日本商工会議所は19日、広島市で行われた第635回常議員会で今後3年間に「商工会議所観光ネットワーク」(CCI観光NET)の構築を目指して、全国514の商工会議所が取り組みを強化する「観光立地域」アピールを全会一致で採択した。平成28年度末までの3年間で、514地域の観光振興の取り組みを連動させ、「観光立国・日本」の実現を後押しする。特集では、アピールの基本的な考え方のほか、CCI観光NET構築に向けた各地域の体制づくり、地域資源の高付加価値化・ブランド化、観せる対象の明確化、広域連携などの具体策や到達イメージなどについて紹介する。
514地域の連携加速
「観光立地域」アピールでは、今後3年間、514全ての商工会議所が連携して観光振興に積極的に取り組み、中小企業の再生と地域経済の活性化を図ることを目指すことを高らかに宣言した。
「日本の再生のためには、地域の活性化が不可欠であり、その実現には地域経済の好循環を生み出すことが必要」とした上で、地域外の需要の取り込みや交流人口の拡大によって、消費・生産両面での活動を促し、雇用の創出にもつながる観光振興は「その最も有効な方策」との考えを前面に打ち出した。
観光振興は、関連する事業者の裾野が広い。景観、史跡や生産物、生産施設などの地域に現存する資源の活用により、少ない投資で地域に大きな経済効果をもたらすとともに、個性的で魅力ある地域づくりを促進することもできるからだ。
政府は昨年6月、日本再興戦略において、観光による地域の自律的発展の推進という方針を決め、オリンピック・パラリンピックの東京開催を念頭に、2020年までに訪日外国人旅行者を2000万人にするという目標を掲げた。アピールでは、「観光に取り組もうという機運が高まりつつある今こそ、官民が連携して、多様な事業者や住民などの参加による総合的な観光振興に取り組む必要がある」として、514商工会議所の連携を訴えている。
事務局全てに観光担当を
「観光立地域」アピールの基本的考え方は、「観光立地域の実現による地域活性化の推進」だ。観光振興による交流人口拡大とそれに伴う文化の創成、全事業所の約4分の1を占める観光産業や地域のさまざまな産業活動を活発化させることによる経済面からの地域活性化促進を目指す。
まちづくりと一体となった「観光立地域」の実現は、まさに商工会議所の取り組みが求められる分野だ。商工会議所は、地域内の住民、事業者、行政との間を結び、また、広域連携の要として、さらに、多様な業種を仲介するコーディネーターとしての役割を担う。
514地域全ての商工会議所が観光振興に取り組み、「商工会議所観光ネットワーク」(CCI観光NET)を構築し、「観光立地域を全国で推進することが急務」であるとして、今後3年間で目指すべき具体的な取り組みイメージを提示している。(上図参照)
さらに、商工会議所自体の推進体制整備を提言。具体的には、①商工会議所に「観光委員会」や「観光部会」を設け、観光推進の中核とするほか、必ず事務局に観光担当を置く。②都道府県単位で定期的な観光に関する情報交換・意見交換を行う。③「日商観光委員会・観光専門委員会」「各地商工会議所観光委員会」「各地商工会議所観光担当」のネットワークを構築していくことが盛り込まれた。
日本商工会議所 平成26~28年における観光振興への取り組み強化アピール(平成26年6月19日)
具体的な取り組みの方策(抜粋)
⑴地域が目指す観光振興の目標を共有し実施体制づくりに取り組もう
①明確なビジョンの策定と共有
「観光立地域」の実現に向けて、まず、地域がどういった観光振興を目指すのか、そのためにどのような地域資源を活用するのかなどを明確にしたビジョンを策定し、それを地域全体で共有することが重要である。また、ビジョンに基づき計画を策定する際には、具体的なスケジュールと数値目標を設定することが必要である。
②地域が一丸となって取り組むための体制の構築
