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真壁昭夫の経済底流を読み解く “G6+1”で孤立深める米国のリスク

6月初旬、カナダのシャルルボワで主要国首脳会議(G7サミット)が開催された。会議で注目される写真がある。顔をしかめて座るトランプ米大統領に対して、他の主要国首脳が説得しているように見える写真だ。この時、メルケル独首相は身を乗り出して、トランプ氏に保護主義を改めるよう迫ったのかもしれない。メルケル氏の横には、他の首脳が並び不安そうに見守っている。一方のトランプ氏は困った顔をしているようにも見える。同会議で明らかなことは、G7の結束に亀裂が入ったことだ。“G6+1”と言われるように、保護貿易主義を唱える米国の孤立感が一段と深まった。これは世界経済の大きなリスク要因だ。

国際政治や経済の専門家らの間では、米国と他の主要6カ国との利害対立はある程度予想されていた。トランプ氏は中間選挙に向けて支持を獲得する必要がある。これまでの政権を見ても、通商問題は選挙イヤーの恒例行事だ。トランプ氏が通商問題で強気の姿勢を見せることは十分に予想された。今秋の中間選挙では、共和党が下院で敗北する可能性があるといわれてきた。中間選挙は、ある意味“大統領の通信簿”で、結果次第ではトランプ氏の基盤が脆弱(ぜいじゃく)化することも懸念される。それを避けるためトランプ氏は、主な支持層である白人労働者の支持を獲得したいと考えるだろう。彼らにとって聞こえのよい主張とは、鉄鋼業などオールドエコノミーの復興だ。それが同盟国に対する鉄鋼・アルミ輸入への関税適用につながったとみられる。ただ、米国と主要国は経済的な相互依存度が高い。通商面で互いに関税引き上げなどの対抗措置をとれば、世界経済全体が混乱に陥る。それは米国も主要国も分かっている。通商面での全面衝突は避けなければならない。トランプ氏は、鉄鋼など伝統産業分野で主要国との鍔迫(つばぜ)り合いを演じつつ、水面下で妥協点を見出すというのが専門家の見立てだ。

懸念されるのは、米国と主要国間で“ボタンの掛け違い”という不測の事態が発生すること。今後、注目されるのは、トランプ氏が自動車および関連部品などの輸入に関税(最大25%)をかけるか否かだ。もし、米国が自動車分野での譲歩を主要国などに求めると、世界経済に無視できない影響が及ぶ。自動車産業のすそ野は広い。わが国の就業人口のうち、自動車関連産業の従事割合は8%程度。主要製造業に占める出荷額は約20%と化学や鉄鋼よりも大きい。企業の海外進出で各国間の依存度も高い。2011年3月の東日本大震災の際、わが国の生産活動が低迷し自動車を中心にサプライチェーンが混乱した例は、その典型だ。米国が輸入車への関税を引き上げると、日独メーカーへの影響は避けられない。その場合、各社が生産拠点を置いてきたタイなど新興国の生産活動が縮小し、世界経済全体にマイナスの影響を及ぼす恐れがある。

米国が本当に自動車関連の輸入関税を引き上げる構えを見せれば、金融市場では主要自動車メーカーの株価下落などリスク回避が進むだろう。リスクオフが強まると、不良債権問題に直面するイタリアを中心に欧州銀行株への売り圧力が高まる恐れもある。そうした状況は考えづらいものの、中間選挙が近づくにつれて、トランプ氏の姿勢は一段と強まる可能性がある。それとともに、米国と主要国間での“ボタンのかけ違い”が生じる可能性も高まる。通商面での譲歩を各国に求める米国は、今後の世界経済を左右するリスク要因と考えるべきだ。それに伴い、トランプ氏からわが国への圧力も強まるだろう。わが国はそうした要求には毅然とした態度で臨めばよい。同時に多国間の経済連携強化に向け、わが国の考えを多くの国と共有する必要がある。アジアを中心に新興国との関係を強化し、TPP11(米国抜きの環太平洋経済連携協定)の魅力度を高め、参加国増に取り組む意義は大きい。多くの新興国が、わが国主導のメガEPAに参加すれば、覇権強化を目指す中国との関係を重視してきた独英仏の考えに変化が現れることも考えられる。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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