コラム石垣 2017年7月1日号 宇津井輝史

むきになって目くじらを立てるほどではないが、カタカナ語の氾濫にイラつく人は多かろう。日本にはない考え方が英語圏から言葉と一緒に入ってきたとき、本来の意味を損なわないようにするため、英単語をそのまま使うべきという意見は分かる。確かに、イメージ・トレーニングを和単語に置き換えるのは難しい。パブリシティやソフトウェアもその類だ。日本語で説明しようとすれば数行を要する。

▼だが「尊敬」をわざわざリスペクトと言い直す必要があるのか。義務的行為をマストなどと言うのも日本だけと思うが、小学校からプログラミング教育をする時代に、スマホやパソコンの操作で意味不明な単語によく遭遇するなどと言ったら、もっとITリテラシーを高めろと一喝されるだけだろうか。

▼日本人は古来、中国から伝わった表意文字の漢字をもとに、表音文字であるひらがなを発明する大技を用い、さらにそれを西洋語表記にも対応できるカタカナを創作する荒技を使った。この柔軟性のおかげで私たちの言語生活は便利で豊かになった。中国語が「電脳」と表記するものを、私たちは原語の発音そのままにコンピュータと表記できる。

▼偉大な中華文化圏にありながら、ハングルの発明で表意文字改革を進めたのは韓国も同じ。だが漢字併用の議論はいまも続く。日韓の師匠格の中国では、漢字の略字化が進む。画数は減るが、表意文字の意味を成さなくなる。伝統と断絶する革命の一環なのか、文字体系を変えてしまったのは中国の徹底性ゆえか。日本は、文化的には良くも悪くも不徹底だから占領軍の漢字廃止要求にも柔軟に対処できた。柔軟性こそ日本社会の発展原理だった。政治がこの柔軟性を失ってはなるまい。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

この記事をシェアする Twitter でツイート Facebook でシェア

次の記事

コラム石垣 2017年7月11日号 丁野朗

東洋大学大学院国際観光学部客員教授・丁野朗

各地で現代の「私塾」とでも呼べる人材塾が盛んになっている。疲弊した地域には、安易な補助金というカンフル剤に頼るだけではなく、地域を担い産...

前の記事

コラム石垣 2017年6月21日号 神田玲子

神田玲子・NIRA総合研究開発機構理事

米国の大統領は、何を代表しているのか。それは、米国民の一部の人々ではないはずだ。トランプ大統領は、地球温暖化に対する国際的取り組みである...

関連記事

コラム石垣 2022年1月1日号 コラム「石垣」執筆者に聞く 2022年の展望

コラムニスト 宇津井輝史/NIRA総合研究開発機構 理事 神田玲子/観光未来プランナー 文化庁日本遺産審査評価委員 丁野朗/時事総研 客員研究員 中村恒夫/政治経済社会研究所 代表 中山文麿

日本商工会議所100周年を迎える2022年。いまだコロナ禍の収束を見ない中、時代はどう変わるのか。本紙コラム「石垣」執筆者に、今年の日本と世界の...

コラム石垣 2021年12月11日号 神田玲子

NIRA総合研究開発機構理事 神田玲子

先日、久しぶりに友人と会った。先の衆議院選挙について「成長と分配ということだけれど、今更何を言っているのか」と首をかしげた。確かに、成長...

コラム石垣 2021年12月1日号 中山文麿

政治経済社会研究所代表 中山文麿

先月の8~11日、中国共産党の第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)が北京で開催され、習近平国家主席の主導の下、共産党の第3回の歴史決議が...

月刊「石垣」

20221月号

特集1
老舗に学ぶ経営哲学 100年企業が守ってきた“わが家の商法”

特集2
新たな波が大きなチャンスになる!地域企業連携で新エネルギーに挑む

最新号を紙面で読める!

詳細を見る

会議所ニュース

月3回発行される新聞で、日商や全国各地の商工会議所の政策提言や事業活動が満載です。

最新号を紙面で読める!

詳細を見る

無料会員登録

簡単な登録で無料会員限定記事をすぐに読めるようになります。

無料会員登録をする