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商工会議所の業務災害補償プラン セクハラ パワハラにも対応 割安な保険料を実現

業務災害補償プランの商品構成

近年、労働災害は、業務上の事故によるけがだけでなく、うつ病などの精神疾患や脳・心臓疾患などの疾病型が増加。建設業や製造業だけでなく、多くの業種で使用者責任が問われている。特集では、経営者の強い味方として注目を集めている、労災の上乗せ補償と企業の損害賠償や訴訟対応などの経営リスクを担保する商工会議所の「業務災害補償プラン」に注目。その導入のメリットなどを紹介する。

加入件数は、前年比8千件増

日本商工会議所では、各地商工会議所の会員サービス事業の一層の充実を図るため、「業務災害補償プラン」を推奨している。本プランは、負傷型労災といわれる業務中のけがおよび労働災害の責任が企業にあると法律上判断された場合に発生する、企業の損害賠償責任(使用者賠償など)に対応する制度である。制度開始から5年半で、既に加入件数は5万8千件に達し(平成28年5月時点)、本制度開始から7年目を迎える本年10月には6万件を突破する勢いだ。

過労死をめぐる裁判で、企業や経営者の責任を明確にする判決が増加している。26年11月より「過労死等防止対策推進法」が施行されるなど、従業員の労務管理について、企業側の対応がこれまで以上に問われている。

政府労災のみの加入では、十分な補償が受けられないことから、従業員への十分な補償はもとより、企業の経営安定化、人材確保の観点からも労災事故への備えが不可欠だ。このため、政府労災への上乗せ補償の必要性は極めて高く、また、事故の発生が経営に及ぼす影響も大きい。

例えば、安全配慮義務違反を問われ、高額な賠償金を支払う事例も増加しており、賠償金の支払いが経営に影響を与えかねない。そのため、労災事故への十分な備えを確保し、企業経営の安定を図ることは商工会議所の会員事業者への支援策として重要である。

27年12月に改正された労働安全衛生法の中には、中小企業を含む全企業のメンタルヘルス対策の義務付けが盛り込まれている(労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務)。

全従業員に年1回、医師か保健師による「心の病」のチェックが必要になる。厚生労働省の試算では、面接を含めた一人あたりの検査費用は350円。対象者は3千万人程度と見られ、産業界全体で百億円を超える新たな負担が生じると試算されている。

メンタルヘルス対策は中小企業では普及が遅れているため、法律の施行をきっかけとして、大半の企業で対策が必要となる。

メンタルヘルス対策費用の補償も開始

本プランの保険料は、補償内容が同じ一般保険に比べ約半額程度に設定されており、業種を問わず多くの事業者が加入できる。

売上高を基に保険料を算出する仕組みであることから、加入に当たっては従業員数を保険会社に通知する手間がなく、パート・アルバイトが多い製造業・小売業には利便性が高い。また、役員を含め全従業員が自動的に補償対象となることから、中小・中堅や下請けを抱える建設業などで活用しやすい内容になっている。

また、28年10月補償分から、メンタルヘルス対策費用の補償や弁護士など専門家への法律相談費用の補償が新たに追加されるなどのバージョンアップが図られる予定(東京海上日動など)。

これまでのパワハラやセクハラへの備えである雇用関連賠償責任補償(オプション)や無料サービスで実施できるストレスチェックサービスと併せて、中小企業においてニーズが高まるメンタルヘルス対策の強化につなげる。

特別寄稿 労災対策は万全ですか

東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 ビジネスリスク事業部主任研究員 橋本幸曜氏

労災保険制度 従業員の救済図る

本来、労働災害をゼロにすることができれば理想であるが、実際にはゼロにすることは困難である。万が一労働者が被災した場合でも、被災者の救済を図る事を考えなければならない。そこで、設けられた制度が、労災保険である。

労災保険には、労働災害補償保険法によるいわゆる政府労災保険と、政府労災保険よりさらに手厚い保障の実現を図る民間の保険会社などによるいわゆる上乗せ労災保険が存在する。労働災害補償保険法は労働基準法の制定と合わせてつくられた制度で、労働者が業務上または通勤途上において、負傷し、疾病にかかり、または死亡などをした場合に、本人または遺族(以下、被災労働者など)に一定の保険給付を行う制度である。

労働基準法は、使用者すなわち企業側に被災労働者などに対する一定の補償責任(無過失責任)を課しているが、反面、企業単独で補償を行うこととすると、例えば大事故が起きた場合、企業によっては補償の負担に耐えきれずにその責務を果たせないことも十分にあり得る。

そこで、いわゆる保険の考え方を使って、業務上の災害に対して社会全体で安定的な補償を行えるように設けられた制度が、労災保険である。なお、現在は、通勤災害や過労死防止のための健康診断費用の負担などにも給付範囲が拡大されている。

近年の労働災害の傾向 メンタル疾患が増加

最近、労働災害が微増傾向にあることなども指摘されているが、最も労働災害の件数が多かった高度成長期からの傾向を見れば、基本的には労働災害の件数は大幅に減少している一方で、最近は時代の変化に伴う新しい課題も指摘されている。

例えば第三次産業の労働災害である。従来、日本の産業構造は、終戦直後の段階では第一次産業・第二次産業の従事者が国民の半数以上を占める構造であったが、第三次産業の割合が徐々に増加し、現在では国民の7割以上が第三次産業に従事している(図1)。

第二次産業における急激な労働災害件数の低減が進んだこともあり、昨今は第三次産業の労働災害削減の取り組みの立ち遅れが浮き彫りになっている。そのため、今後は第三次産業についても労働安全の取り組みの充実が社会的にも求められている。

