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全取協 特集規模別・業種別の中小企業の経営課題に関する調査(概要) IT活用で利益増

計画経営・人材育成が鍵

中小企業庁の委託を受け、「下請かけこみ寺」事業などを実施している公益財団法人全国中小企業取引振興協会(全取協)はこのほど、「規模別・業種別の中小企業の経営課題に関する調査報告書」を取りまとめ公表した。本調査は中小企業の経営基盤強化改善に向けての経営上・取引上の課題を、規模別・業種別に把握・分析するため、全国の中小企業・小規模事業者など2万社を対象に今年1月に実施。4320社から回答があった(回答率21・6%)。調査結果を見ると中小企業の経営力を強化するためには、〝計画的経営〟〝IT利活用〟〝人材育成〟の3点が重要であるとの回答が多く寄せられた。本調査の結果概要は次の通り。

調査の結果概要

1.本調査の主な分析結果は、①規模別、業種別の分析、②生産性向上への計画的経営と従業員関連取り組みの分析、の2つに大きくまとめられる。

本項では、規模や業種によって戦略テーマや重要な経営課題、ITの利活用状況などが異なることを考察した。

〇戦略テーマから見ていくと、規模が小さな企業では、本業を強化しつつ、既存の市場において既存の製品・サービスを改良していくことを重視する企業が多い。

○これに対して、規模が大きな企業では、これらの戦略テーマだけではなく、より多くの戦略テーマを重視する傾向が見られる。具体的には、国内市場におけるシェアの拡大、高付加価値商品・サービスの開発・投入やイノベーションによる新製品・サービスの投入などである。これらは、重視する企業割合についての規模間の差が大きい戦略テーマである。

○他方、海外市場を開拓・拡大、低価格商品・サービスの開発・投入、隙間市場の開拓については規模による違いが比較的小さい。特に、隙間市場の開拓については、業種によっては規模の小さい方が重視する傾向にあるという結果が得られた。

○さらに、規模間の差が大きな戦略テーマは業種によって異なることも確認された。例えば、製造業と宿泊業では海外市場の開拓・拡大とイノベーションによる新製品・サービスの開発・投入、建設業と運輸業では既存製品・サービスをさらに改善して提供という戦略テーマを挙げる企業割合に規模間で大きな違いが見られる。

○次に、重要な経営課題を見ていくと、総じて、規模が小さな企業では新規顧客の獲得や既存顧客との関係強化が重要と認識されている。

○これに対して、規模が大きな企業では人材育成の強化や人材の確保、財務体質の強化などを挙げる企業の割合が高い傾向がある。

○業種別に見た最も重要な経営課題は、製造業、飲食以外の小売業、卸売業では「新規顧客の獲得」、飲食業、建設業、運輸業では「人材の確保」である。また、規模による回答傾向の違いが大きい業種は飲食業である。(図1)

○戦略テーマと重要な経営課題についての分析では、全体に共通する傾向がある一方、規模と業種によってさまざまな違いが存在することも確認された。中小企業・小規模事業者は異質多元であることから、業種ごと、規模ごとにきめ細かく戦略テーマや経営課題を捉えることの重要性が改めて確認された。

○最後に、ITの利活用状況についてまとめる。

○規模別に見ると、概して、規模が大きい企業ほどITを利活用している。こうした傾向は、製造業や卸売業では比較的強く、その他サービス業や福祉業では弱い。さらに、ITの利活用状況には業種ごとに特徴がある。例えば、卸売業では基幹業務統合ソフト(ERPなど)や受発注情報管理(EDIなど)が、その他サービス業ではグループウエアや一般オフィスシステム、電子メールが他の業種と比べて利活用されている。

2.生産性向上への取り組み策や経営方針・戦略に係る分析

本項の前半では、経営方針や事業承継見通しと、戦略テーマや経営課題、生産性向上への取り組みやITの導入・利活用状況との関係、後半では規模別業種別という観点から生産性向上への取り組みのうち計画的経営に焦点を当てて分析を加えた。ここでは本調査の重要なテーマである計画的経営に関する分析結果をまとめる。まず、規模や業種と計画的経営の実施状況との関連について見ていく。