個々の事業者や団体などが行っている観光振興の取り組みを、自治体や観光協会などの関係機関をはじめ、事業者、マスコミ、NPO、住民などの参画を得た地域全体での取り組みとするため、商工会議所が仲介役になるなど一定の役割を担うことが必要である。
さらに、観光分野におけるPPP(官民連携:パブリック・プライベート・パートナーシップ)や産業のクラスター化など、何らかの仕組みをつくり推進することで、人材面、資金面の課題から単独組織では困難な事業にも着手することが可能になる。
③取り組みを促進するための人材の協力・活用
地域のリーダー(商工会議所会頭、商店街組合の理事長など)を中心に観光振興への取り組みを進めることは、関係者の協力が得やすく、地域が一丸となった取り組みを推進しやすくする。
資源の発掘、磨き上げや、関係者の連携構築などを一人で行うことのできる人材を確保することは困難であるが、複数の中核的人材の発掘、外部専門家の招聘などによって、継続的な事業を構築、推進することは可能である。
さらに、産学連携などによる将来の地域の観光振興・観光産業を担う人材の発掘や取り込み・育成、現場の観光産業関係者などの人材の養成を目的とした教育研修の実施など、計画的な取り組みを促進することが必要である。
⑵地域の特色を活かした観光の創造を目指し地域資源を磨き上げよう
インバウンドの重要性は高まりつつあるが、国内の旅行消費額の約9割は国内居住者によるものであり、国内旅行の需要拡大が、地域の観光振興には不可欠である。
観光資源の発掘、磨き上げにあたっては、伝統、文化、歴史、産業、食、日常生活など地域に根付く全てのモノやコトをさまざまな視点で見直すことが極めて重要である。
専門家、若者、女性などの視点によって、地域の人々にとって身近にあるモノや当たり前のコトが、域外の人にとっては目新しいコト、魅力的なモノであることを発見することができる。それらを地域の人々が誇りに思える資源に磨き上げ、由来などのストーリーを加え、分かりやすくPRすることにより、高付加価値化・ブランド化していく必要がある。
⑶観せる対象の明確化と持続的な取り組みでリピーターを獲得しよう
呼び込みたい対象が明確でないことから、集客につながらないことがある。地域の「どのような観光資源」を、「誰」に、「どのように」観せ、それをいかに持続的な取り組みにしていくかが重要である。
また、持続的な取り組みに発展させていくためには、新規顧客だけでなく、リピーター層の獲得が必要である。観光客が何を求めて訪れ、何に感動したのかを把握し、次回の来訪の動機づけや新たな観光客の誘致につなげていくことが求められる。
さらに、地域の人々が観光客とともに、地域の素晴らしさ(光)を共有し、一層磨き上げていくことは、「訪れて良し、住んで良し」の地域づくりにもつながる。
⑷広域連携で広範囲からの誘客と周回性の向上を図ろう
①商工会議所間の連携による広域的取り組みの促進
単独の地域による観光振興は、人的・資金的な制約などから持続的な取り組みが困難な場合がある。また、観光客の関心の対象地域が行政区域と一致しているとも限らない。
商工会義所がコーディネーターの機能を果たし、近隣都市のみならず共通の文化、産業などを有する地域との連携を構築することが重要である。
連携にあたっては、「工場夜景見学」「ロケ地周遊」といった共通のテーマや、「○○ゆかりの街道」(街道観光)などのストーリーを設定し、一体性のある観光をPRすることで、より高い集客効果を生むことが期待できる。
②連携を促進する「観光トライアングル」の形成
ゴールデンルート(東京-大阪間)に見られるような2地点間での観光ルートを、3地点にした「観光トライアングル」の形成によって、新たな観光の展開が期待できる。
3つの地域をつなげることにより、滞在時間の延長を図るとともに、各地域間での観光客の送客による来訪者の拡大が期待できる。商工会議所が、行政区域の垣根を越えて連携を推進することで、新たな観光ルートの開発が可能となる。
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