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コラム石垣 2017年10月11日号 神田玲子

伝統文化もその時代の人々の手が加わることで奥義が究められる。例えば、フランス料理に新風を吹き込んだヌーベル・キュイジーヌ。調理の過度な手間を省くことで、伝統からの離脱を図ったという。著名な料理人を巻き込んだこの運動は、フランス料理の普遍的価値を残しつつ時代に合った仕様に変更する試みだ。

▼こうした取り組みが必要なのは料理に限ったことではない。時代の変化を反映して仕様を見直す必要があるのは経済社会においても同様だ。日本的雇用慣行といわれる終身雇用、年功序列制、企業内訓練の3点セット。これらの制度が高度経済成長期に日本社会に根付いたのは、勤勉な労働者を大量に必要とした企業のニーズに応えたからだ。

▼当時と経済環境が異なる今では、従前の雇用システムも成長の足かせにすらなりかねない。一旦入社した企業に骨をうずめる意識が強いためにリスクをとって起業する意欲が労働者に湧かない。労働者を守るはずの雇用保障も、それと引き換えに人権が蔑ろにされ、長時間労働、パワハラ、過労死という事態を招いてしまう。

▼しかし、性急な制度変更は避けるべきだ。チーム力、後輩への指導、企業への忠誠心といった日本の「強み」は雇用慣行によって醸成されたものであり、制度変更とともに失われる恐れがあるためだ。重要なのは、制度がもたらす大切な価値を残しつつ、時代の方向感を持って見直すことである。先のヌーベル・キュイジーヌも近年では伝統的なフランス料理に回帰する動きも生まれ、真髄を見極めようという努力が今も続いている。私たちも、日本的な雇用慣行の本質が何かを探求しつつ時代の要請に応えるための見直しに取り掛かるべきだ。

(神田玲子・NIRA総合研究開発機構理事)

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