米国インターネット通販大手のアマゾンが、レジ決済を必要としない約50坪の食料品店「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」を2017年に開始すると発表した。すでに本拠地シアトルで実験店による実証実験を行っている。
専用のアプリで入店用のバーコードを表示し、ゲートでそのバーコードをかざして入店。利用客が商品を手に取ると自動的に購入したことになり(商品棚に戻すと取り消され)、退店と同時に決済が完了し、スマホで買った商品のリストを確認できるという仕組みだ。これによりレジに並ぶ必要はなくなり、店員による清算業務も不要になる。
日本でも経済産業省が店員のいない「無人コンビニ」の実現に向け、ICチップとアンテナを内蔵した「電子タグ」の導入実験を始める。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでの実用化を目指し、コンビニ大手ローソンと実験を始めるという。こうした動きは、同じくセルフ販売方式をとるスーパーマーケットにも広がっていくことは必至だ。
仕事が機械に取って代わられる
機械やAI(人工知能)により人間の仕事が奪われる──こんな見出しがニュースになったのは2013年、英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授の研究が発端だった。オズボーン准教授はリポートに、そうした可能性のある職業・仕事のランキングを挙げ、今後10~20年で47%の仕事が機械に取って代わられると結んでいる。
小売店の販売員やレジ打ち係は、機械に取って代わられる可能性が高いといえる。アマゾンの無人コンビニは、まさにそんな近未来を私たちに突き付ける存在だ。
もちろん、消費者の視点に立てばレジ待ちや清算に取られる時間はけっして生産的ではない。商業者にとっても、今後ますます困難になるだろう労働力確保という視点に立てば魅力的な解決策だ。
現に商業の現場において、担い手であるパート・アルバイトの人手不足は深刻だ。厚生労働省「一般職業紹介状況」によると、2009年に0・77倍であったパートタイマーの有効求人倍率が2015年には2倍以上の1・52倍、月次直近の2016年11月を見ると1・72倍とさらに上昇している。
今後も労働力の確保は経営の最重要課題だ。内閣府発表によると日本の人口は2010年の1億2806万人をピークに減少に転じ、2050年には1億人を割り込むこと(9708万人)が予測されている(2010年比24%減)。とりわけ深刻なのが15歳から64歳の生産年齢人口で、同38%減となるという。
消費者の両極端な志向
こうした点からも、人間の仕事を機械やAIに任せることは必要かつ望ましいことだと筆者は考える。では、このとき商業には何が求められ、商業者は何をすればよいのだろうか。アマゾン・ゴーが開業する2017年は、人にしかできない仕事を考え、究めるべきスタート年としてほしい。
図表では、消費志向から商業の現状を考察している。現在、そして将来にわたって、一人の消費者の内面には異なる二つ方向のベクトルが働くことになる。一つは、価格や利便性を絶対条件とする「生活必需」ベクトルだ。ここでは、買い物は苦痛であり、なるべく時間をかけたくない行為だ。当然、店主の顔を知るはずもないし、他に良い(つまり安くて便利な)店があれば乗り換えることに積極的だ。アマゾン・ゴーはまさにこのベクトルの最先端に位置している。
消費者は同時に、価格や利便性以外の価値を重視する「人生充足」ベクトルを持っていることも忘れてはならない。読者が目指すべきはどちらか。確実に言えるのは、中途半端な店では急速に客離れ、売り上げ減少が進むことは避けられないということだ。(笹井清範・『商業界』編集長)
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