また、高度成長期を経て昭和50年代後半あたりまでは、「物の豊かさ」に注目が集まる傾向があったが、近年では「心の豊かさ」に注目が集まる傾向が指摘されている。一方で、ストレスなど心理的な側面で課題を抱えている人は年々増える傾向にある(図2)。

そのため、近年は労働安全衛生の分野においても、物理的な労働災害や職業病をはじめとする一般的な疾病に加えて、健康に関する災害の一つとして労働に伴うメンタルヘルスの悪化の問題にも注目が集まるようになっている。

このような変化を受けて平成4年の労働安全衛生法の改正では、新たに快適な職場環境の形成が努力義務として課され、さらに同法に基づく指針として労働大臣から「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(快適職場指針)も出されている。そして、厚生労働省から出されている現行の労働災害防止計画である「第12次労働災害防止計画」でも第三次産業における労働災害および労働安全やメンタルヘルス対策を求めている。

この計画では、労働災害のさらなる削減を効率的に進めることを目的に特に取り組みが必要な業種を「重点業種」、特に必要な取り組み項目を「重点対策」として位置付けている。重篤な災害こそ依然として建設業や製造業、陸上貨物運送事業で多いものの、件数としては第三次産業に起因する労働災害の割合が増えていることから、「重点業種」には、建設業や製造業だけでなく、第三次産業とりわけ小売業・社会福祉施設・飲食店なども対象とされている。

また、いわゆるメンタル疾患に関する労災認定件数が増加しており、脳・心臓疾患による労災認定も減少しないため、これらの対策となるメンタルヘルス対策や過重労働対策も「重点対策」として位置付けられている。

さらに、2014年の労働安全衛生法の改正では、一連の改正の一つに「ストレスチェックの義務化」がある。メンタル疾患の防止の取り組みは、基本的に大きく二段階で構成されており、まず一次予防として、本人のストレスへの気付きと対処の支援および職場環境などの改善の段階があり、そして二次予防として不調の状態にある従業員の自身の不調の早期発見と早期対応を行うといったものである。

これらの一連の取り組みの要となるのが、対象者の心理的な負担の程度の把握、すなわちストレスチェックである。このストレスチェックについても今年の12月以降、義務化されることになる。

ストレスチェックの結果の取り扱いの難しさや、運用の負荷などの問題もあり、当面は50人以上の事業場が対象となるが、自殺者数に占める被雇用者・勤め人の数が少なくない(全体の3割近くを占める)こと(図3)などを考えると、この適用範囲であるか否かに関わらず、メンタルヘルスへの取り組みはいよいよ重要になってきている事が伺える。

経営者に期待される役割 自ら積極的に関与

労働災害のない企業をつくるためには、職場の従業員の自覚もさることながら、経営者の役割も大きい。

例えば、多くの労働災害にはヒューマンエラーが関与している。多くのヒューマンエラーは誰にでも起こりうるものであり、事故や予兆が見受けられた場合には、その陰に類似の問題が職場に多数潜んでいる物と考えてまず間違いない。

ヒューマンエラーが発生した場合には、ヒューマンエラーを犯したその人に問題があると捉えるのではなく、職場全体に同様の問題がある物と捉え、職場全体を改善するというアプローチを取る必要がある。職場全体を改善するためには、職場の従業員全員が自らの事と捉えて真剣に考える必要があるが、そのような取り組みをリード出来る人材は経営者を置いて他にはない。

さらに言えば、職場全体を改善するためには、改善活動を行いやすい風土が必要である。改善を進めやすい風土とは、何かしらの問題が発生したときに、素直に問題に向かい合い、職場一丸となって問題解決に当たることが自然体でできる組織文化である。

実際に事故の少ない職場では、(事故に限らず)何らかの問題があるときには、問題点を率直に認識し、職場全体で対策を考えるといったことが当たり前のこととしてできている。逆に、問題が多い職場では、「事故は起こっていないはず」「報告を上げると後が面倒」「問題を報告しても、結局対策という名目で窮屈になるだけだ」のように事故が隠されたりするなど、問題を素直に指摘できない風土がある事が少なくない。

このような風土を抱えている職場では、徐々に職場を孤立感・絶望感・責任の押し付け合いなどがむしばみ、メンタルヘルスの問題も悪化していく。このような事は防がなければならない。

奇しくも現在進行中の第12次労働災害防止計画のスローガンには、「働くことで生命が脅かされたり、健康が損なわれるようなことは、本来あってはならない」とあるが、経営陣は、従業員の家族からお預かりした従業員を、終業後無事にご家族の元に返すという当たり前の事を日々やり遂げることができるような組織の風土を情勢しなければならない。実際に労働安全の取り組みが進んでいる多くの企業では、例外なく経営陣が安全に関する確固たる信念を持ち、現場の従業員に折に触れて粘り強く働き掛け、改善活動を力強く支えている。

労働安全の問題自体は古くからある課題であり、技術的に注意すべきポイントもほぼ明確になっている。しかし、労働災害は技術課題の側面を持つ一方で、「人」に関する課題でもある。そのため、労働安全を実現するためには人のマネジメントがきわめて重要となる。

しかし、人は物とは異なり、常に揺れ動く物である。たとえ同じ人が働いていたとしても、体の健康状態や心の持ちようは日々変わる物である。そのため、日一日として全く同じマネジメントが通用することはない。経営者は、常に自社で働く人に対して日々新鮮な関心と不断の愛情を持ち、自ら積極的に問題解決を図る努力をすることが、労働安全衛生の達成を成し遂げるためには不可欠である。