岡の太宰府と並んで日本三天神の一つである「防府天満宮」は日本で最初につくられた天満宮といわれ、防府のまちはその門前町として商業が栄えた。また、大化元(645)年の「大化の改新」の翌年には周防の国府が置かれ、政治の中心地としても発展。周〝防〟の国〝府〟から「防府」と呼ばれるようになったという。昭和の歌人・種田山頭火や初代群馬県令・楫取素彦など、ゆかりの著名人も多い。
防府商工会議所の喜多村誠会頭は「温暖で住みやすいまちです。防府には歴史的資産が多くあり、観光都市としての魅力があります。一方で、工業都市としての側面も持っています」と語る。
臨海部は、江戸時代には赤穂に次ぐ塩の産地として、また毛利水軍の拠点として重要な役割を担った。現在はマツダ防府工場やブリヂストン、協和発酵バイオなどの大企業が進出し、自動車産業を中心とした工業地帯が広がっている。マツダは国内生産の約50%を防府工場で生産するなど、防府市の製造品出荷額は約9975億円と県内2位(25年度工業統計調査)だ。港も活発で、25年の三田尻中関港は県内トップの輸出額で、全国20位にランクインしている。
マツダでは、車を船に積むところを一般公開することがあり、同所が見学ツアーを企画すると、子どもだけでなく女性にも好評だという。市内では、完成したばかりの車がトラックに積まれて道路を走っている場面にも遭遇する。こうした、防府でしか体験できない貴重な魅力がある。同所では、産業観光にしようとする動きも見られる。
「観光都市だけれども工業も栄え、豊かな自然もある。防府市には一言で言いきれないさまざまな特徴があります。恵まれているが故に、地元の人がなかなかまちの魅力に意識を向けにくい面もありますね。まちが持つ多くの機能を引き出して、市内外にアピールしていかなければなりません」(喜多村会頭)
〝方言〟をブランドとして定着させる
防府商工会議所では、防府の知名度と地元の人たちの郷土愛を高めるために、まちの方言「幸せます」を使った地域ブランドづくりに取り組んでいる。
「幸せます」とは「幸いです、便利です、助かります、うれしく思います、ありがたいです」の意味。同所は平成23年にブランドづくりに着手し、26年度「全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」で奨励賞を受賞するなど、話題を呼んでいる。
「だんだんと市外にも広がってきました。もともとは高校生の発想から始まったものなのです」と喜多村会頭は振り返る。22年夏に、「幸せます」という方言を山口県の人が使っているとテレビ番組で放送され、授業の一環で地域ブランドとなる商品開発に取り組んでいた防府商工高校の生徒らが着目。失われつつある言葉だが、生徒たちはその魅力に気が付き、言葉の大切さを再認識したという。幸せますを使って何かできるかもしれないと、ロゴのアイデア出しからスタート。デザイナーの協力により、「幸せます」という文字に人の笑顔を組み合わせたロゴが誕生した。
防府商工会議所は知財戦略センターを発足させ、幸せが〝増す〟ようにとの思いも込めてブランド化を図り、商標登録。会員企業に声を掛け、10社ほどで商品を開発し記者発表をした。「マスコミも多く集まり、参加した企業も良い感触を受けたようです。それ以降は、審査を通過した商品をブランドに認定するようにしました」と同所の德永雄専務理事は語る。今では、80の商品やサービスが幸せますブランドに登録されている。
商工会議所、高校、企業の連携を強化
「商品・サービスを使ったお客さんが〝幸せます〟と思えるかどうかが鍵です」と話す防府商工高校教諭の黒川康生さんは、幸せます審査委員も務め、商工会議所と地元企業と連携したブランドづくりに力を入れている。生徒のアイデアが企業に取り入れられて商品化されることもあり、他地域からも注目を集めている。
ロゴが商品開発の意欲をかきたてることもある。「幸せますコーヒー」をつくった「ほたみ珈琲」の小林孝光さんは、「最初はのぼり旗を見て、『これいいなあ』と思って商工会議所に問い合わせてみたんです。漠然とではありましたが、『これはいける!』と思いましたね」と振り返る。大阪出身だという小林さん。初めて〝幸せます〟を耳にしたときは意味がまったく分からず「何!?って思いました」と笑顔を見せる。
幸せますコーヒーは地元の人に大人気。生産が追い付かないこともあったという。 「幸せますの取り組みはとてもチャンスのあるものだと思うんです。もっと地域に広がって、今後は防府市のお土産になるようなギフトセットもできたら良いですね」
德永専務も「ようやく形になってきました」と地域の変化を実感している。「市内に幸せますの案内看板を設置したり、原付バイクのナンバーに〝幸せます〟ロゴをつけたりと、行政も動いてきました。私たちの地道な取り組みが実ってきたように感じています。幸せますのことを話せる人を増やし、地域のおもてなし力を向上させていきたいです」と今後の目標を語る。
