年間20商品を一緒に開発
「お客様と何度も何度も試食をして、とってもおいしい茎みょうがのピクルスが出来ました」
早稲田大学に隣接した商店街にあり、産地直送の生鮮品から調味料などを扱う食料品店「こだわり商店」の店頭には、いくつかの「お客様と」で始まるPOPがある。同店では年間20アイテムほど、お客と一緒に商品を開発している。
その一つが冒頭の茎みょうがのピクルスだ。きっかけは店主の安井浩和さんが高知県を訪れた折、道の駅でみょうがの茎が山積みで売っているのを見つけたことだ。東京では見慣れない食材に、どう食べればいいのかを尋ねたところ甘酢漬けにするとのことだった。しかし、各家庭で漬けるのが一般的で、甘酢漬けとして商品の販売はされていなかった。
そこで安井さんは地域で一番腕の立つつくり手に商品化を依頼した。さっそく届けられた試作品をお客30人ほどに試食してもらった。すると予想に反して「甘すぎる」と大不評となってしまった。高知県で求められる味が東京では通用しないことに驚きと面白さを感じた。
そこで今度は、お客に試食してもらうたびに「どう改善したら、あなたが買いたい商品になるか」を徹底的に聞き込んだ。味だけでなく、価格、商品パッケージの形状、消費期限まで幅広く意見を求めた。
さらに、そうしたお客からの情報は包み隠すことなく生産者にフィードバックした。大不評だったことには悔しがりこそしたが、消費者の正直な意見を聞きながら商品化に向けて試作を繰り返してくれた。 安井さんは、さらに幅広い意見を聞くべく、青果店を経営する仲間を巻き込み4店舗で100人ほどの声を集約。度重なる試作と試食を繰り返すこと約4カ月、とうとう納得のいく茎みょうがのピクルスが完成した。
このように、商品が出来上がる過程を一緒に体験したお客は、完成品に強い愛着を持ち。結果、口コミによる広がりも見せ、他にはないオリジナル商品として4店舗での年間販売数は1000袋となった。
ヒットの芽は会話にあり
もっとも、お客と一緒にオリジナル商品を開発したとはいえ、全てが簡単に売れるわけではない。
「失敗は山ほどあります。でも、売れる努力は必死でします。クオリティーの高いオリジナル商品をつくってもらったのに、売れなかったといって一度きりにするのは失礼です。生産者のプライドを傷つけないためにも売れる商品に育てていきます」
15坪ほどの小さな店ゆえ、販売数はそれほど多くはない。それでも生産者側は協力を惜しまない。なぜなら、同店と一緒に商品開発をすることで「お客の顔が見える商品」が出来上がるからだ。同店で提案し開発した商品は、生産地の道の駅などでも大きな需要が生まれ、売り上げを伸ばしている。
安井さんは今後、共働き世帯や高齢者世帯のニーズに応えて、冷食のバリエーションも増やしていく考えだ。オリジナル商品も40品目を目標としている。
このように、安井さんは今までお客になんでも相談してきた。2007年の開店当初、店の目指す方向性に迷いが出たときもどうすればいいか聞いたという。そのとき、「私、この商品が好き」という声を集めることで、他に代え難いオリジナリティーあふれる店へと成長してきた。
「店は僕のキャラクターが強すぎてもよくないと思います。あくまで、店とはお客さまの希望をかなえる場所です。お客さまと共に成長する店でありたいですね」
そう語る安井さんは、お客一人一人と会話を交わすことにより、今日もヒット商品の芽を見つけている。
(笹井清範・『商業界』編集長)
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