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テーマ別企業事例 高齢社員活用のススメ シニア人材活躍で企業が若返る!?

慢性化する人手不足解消に向けて多様な方策が模索されている。特に中小企業が必要としている即戦力という意味では経験のあるシニア層(高齢者世代)が注目されている。そこで、65歳以上が活躍している企業の戦略と狙いを聞いた。シニアが安心して働ける会社には人が集まる!

事例1 熟練工集団として地域産業を支え続ける

有本電器製作所(新潟県加茂市)

1964年に移転した現工場は敷地面積4785㎡を有する。2003年にISO9001を取得

地元大手企業との取引を中心に、さまざまな産業機械や工作機械などの高精度な部品加工を得意とする有本電器製作所では、65歳以上の社員が全体の約22%を占める。熟練工としての卓越した技術で、工場の運営を支え、段取り、メンテナンス、そして勘どころと若手を凌駕(りょうが)する領域も多い。目覚ましい活躍にシニア人材への期待は大きい。

即戦力になるシニアは工場の原動力

北越の小京都と呼ばれる加茂市は、県下でも稀な複合産業の集積地だ。木工や繊維、電気器具や機械、金属、皮革製品、食品などの産業が栄えている。だが、少子高齢化の波は例外なく押し寄せ、近年は製造業も振るわない。

「若者も少ないですが、シニアも少ない地域です。工場集積地ですが、製造業は若者に人気がありません。この地域では、製造業で腕を鳴らしたシニアの方が、未経験の若手よりも引く手あまたと言えますね」。そう言って代表取締役の有本照一さんは苦笑する。

1950年創業の同社に、65年に大学卒業と同時に入ったというが、その頃は製造業に勢いがあった時代で、工場内も20代、30代の若者で活気があった。だが、今は55歳以上の社員が全体の約57%、65歳以上が約22%を占める。かつての若者が工場を支えている図式だ。

「一昨年まで80歳の女性社員がいましたし、今はパートで65歳の男性3人が働いています。働けるだけ働きたいと考えるシニアの受け皿になっています。こちらも即戦力になるシニアは大歓迎です」

定年を迎え、その後、生活のリズムが狂って体調を崩したという他社での話や知人の姿を目にすることもあり、65歳の定年後も本人が希望すれば継続して働けるようにしているという。昇給や年2回のボーナスはないが給料は同額という条件を事前に説明し、本人の判断を仰ぐ。社員の平均年齢が上がることに危機感はなく、むしろ「今まで働いてくれた恩返しの気持ちの方が強い」と言い切る。

十数年前に当時あった新潟県高齢者雇用開発協会から協会長賞を受賞した時も、すでに社員の平均年齢は50歳だった。「社員が頑張ってくれたおかげ」と社員一人ひとりにリンゴを贈ったことを懐かしそうに語って、有本さんは顔をほころばせる。

働きやすい環境づくりで作業効率と意欲を高める

有本電器製作所では産業機械や工作機械などの高精度部品加工や組み立てを行っており、加工作業は切削、研磨、溶接、レーザーやプレスなど多岐にわたる。さまざまなニーズに対応できる多品種少量生産体制をとっているが、その要となっているのがシニア人材だ。

「若手社員よりも技術力はあるし、スピードも大差ありません。力仕事や今どきの機械操作は若手が担当し、最新設備でもできない技や勘が生きる作業はシニアにするなど、個々の能力を生かして持ち場を決めています」

熟練工でないとできない〝手づくり品〟や仕上げ加工では、この道何十年という社員が手を休めることなく作業している。仕事への情熱、誇りが同社の高品質を支えているようだ。

「体を壊さない程度に働いてくれればいいからと言っても、みんな就業時間をきちんと守って働いてくれます。今年の夏は特に酷暑だったので15時の10分間の休憩を30分にしようとしたのですが、高齢の社員ほど長すぎるから20分でいいと言ってきました」

社員たちの勢いに押されて休憩時間は20分になったそうだが、社員に毎日アイスクリームを振る舞うなど、労をねぎらうことを忘れない。

また、シニア世代が働きやすい職場づくりにも注力している。工場内はバリアフリーで整理整頓を心掛け、照明を多めに設置してモノが見えやすいように工夫している。今年からAED(自動体外式除細動器)も設置し、もしもの時にも即対応できようにしている。