○第一に、規模の指標の取り方によって若干違いがあるものの、総じて、規模が大きいほど計画的経営に取り組んでいる。

○第二に、業種別に見ると、計画的経営に最も積極的に取り組んでいるのは社会福祉法人として行う福祉業、最も消極的なのは医療法人として行う医療業である。

○第三に、規模と計画的経営の実施状況との関連は、業種によって異なり、3つのパターンが観察された。

○1つ目のパターンは、計画的経営の実施の程度が最も大きな規模で急速に高まるというもので、製造業、飲食業、飲食以外の小売業、運輸業が該当する。

○2つ目は、規模が大きいほど計画的経営の実施の程度が高まるものの、その程度は逓減するというパターンである。卸売業がこれに当たる。

○3つ目は、規模が大きいほど計画的経営の実施の程度がおおむね比例的に高まるというパターンである。その他のサービス業がこれに該当する。なお、建設業については、どのような規模の指標(売上高、従業員数、資本金)を用いるかによって傾向は異なる。

○次に、生産性向上に係る取り組みをする際に活用している情報源との関係について見ていく。

○第一に、計画的経営に積極的に取り組んでいる企業は、総じて、さまざまな情報源の活用の程度が高い。計画的経営を進めていく上で、多様な情報源を活用することの有効性が示唆される。

○第二に、ここでもやはり、この傾向は業種によって若干の違いが見られる。運輸業や社会福祉法人以外の福祉業などでは情報源の活用度と計画的経営への積極度との間の関係が他業種よりも明確である。一方、製造業や建設業ではこの傾向が他業種ほど明確ではない。

○第三に、さまざまな情報源のうち「異業種交流会・研究会」や「自社の従業員」の活用の程度が高いほど、計画的経営に取り組んでいるという傾向が観察された。異業種の経営者などや自社の従業員との接触を通じて得た情報が計画的経営を進める上で有益である可能性がある。

3.人材育成・IT利活用と生産性向上に係る分析

本項の前半では、従業員を活用した生産性向上への取り組み(従業員関連取り組み)を検討した。従業員関連取り組みは、実施している企業が比較的少ないものの成果が上がっているとする割合の高い生産性向上への取り組みである。

○分析結果の第一は、従業員関連取り組みに積極的である企業の業績(この3年間の利益の伸長状況)は良いことである。同じ業種、同じ従業員数の企業同士で比べても従業員関連取り組みに積極的であるほど利益が伸長している確率は高い。(図2)

○第二に、従業員関連取り組みに積極的な企業の特徴は、人材育成の強化を重要な経営課題とし、生産性向上に係る取り組みをする際に多様な情報源を活用していることである。

○第三に、従業員関連取り組みを利益の伸長につなげるための条件として、①異業種の経営者などや従業員からの情報に基づき従業員関連取り組みの具体策を立案すること、②成果を報酬として還元することを通じて従業員のモチベーション向上を図ったり人材育成の強化に力を入れたりすること、が示唆された。

本項の後半ではITの利活用と生産性向上との関連を分析した。

○主な分析結果の第一は、ITをより利活用すると生産性向上への取り組みの成果が総じて高まることである。

○第二は、ITごとに成果を高める生産性向上への取り組みが異なることである。

例えば、基幹業務統合ソフト(ERP)は計画的経営関連取り組み、グループウエアはそれに加えて従業員関連取り組みの成果を高めていることが示唆された。

中小企業経営に関する含意

本調査の分析結果、そしてヒアリング調査の結果を踏まえ、生産性向上を中心に中小企業経営に関する含意を4点提示したい。

1.ⅠTの利活用 

まず第一は、生産性向上に向けて、ITの利活用を積極的に検討すべきことである。

本調査の分析からは、ITが生産性向上への取り組みの成果を高めることが示唆された。ヒアリング調査を行ったあるメーカーでも、カスタマイズした基幹業務統合システムを導入することで、部門損益や原価などが管理しやすくなるとともに、管理業務の人員が削減されたとの声が聞かれた。

経済産業省『攻めのIT経営中小企業百選』にも、ITを活用して定型的な業務を削減した老舗旅館や、情報共有を通じて従業員の効率的な働き方を支援している建設サービス業者など、生産性を向上させた企業事例が数多く紹介されている。

以上から、ITが業務プロセスの管理・改善に有効であることがうかがえる。また、本調査では分析できていないが、生産性を向上させるために活用し得る人的ネットワークを構築、維持したり、情報収集したりする上でもITはおそらく有効と考えられる。

現状、一般オフィスシステムや電子メールを導入している企業は多いが、基幹業務統合ソフトやグループウエアはそれほど普及していない。また、基幹業務統合ソフトやグループウエアを導入している企業でも、十分に利活用しているというところは必ずしも多くはない。従業員規模や導入コストの負担、業務プロセスなど自社の状況を十分勘案した上で、ベンダーや外部専門家などの支援を得つつ、重点的に取り組んでいる生産性向上への取り組みに適したITを選択的に導入し、利活用していくことを検討すべきと考えられる。

