事例2 定年引き上げと再雇用制度でシニアの元気が若手の起爆剤に
中部静電塗装(岐阜県可児市)
創業以来、自動車部品の塗装をメインに手掛けてきた中部静電塗装。仕様の異なる多種多様な金属製品に均一な塗装を施すには、長年培った技術と粘り強さがモノを言う。それらを併せ持ったベテラン従業員を、高齢を理由に失うのは損失だと、2014年より定年を65歳に引き上げ、それ以降も再雇用する仕組みを整えた。
熟練作業者の定年を機に雇用制度の見直しに着手
岐阜県可児市工業団地の一画にある中部静電塗装は、1951年の創業以来、自動車部品を中心とした金属製品の塗装を主事業としてきた。当初は一般的な吹付塗装を行っていたが、徐々に設備を整えて静電塗装の比重を増やしていった。
「静電塗装というのは、静電気を利用した塗装方法です。吹付だと塗料の半分くらいは空気中に飛散し、無駄になってしまいます。その点静電塗装は、塗料にマイナスの電気、塗装するものにプラスの電気をそれぞれ帯電させて塗る方法で、互いが引き合って塗料が無駄にならないので非常に効率がいいんです」と同社社長の板津匡志さんは説明する。
その後、新たにカチオン電着塗装を開始する。これも電気を利用するもので、塗料を大きな槽に入れ、そこに塗装するものを沈めて塗料を付着させる。この方法はどんなに複雑な形状をしたものでも、均一に塗装できるのがメリットだ。これらの設備を備えていることにより、大手自動車メーカーをはじめ、金属加工会社などの一次下請けとして、安定した経営を行ってきた。
そんな同社が雇用制度の見直しを考え始めたのは、5~6年前のこと。同社の主力である静電塗装やカチオン電着塗装の設備を操作するには、一定の技術と経験が必要だ。しかも、塗装するものは多種多様であることから、それぞれの仕様が頭に入っている方が、適切な作業を施すことができる。つまり、熟練作業者が不可欠なのだ。当時、そうしたベテラン従業員が数人、定年を間近に控えていた。
「当社は三十数人の小さな会社ですから、ベテランが抜けてしまうと現場に大きな穴が開いてしまいます。どうしたものかと考えていたとき、定年を引き上げると補助金が出ると耳にしました。60歳といっても元気だし、本人たちもやる気はある。ならば勤続してもらい、後輩たちに技術指導してもらえたらありがたいと思ったんです」
65歳に定年延長+70歳まで継続雇用制度を導入
それまで同社では、60歳定年制をとっていた。しかし、加齢に伴って従業員の就労意欲が衰えるとは限らず、むしろ若手よりも休まず出勤してくれることも多い。長年培った技術力に加え、仕事を面倒くさがらず、粘り強さを発揮してくれるため、仕上がりのクオリティーも高い。そんな人材を失うのは大きな損失だと考え、2014年に定年を65歳に引き上げた。同時に、70歳までの継続雇用制度も導入した。65歳を超えても本人の希望があれば、面談と健康診断の結果などを踏まえ、パートタイマーとして再雇用することにした。
「それに伴い、働き方の見直しが急務でした。当社は基本的に年齢にかかわらず、従業員を同じ製造ラインにつけていたので、シニア従業員にとっては体力的にも精神的にも負担が大きく、生産性も低下しがちでした。そこで発注の系統を区別して、シニア従業員向けの作業を創設し、支流の生産ラインでマイペースに作業ができるようにしました。これなら若手との接点もあるので、技術の継承もできます」
シニアの持ち味が職場にいい循環をもたらす
また、65歳を超えたパートタイマーには、短時間勤務とフレックス制を導入。1日5・5時間を基準として、出勤時間や退勤時間をある程度本人が自由に決められるようにした。さらに、工場内の照明の数を増やし、作業環境の改善にも取り組んだ。そうして心身に負担が掛からないように配慮するとともに、定期的な健康診断を実施してフォローアップも行っている。
雇用制度を見直したことにより、社内には徐々に変化が表れているという。
「シニア人材を活用するメリットは、若手への起爆剤になることですね。ありきたりですが、シニアが頑張っているんだから、自分も頑張ろうという気持ちが芽生えやすい。それに技術の継承だけでなく、シニアの仕事に対する粘り強さ、丁寧さ、協調性などを間近で見ることによって若手も感化され、職場にもいい循環ができてきたと感じています」
同社では定年引き上げ後、65歳で辞めた人は1人しかいないのだそうだ。65歳を超えると男女にかかわらず時給制になるが、それに異を唱えた者もほとんどいないという。現にかつて専務まで務めた従業員がその後パートとなり、74歳まで塗装補助業務に携わりながら後輩に技術指導をした例がある。現在の最年長は70歳で、勤続25年の女性パートタイマーだそうだが、カチオン電着塗装の前後に行う重要な作業を担当している。
「施行から4~5年がたちましたが、しっかりとした雇用制度は働く上での基盤であり、従業員の安心感につながっていると思います。幸い塗装業界というのは、競合他社が多いわけではないので、当社としてはやみくもに拡大路線をとるよりも、身の丈に合った堅実経営を心掛けたい。そのためにも、従業員を大切にし、顧客を大事にしながらやっていきたいですね」と2年前に社長を継いだ三代目は、口元をキュッと引き締めた。
会社データ
社名:中部静電塗装株式会社
所在地:岐阜県可児市姫ケ丘2-7
電話:0574-62-6575
代表者:板津匡志 代表取締役
従業員:33人
※月刊石垣2018年10月号に掲載された記事です。
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