日本商工会議所は4月21日、政府が3月に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」を踏まえて、現在策定作業が行われている「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2016」に対し、観光ビジョンでは必ずしも数値目標の具体的な根拠が示されていない施策や早急に必要な取り組みについて、意見書を取りまとめ、政府などに提出した。特集では意見書の概要を紹介する。
Ⅰ.インバウンドのさらなる拡大に向けた各地の誘客体制・能力の強化
1.訪日外国人旅行者の受け入れ拡大に向けた観光基盤づくり
⑴訪日ビザ発給要件の戦略的緩和、トランジット旅客の取り込み推進
・中国、フィリピン、ベトナムなど近隣諸国を対象としたビザ発給要件の戦略的な緩和
・インターネット上で発給する電子ビザの導入
・寄港地上陸許可制度(ショアパス)の積極活用、乗継客向けの無査証入国制度の導入
⑵CIQ(税関・入管・検疫)体制の整備・強化
・空港・港湾における顔認証など最先端技術の導入のための予算の拡充(中略)、CIQに係る体制強化を促進
・海外臨船審査のさらなる拡充
・検疫制度の周知徹底と分かりやすい情報提供
⑶地方空港への路線拡大などによる訪日外国人旅行者の各地への分散
・着陸料軽減制度の拡充、空港からの二次交通整備などに関する支援策のさらなる強化
・「大都市圏と地方」、「地方と地方」を結ぶ国内線の拡充、鉄道・バスなどの共通パスの普及
・地方空港における外貨両替所設置に対する支援
⑷「交流拠点都市」の特区認定などによる地域観光圏の形成促進
・宿泊、道路利用、通訳案内など観光関連の規制緩和を行うとともに、交通インフラ整備、海外プロモーション事業に対する財政支援および地域での観光圏形成の促進
⑸クルーズ船の受け入れ拡大に向けたハード
・ソフト整備の推進
(略)
⑹貸切バスの需給逼迫(ひっぱく)への対応と路上混雑の解消
・貸切バスの営業区域制度の緩和
・女性の活用、大型二種免許取得要件の条件付き緩和
・貸切バス事業者に対する国の監査体制の強化
⑺多様な宿泊施設の提供による宿泊供給能力の拡大
・古民家や空き家、別荘などの遊休施設の活用
・外国人のニーズ(トイレなど施設の改修、外国語の案内表記、無料無線LANの設置、泊食分離料金の導入、カード決済)に対応する旅館事業者への重点的支援
・改正耐震改修促進法に基づく耐震診断および改修に対する支援の継続と拡充
・民泊に対して官民一体となって、衛生・安全の確保と観光の促進を両立させる制度設計の検討
2.訪日外国人旅行者の利便性向上に向けた取り組みの推進
⑴多様なニーズに対応した通訳ガイドサービスの提供
・総合特別区域法や構造改革特別区域法などで認められている特例ガイドの全国への拡大
・地方自治体が地元のニーズに沿った通訳案内士サービスを提供できる制度の見直し
⑵観光案内などの多言語対応推進に向けた支援強化
・国において統一した共通の外国語表示の整備への支援策の強化
・多言語音声翻訳システムなど地域におけるICTの有効活用の推進
⑶公共交通機関の共通パスの発行などによる旅行者の利便性の向上
・交通系ICカードを活用した公共交通機関、美術館・博物館、観光施設などで相互利用可能な共通パスの導入
⑷訪日外国人旅行者に対する決済システムの整備
・海外発行のカード対応のATMの設置および設置場所、利用方法の周知
⑸ムスリム・ベジタリアンなどの文化・習慣の異なる旅行者の受け入れ対応の向上
・「国別接客マニュアル」などを作成し、観光施設などでの普及啓発
⑹旅行者の安心・安全の確保に向けた取り組み
・災害時情報提供ポータルサイトの構築と普及
3.訪日外国人旅行者拡大のための国際的プロモーション
⑴オールジャパン体制による戦略的な訪日プロモーションの展開
・海外メディアの放送枠の確保・地域発の観光情報・コンテンツ供給の強力な推進