「働きたいという気持ちに、こちらも応えていきたいですからね。従来通りの働きができなくなった時は本人からパートにしてほしいとか、退職を申し出てきます。こちらから指示したことは一度もありません」

働き手として尊重し個々の能力を引き出す

若手社員も勤勉に働いてくれるが、ハングリー精神はシニア世代の方がはるかに上回るという。

「今は、生まれた時から身の回りにモノがあふれ、つくらなくても買えばなんでも手に入る時代です。そのせいか、努力をして何かを成し遂げようという気持ちは、年配の人の方が強いですね。つくる喜び、楽しさを若い世代にも広げていきたいのですが、製造業の仕事は1日、2日で身に付くものではなく、時間をかけて体で覚えていくもの。それを熟練工の姿を見て感じ取ってもらいたいのです」と有本さん。

製造工程において、その道何十年のベテランにしかできない作業もあり、後継者をどう育てていくかが課題だという。育成には時間がかかるため、優秀なシニア人材を中途採用して、品質維持、品質向上を図らざるを得ないのが実情である。

「シルバー人材センターや人材派遣会社のほか、取引先にも声を掛けて随時募集しています。65歳で退職されても、その後10年間弊社で働いてくれたら十分戦力になります。もちろん2年、3年でも構いません。新しくイチから何かを覚えるのではなく、今までやってきたことで能力を発揮してもらえるようにしています」

適材適所の人員配置も生産効率を高めている要因のようだ。国内の製造業は、低コストの海外製品の勢いに押され気味だが、それでも勝算は十分あるという。

「いくら安価でもまだまだ品質が安定しないという弱点があります。以前、取引先の一つが海外に発注したことがあったのですが、結局弊社に戻ってきました。安くても欠陥品が多く、結局コスト高になる。世界一いいものをより安く、安定供給する。それを継続するまでです。弊社と取引が60年続いている企業もありますが、そういう関係性こそが大事だと思います」

数字だけでは読み取れない、人と人とのつながりや共に歩んできた道のりにも目を向ける。そのまなざしは社員に対しても取引先に対しても変わらない。

狙うは国外より国内手堅い経営で生き残る

有本さんはシニア人材の活用に積極的であるが、決して〝シニア頼り〟ではない。44歳以下の社員も全体の約30%を占め、女性社員も12人いる。

「シニアに限らず、年齢、性別を問わない優秀な人材の確保が事業の継続には不可欠です。時代とともに働く目的、価値基準は違います。私たちの世代の価値基準で働き方や物事を決めるのではなく、若者の価値基準を尊重して、誰もが働きやすい環境づくりを心掛けています」

働きやすい環境づくりだけではなく、設備投資も怠らない。1989年にはオフコン(オフィスコンピューター)を導入して生産管理の効率を高め、2016年にはパソコンに切り替えて、さらなる合理化を図っている。最新の大型設備に1億数千万円かけるなど、不景気だからと守り一辺倒ではなく、費用をかけるところにはかける、将来を見据えたかじ取りは有本さんの手腕が大きい。

「日本のものづくり産業を支えてきたという自負があります。最近は海外を視野に入れた事業展開をされるところも多いようですが、意気揚々と海外進出した同業者らが、こっそり引き返してくるのを見てきました。弊社は、取引先である地元企業との信頼関係を強め、地道にメード・イン・ジャパンのクオリティーを維持していくことに努めています」

全国各地で工場閉鎖が相次ぎ、県外からの大口注文もあるという。だが工場のキャパシティーを超える注文は潔く断る。規模拡大で稼働率を上げるというばくちは打たない。

「今の規模に見合った生産性とクオリティーを維持しつつ、国内需要を開拓していく方針です」

気負わない身の丈にあった経営が、社員の働きやすさにもつながっているようだ。

会社データ

社名:株式会社有本電器製作所

所在地:新潟県加茂市寿町5-25

電話:0256-52-1361

HP:http://arimoto-d.jp/

代表者:有本照一 代表取締役

従業員:48人

※月刊石垣2018年10月号に掲載された記事です。

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