2020年7月28日 日本商工会議所
緊急事態宣言解除から2カ月が経過し、わが国は、感染拡大防止と社会経済活動を両立しつつ、正常化を目指す新しいステージへと移行したが、現在、東京など都市部において、積極的なクラスター対策などに伴う新規感染者が急増し、各地にも感染が拡大しつつある。活動制約が残る中、各地の中小企業などの事業継続と雇用維持の努力は限界にある。今後、第2波、第3波に直面し、再度の緊急事態宣言という事態になれば、倒産・廃業が急増することが強く懸念される。新たな感染の波が発生しても再開した活動のレベルを極力落とさずに済むよう、今や社会経済活動維持の基礎的インフラである検査体制の拡充と医療提供体制の安定化が急がれる。
政府においては、自治体との緊密な連携の下、感染動向を素早く把握する検査体制の拡充と、新たな感染拡大に極力対応可能な医療提供体制の具体的な数値目標と時間軸を盛り込んだアクションプランを早急に示し、国民や事業者が過度に萎縮することなく活動を行える環境を整備されたい。
同プランの実効性を確保するためには、新規感染者の早期発見や重症者の抑制に大きな効果が期待できる「攻めの検査」の積極的な実施と、コロナ禍で厳しい状況に陥っている医療機関経営の持続性確保への支援などが鍵となる。また、国民や事業者が正しく感染状況や危機意識を共有できるよう、感染者数だけでなく、検査対象や件数、陽性率、感染者年齢層、経路不明者割合、重症患者数、受け入れ病床の状況などを適切に情報提供していく必要がある。あわせて、感染者に対する風評被害防止にも配慮されたい。
もとより、経済社会活動再開には、国民の感染予防への意識向上と事業者の業種別ガイドラインに基づく対策が不可欠であり、商工会議所として、改めて周知・徹底を図りたい。
1.検査体制と医療提供体制の拡充に向けた「数値目標」と「時間軸」の早期明示を
(1)「攻めの検査」の実施~早期発見・早期隔離による市中感染リスクの低減~
有症状者への迅速なPCR検査の実施とともに、無症状でも感染リスクの高い場所に存在する者や入国者などを対象に徹底的に検査することで感染源を早期特定し、広く接触者を早期に追跡・隔離することで二次感染を防止する、いわゆる「攻めの検査」は、感染者の早期発見や重症者の抑制に大きな効果が期待できる。
「攻めの検査」で早期発見された軽症・無症状の陽性者を民間宿泊療養施設などで計画的に隔離することができれば、重症者への対応が求められる医療機関への負荷の軽減が期待できる。「攻めの検査」で市中感染リスクの低減が図られれば、国民や事業者は過度に萎縮することなく、社会経済活動を行うことが可能となる。
(2)数値目標や時間軸を盛り込んだアクションプランの「見える化」
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会において、「感染拡大した場合に想定される必要な国全体の検査ニーズを国民に明らかにし、検査体制を拡充する」との基本的な考え・戦略が示されている。
現在、自治体が地域の検査ニーズなどを精査しているが、これらを整理・統合し、想定される感染拡大に対し、機動的に検査体制と医療提供体制を強化できる具体的な数値目標と時間軸を盛り込んだアクションプランを8月初めにも示し、国民と事業者の不安払拭(ふっしょく)を図られたい。インフルエンザ流行時(1日10万人超の新規患者が想定)を見据え、1日10~20万件の検査体制が必要との指摘もあり、感染拡大が懸念される秋までに計画的に検査体制と医療提供体制を拡充されたい。
なお、感染疑いのある人を見つけ出す抗原検査や、感染初期か回復期かを診る検査、感染時の重症化予測をする検査、既往歴を見る抗体検査、確定診断としてのPCR検査をフロー化し、目的に合った検査体制を確立・拡充していくことが効果的である。
2.医療機関経営の持続性確保、地域における医療提供体制の安定化への支援の拡充を
~新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の弾力的な運用と増額~
新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れた医療機関のみならず、受け入れていない医療機関も感染不安による受診抑制で外来患者が減少し、経営が厳しくなっている。医療機関は、今や社会経済活動維持の基礎的インフラであることから、経営の持続性確保に向け、コロナの影響に伴う一時的な減収に対する支援などが必要である。
また、最前線で対応されている医療従事者への定期的なPCR検査などの支援も必要である。
第2次補正予算で、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金が措置されたが、地域が実情に応じ、従来の重点医療機関の施設要件の弾力的な運用や入院医療機関への運営経費支援の対象化など幅広く活用できるようにすべきである。また、医療機関への経営支援に加え、以下の医療提供体制の安定化に資する取り組みなどに対し、予備費の充当を含む同交付金の増額を図るとともに、コロナ専用病棟などの環境整備も進められたい。
①軽症・無症状の陽性者用の宿泊療養施設の確保
「攻めの検査」で一時的に増加が見込まれる軽症・無症状の陽性者用のホテル借り上げなど宿泊療養施設の戦略的な確保が不可欠である。十分な規模で施設を確保されたい。
②保健所の機能強化
保健所業務は、相談、検査判断、検体回収、結果連絡、受け入れ先調整と多岐にわたり、人員的に逼迫(ひっぱく)している。専門性が必要な業務に保健師を集中させ、他の業務は、ITなどの活用、民間委託や臨時職員の採用などで対応すべきである。また、一定の検査レベルを有する民間検査機関などを活用し、保健所の機能強化を図ることも効果的である。
3.中小企業などのビジネス目的による受検環境の整備を
(1)出入国者への検査体制の強化、陰性証明書の円滑かつ迅速な発給体制の構築
現在、空港PCRセンターのほか、トラベルクリニックや企業内診療所などが産業医や検査機関と連携・実施する枠組み「都市部PCRセンター」を設置し、PCR検査体制を拡充する方針が示されている。段階的にビジネス目的を優先して拡大される国際的な人の往来再開のボトルネックにならないよう民間検査なども最大限活用し、主要空港や港湾などにおける検査体制の大幅な増強が求められる。空港PCRセンターについては、国際拠点空港である中部国際空港などへの設置も必要である。
また、出国者への陰性証明書については、PCR検査などに協力する民間検査機関などに政府の品質証明を付与し、国際協調の下、検査の標準化を進め、政府や政府が認めた検査機関などが発給する証明書であれば、各国入国時に認められるようにするとともに、証明書の低コスト化と、迅速かつ円滑な発給体制を構築し、地域の中小企業などが必要な時に取得できる環境を整備されたい。
(2)民間PCRなど検査費軽減への支援
業務に伴う出張者やイベントに係る出演者などへのビジネス目的の検査は、基本的に保険適用外の検査となるが、現時点では検査サービス体制が整っていないことに加え、費用も高額のため、中小企業などが適宜容易に活用できる環境にはない。
ビジネス目的による民間検査が積極的に実施されれば、感染者の早期発見と当該者からの二次感染が防止され、新規感染者や重症者発生の抑制と、市中感染リスクの低減に資する。新たな感染拡大時には、国民全体への行政検査への転用・活用も可能である。
こうした社会的な意義を有するビジネス目的による民間検査が広く地域の中小企業などで活用されるためには、検査費自体の軽減が必要である。検査機関などが、低コストで、検査時間が短く、検査時の感染リスクも低い唾液検査などの新しい検査の導入や全自動検査機器などの先進技術の積極的な活用に対する支援を拡充すべきである。
なお、検査に係る偽陽性、偽陰性などの検査精度については、さらなる向上に取り組まれたい。
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