日常に笑いのあるまちづくり
「地元住民が地域のアイデンティティーを意識し、外部に発信して地域イメージをかたちづくることがにぎわい創出には欠かせません」と、防府市観光協会は、〝笑い〟に視点を当てた地域のにぎわい創出にも取り組んでいる。
防府市大道小俣地区に800年以上もの間、受け継がれている全国的にも珍しい笑いの神事がある。21戸の講員が当屋に集まり、神前に供えてある大榊2本を上座と下座に対座する講員に渡し、2人が大声で3度笑いあう。笑い声の第一声は今年の豊作を喜んで、第二声は来年の豊作を祈って、第三声は今年苦しかったことや悲しかったことを忘れるためのもの。笑い声が小さかったり不真面目だったりしたときは、講の長老が何度でもやり直しをさせる。
この笑う文化をもっと市民全体に広げたいと、観光協会がもともと「笑顔」をテーマにした取り組みを行っており、その延長線上のものとして「お笑い講世界選手権大会」を立ち上げた。
伝統行事をまちの人にあらためて知ってもらおうと始めた同大会は、市内外から海外に至るまで幅広い層の人が参加し、広がりを見せている。さらに、大会の次には万歳三唱に代わる「お笑い三笑」を生み出した。「みんなが笑顔になって楽しい雰囲気になる」とまちの人に大好評で、口上を記載したうちわをつくると、「宴会でお笑い三笑をしたいのだけど、覚えられないからぜひ欲しい」との声が多く寄せられた。 「お笑い三笑は、さまざまなシーンで、場所で、活用していただくことができます。ぜひ他の地域でも使っていただきたいですね。東京オリンピックでもみんなでお笑い三笑をすることが目標です」(黒川さん)
地域に開かれた商店街がまちや子どもたちを育てる
「幸せます通り」と名付けられた、JR防府駅から防府天満宮に続く天神町銀座商店街も、まちの活性化を目指して積極的に挑戦を続けている。
「高齢化が進み、個々の店では売上を伸ばす術を見いだせずにいます。そこで、マツダをはじめとした地元企業や高校生たちとさまざまなイベントを行ったり、アイデアを出し合ったりしながら連携をしています」と語るのは、天神町銀座商店街振興組合理事長の坂本恵次さん。商工会議所や地元企業と連携し14万人が訪れるという大規模な「愛情防府フリーマーケット」の開催や、高校生が商店と一緒に考えた商品を販売する「天神まちかどフェスタ」(文化祭)など、地域と一緒になって行事をつくり上げている。
「よそに行っても帰ってきたい、ここで育ってよかった、と思ってもらえる商店街をつくりたいです」。そう話す坂本さんは、毎年高校生を研修に連れていく。昨年は長崎を訪れ、おもてなしの心や商店街の取り組みなどを学んだ。「防府に残りたいと思ってもらうためにも、地域で子どもたちを育てていくことが大切です。商店街は高校生にとっては教育の場なんです」と坂本さんは言う。
商店街の取り組みは平成25年、経済産業省の「がんばる商店街30選」にも選ばれた。「まちを思うのは、商工会議所も商店街もみな一緒です。これからは次の世代も育てていきたいです」と坂本さんは語る。
新しい挑戦でみんなで地域を幸せに
防府商工会議所は防府を〝食のまち〟にしようとさまざまな取り組みを行っている。梅雨から夏が旬の鱧は、山口県が全国トップクラスの水揚げ高を誇る。西瀬戸内海に面する防府は鱧漁の拠点であり、いきのいい防府特産の鱧を、地元の料理人が高い技術で調理した「天神鱧」として売り出している。
また、冬の風物詩「鍋-1グランプリ」は今年10回目を迎えた。約2万人が訪れ、地元を代表するイベントだ。この催しは、各参加団体が防府産の食材を使用したオリジナル鍋を来場者に販売し、投票点を競うというもの。参加団体の鍋は地元飲食店で提供されるようになり、地域に定着している。さらに、1月からは新たに「玉子かけごはん」のプロジェクトも進行中だ。 「みんなで地域を幸せにすることが大切です」と語る喜多村会頭は、「Happy Together Hofu」のスローガンを掲げている。「注目度、発信力を高めて、防府の魅力を生かした企業誘致な ど、まだまだ取り組むべき課題があります。新しいことに積極的に挑戦し、幸せますのまちをつくりたいです」。
今年、防府商工会議所は設立75周年を迎える。また、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』の主人公・文が生活のしやすさから終の棲家として、防府市に30年間住んだこともあり、大河ドラマ館も1月にオープン。「防府をアピールできる大きなチャンス」と喜多村会頭は期待を寄せる。盛り上がりを見せる防府の挑戦は始まったばかりだ。
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