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真壁昭夫の経済底流を読み解く 懸念される米国の保護主義的政策

最近、米国トランプ大統領の保護主義的な政策運営が目立っている。大統領はツイッターで、「貿易戦争は良いことであり、それに勝つのもたやすい」と発言した。トランプ大統領の保護主義的な政策運営の背景には、今年秋の中間選挙が頭にあると言われている。

今のところ、トランプ大統領に対する支持率は30%台後半で低迷が続いているようだ。今後、支持率を高めることができないと、選挙に勝つことは難しい。中間選挙は、いわばトランプ大統領の成績表とも言える。トランプ大統領としては、何か目立った成果を示して有権者の支持を増やしたいとの思いがあるはずだ。それが、今回、通商政策にも現れたとの見方もある。各国から輸入される鉄鋼とアルミニウムなどに追加の関税を賦課して、米国の鉄鋼業などを復興させる道筋をつくったと有権者にアピールしたいと考えているのかもしれない。

ただ、米国が保護主義的な政策を進めると、各国が米国からの輸入品への関税を引き上げるなど報復の応酬につながる恐れがある。その結果、世界経済が縮小均衡に向かう可能性が高まる。長い目で見ると、トランプ大統領の目指す通商政策は、米国の利益とならない可能性が高い。米国が強硬姿勢を貫けば、中国や欧州連合(EU)各国が米国に簡単に譲歩するほど国際貿易体制は単純ではない。

資本主義経済では、市場の機能を通して成長期待(期待収益率)の高い産業分野・企業に資源が配分される。社会が成熟しインフラ投資が一巡した経済では、イノベーションを推進して生産性を引き上げることが成長には欠かせない。特に人件費の高い米国では、鉄鋼産業などのオールドエコノミーの復興を重視する発想よりも、IT関連などハイテク産業育成を優先する方が効率的だ。その意味で、旧来の重厚長大型の産業分野での雇用維持を重視することは効率的な政策運営にはなりにくい。中国が鉄鋼などの分野で過剰生産能力を抱え世界的にも需給がだぶつく中、人件費の高い米国で鉄鋼を生産しても、製品の競争力は高まりにくい。それでは、本当の意味で米国経済を強くすることには結びつかない。

リーマンショック後の世界経済は、米国の景気回復に支えられてきた。それが中国、ユーロ圏、日本の経済の緩やかな回復につながった。トランプ政権が保護主義的な通商政策を進めると、米国経済の不確実性は高まる可能性が高い。それに伴い、世界経済全体の先行きの不透明感が高まる。

現在、米国経済は堅調な展開を続けている。完全雇用に近い環境で、徐々に賃金は増加し、物価も上昇するとの見方が増えている。連邦準備制度理事会(FRB)は景気回復や株価上昇に貢献した低金利環境の正常化を目指している。この環境で、トランプ政権が保護主義的な政策を進めるに従い、ドルに下落圧力がかかることも懸念される。ドルが下落すると、米国の輸入物価には上昇圧力がかかりやすくなる。それによってインフレ懸念が高まることも考えられる。インフレ懸念が顕在化すると、長期金利が上昇して個人消費にブレーキがかかる恐れがある。米国では、家計の債務残高が過去最高を更新し、新車の販売台数は伸び悩んでいる。需要は増加しづらくなっていると考えられる。輸入物価上昇、金利上昇への抵抗力は十分ではない。

また、ドル弱含みの展開は円やユーロなど、ドル以外の通貨の上昇要因となる。過剰生産能力の解消を優先したい中国は、人民元の下落圧力を高め、輸出振興で対抗するかもしれない。状況によっては、世界の金融市場に動揺が走り、リスク回避から株価は急落することもありうる。ドル安による米国企業の収益かさ上げなど以上に、保護主義政策の弊害は大きい。最悪のシナリオは、米国と、中国をはじめとするそれ以外の国・地域で、経済・金融市場の混乱が同時に進むことだ。トランプ大統領の保護主義的な政策運営は、今後の国際的な政策協調、経済連携を難しくさせるだろう。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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