2.多様な情報源の活用 

第二は、多様な情報源を活用し、情報収集に力を入れることである。本調査では「異業種交流会・研究会」を情報源として活用することが計画的経営や従業員関連取り組みにプラスの効果を生むことが示唆された。異業種のベストプラクティスを活用し、ベンチマーキングすることの有効性がうかがえる。商工会議所、商工会なども含め、異業種の経営者などが集まる場を活用して人的なネットワークを築いていくことが期待される。

同時に、自社の従業員を活用し現場の情報を把握することの効果も本調査では示唆された。この点に関連して、ヒアリングを行ったあるメーカーでは、ウェブの日報システムを営業で活用し、出先から報告できる態勢が整えられている。従業員からの報告に対しては社長が返信するとともに、顧客の声を組織全体で共有できるようにする取り組みを進め、付加価値を高めている。ITを効果的に活用することで、社内の意思疎通や情報の流れを促進されている様子がうかがえる。もちろん、ITだけですべてが解決するわけではない。自社の状況を踏まえ、フェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションも適切に組み合わせるべきと考えられる。

また、従業員からの情報を活用することに関して、職員の行動、能力を引き出すことが生産性向上につながると指摘する経営者があった。同氏は、従業員に余裕を与えることがクリエーティブな活動を生み出すという持論の下、1日8時間のうち2時間を適当に過ごすよう従業員に指示をしている。こうした取り組みからは、従業員という情報源を上手に活用するためには、従業員のマネジメントを工夫することの必要性も見て取れる。

3.人材育成の重要性

第三は、人材育成の重要性である。どれほど優れた生産性向上への取り組みを立案しても、実際にその取り組みを実施する従業員の能力によってその成否や成果は大きく左右される。特に従業員関連取り組みの場合、何をやるかとともに、だれがどのようにやるかも重要である。この点で、生産性向上策と人材育成とはセットで行うことが大切といえる。その上で、育成した従業員を適切に配置していくことが欠かせない。

中小企業の人材育成は、仕事のローテーションを通じて幅広い能力や技能を現場で習得するなどといったOJTが中心となる。ローテーションを行った直後には、経験が浅い従業員が業務を担当することから、一時的に生産性が低下しがちである。このため、生産性向上のための人材育成は中長期的な観点から地道に進めていく必要がある。

さらに、自らの能力や技能を高めようと従業員に思わせることも重要と考えられる。社員自ら主体的に学習するようにすることは、経営者にとって重要な課題である。

この点についても、ヒアリング調査を行ったある会社では、全従業員に教育計画の提出を求めている。その上で本人の希望を踏まえ、どのような資格を取得させるのか、どのような教育を受けさせるのかなどを決めている。さらに、自分の価値(エンプロイアビリティー)を高める資格は何かを考えるよう常日頃から従業員に伝えている。こうした気付きによって、従業員はより真剣にスキルアップに取り組むようになる。従業員の気持ちに上手に働き掛けることで、OJTの効果が高まる可能性が高いことが示唆されている。

4.規模ごとに戦略テーマや直面する経営課題が異なる

第四に、特に成長過程にある企業にとって、将来直面する可能性の高い課題を事前に把握し、それを解決するために必要な能力を計画的に身に付けたり対策を講じたりすることの重要性である。

本調査では、規模ごとに戦略テーマや直面する経営課題が異なることが明らかにされた。このことは、企業が成長するにつれて、新たな戦略に取り組んだり、新たな経営課題を解決したりするようになることを意味する。そのためには、新たな能力や技能が必要となるだろう。例えば成長に伴い人材育成がより重要な課題となるが、この課題を解決するためには、より大きな組織における人材マネジメントの能力や技能を経営者が習得しなければならない。

しかし、新たな能力や技能は一朝一夕では身に付かない。とすれば、成長過程にある企業の経営者は自らの能力や技能を勘案しつつ、成長のスピードをコントロールする必要がある。同時に、将来必要となる能力や技能を事前に計画的に見極め、習得するよう努めるべきである。

ただし、戦略テーマや経営課題がどのように変わっていくのかは業種ごとに異なるところがある。このため、本調査の結果や同業の先輩経営者の話などを踏まえて、自分が属する事業分野の戦略テーマや経営課題の変化を十分把握することが成長を志す中小企業経営者には求められる。