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真壁昭夫の経済底流を読み解く データ流出で分かったIT企業のリスク

4月初旬、米国の議会公聴会で、フェイスブックのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)がデータ流出事件関連の質問を受けた。ザッカーバーグCEOは厳しい追及を受けたが、とりあえず無難に公聴会を切り抜けたとの見方が有力だ。ただ、これで同社に関するリスクがすべて払拭(ふっしょく)されたわけではない。むしろ、個人情報の管理の甘さが顕在化したと見るべきだ。今回の事件によって、フェイスブックのような先進IT企業のビジネスモデル自体が、今後、制約を受ける可能性も否定できない。

これまでのプラットフォーマーと呼ばれる先進IT企業のビジネスの中心の一つには、ユーザー間のコミュニケーションなど人々の行動に関する“ビッグデータ”を集め、それを販売することがあった。今回の公聴会でザッカーバーグCEOは、このデータを十分に管理していなかった責任を認めた。フェイスブック問題の本質は、同社のビジネスモデルのリスクが顕在化したことだ。同社は、われわれの日常生活の一場面をネットワーク空間に取り込んだ。すでに、1日14億人がフェイスブックにアクセスしている。日常のワンシーンを共有するだけでなく、フェイスブックをホームページ代わりに利用するなど、コミュニケーション、ビジネスのプラットフォーム=基盤としての機能が形成され、人々の思考に関するデータが蓄積されている。このプラットフォームには、データを収集し、販売するという機能もある。それを強化することでマーケティング需要などを取り込み、同社は成長した。

同社の利用規約には、「データは機能向上以外には使われない」「ユーザーは個人の情報を管理できる」と記されている。しかし、実際にそれは守られていなかった。事実上、同社は満足度を高めて利用者数を増やし、そこから得られるビッグデータを販売し高収益を獲得してきた。同社の売り上げの98・5%が広告関連だが、この収入とデータ販売の関係は、早急に明らかにされるべきだ。

2017年のフランス大統領選挙でフェイクニュースが問題となった。それは、ある意味では、フェイスブックのリスクは世界に拡散していることを意味する。それを同社は放置してきた。最大のリスクとは、データがネットに筒抜けになることよりも、人々の行動が無意識のうちにコントロールされる恐れがあること。しかも、それが選挙の結果に影響を及ぼした可能性がある。それは、とても恐ろしいことだ。今回、われわれはフェイスブックのデータ流出によって、恐ろしい事態が現実に起きていたことが分かった。後から振り返ると、歴史的にも重要な出来事になるかもしれない。ある意味、フェイスブックはセキュリティー面に関する、人々の“一種の無関心”をうまく利用してきた。人々が自分の情報の扱いに無関心であったため、ユーザーを保護することは軽視され、セキュリティー面への投資が控えられてきたともいえる。その結果、データ管理コストの支出を抑えて、高収益・高成長を遂げたとも解釈できる。

その経営に対して、アップルのクックCEOらIT関連企業トップから批判が相次いでいる。それは、ザッカーバーグCEOが、社会的な責任を全うしていないという指摘だ。フェイスブックは社会から孤立する恐れがある。つまり、データや広告宣伝から収入を得るビジネスモデルの限界が露呈している。それによって、私たちがネットワークテクノロジーの持つ潜在的な影響力に無関心だったことを確認する機会になった。SNSなどを通してデータが意図せざる形で使われることへの無関心さ、無警戒さが修正されるにつれ、IT企業の経営コストは増えていくだろう。少なくとも、これまでのような高成長を維持することが難しくなることは避けられない。フェイスブックは、社会的な責任を果たすことができなかった結果、この状況に直面していると考えるべきだ。人々のネットワークテクノロジーに対する認識が変化するにつれ、競争力を低下させる、あるいは失う企業が出てくるかもしれない。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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