⑵日本の魅力を発信していくための世界遺産登録のさらなる促進
(略)
Ⅱ.地域資源を活用し、まちづくりと一体となった国内観光の促進
1.観光客を呼び込む魅力あるまちづくりの推進
⑴持続的な観光地経営の実現に向けたDMOの形成支援の拡充
・DMO体制の構築と自治体による目的税の導入など事業遂行に必要な財源の確保
・専門技能が求められるDMO人材の育成支援システムの構築
⑵まちのにぎわい創出に向けた空間整備の推進
①まち歩きに適した歩行者空間の整備の促進
・道路空間の利用許可の柔軟化と手続きの簡素化
・歴史的建築物、文化施設の飲食施設として活用するための行政手続きの簡素化
②景観の改善・保全に向けた電線類の地中化・無電柱化の推進
(略)
⑶歴史的建築物や「空き建築物」など既存ストックの有効活用
①歴史的建築物の利活用促進
・国家戦略特区で認められている建築基準法、消防法の規制緩和、旅館業法の特例措置の全国への拡大
②商店街の空き店舗や廃校などの「空き建築物」の再利用促進
・地域に眠る空き建築物の再利用促進のため、建築基準法上の規制の見直し
⑷水辺空間の整備と舟運ネットワークの構築によるにぎわい創出
・河川敷地の利用に関する規制緩和の促進
⑸地域交通の観光への活用促進
①二次交通の観光資源
・化地域鉄道の観光列車としての活用
②自転車走行空間の整備とシェアサイクルの利用促進
・国道などへの専用駐輪施設の設置
⑹スポーツ・文化芸術資源を活用した観光振興の推進
(略)
⑺参加体験型のレジャー需要の高まりを踏まえた新たな観光ニーズの掘り起し
(略)
⑻誰もが安心して旅行を楽しむことができるユニバーサルツーリズムの促進
・既存の受け入れ拠点と観光案内所の連携強化・バリアフリー情報の発信強化
2.観光ニーズの掘り起こしに向けた取り組みの促進
⑴将来の観光市場拡大のための若者の旅行促進
①観光教育と教育旅行の促進
・小学校から大学までの学校教育における観光プログラムの導入
・教育旅行の一層の促進
②若者のパスポート取得などの軽減
・若年層がパスポートを取得する際の発給手数料の減額措置
・若者を優遇した旅行商品造成への取り組み
⑵特定時期に集中する旅行需要の平準化を図る休暇取得の促進
(略)
⑶大都市市場に対する各地域からの観光プロモーションの促進
・都内にある約90のアンテナショップでの地域情報の効果的な発信の仕組み構築
Ⅲ.観光産業のイノベーションと他産業との連携による人材と投資の獲得
1.光産業の「稼ぐ力」の強化と人材の確保・育成
⑴ICTの活用による観光産業の生産性向上
・クラウドサービスなどを活用した予約・顧客管理の支援拡充
・SNSによるプロモーションなどICT導入支援の大幅拡充
⑵地域経済に観光消費を取り込むショッピング・ツーリズムの振興
・中小事業者や商店街などでの免税制度の周知徹底
・免税手続き帳票類の簡素化
・電子化・免税手続きに対応する効率の良いレジシステムの導入支援
・ショッピングを食・まち歩きに並ぶ重要なコンテンツと位置付けた海外でのプロモーションを強化
⑶ビジネス需要の拡大と地域活性化に向けたMICEの促進
・海外MICE専門見本市への出展の強化
・メディアの招請などのプロモーションの強化・拡大
・歴史的建築物、文化施設の飲食施設(ユニークベニュー)としての活用
・地方都市が進めるMICE誘致への支援
⑷観光統計の整備とビックデータの利活用の促進
・観光統計を早急に整備し、地域に対する一元的な提供の実施
⑸観光産業を支える人材の育成と確保
①外国人留学生の活用
・留学生の就労ビザの要件緩和
②MICE分野の人材育成
・ミーティングプランナーやPCO(Professional Congress Organizer:会議運営者)と呼ばれるMICE関連の専門家の育成
③観光関連の人材育成プログラムの整備
(略)
2.規制・制度改革の推進
⑴地域資源の活用・観光産業の担い手確保に向けた規制緩和
①河川観光船の弾力的な運航を妨げる海上運送法に係る手続きの簡素化
(略)
②地域限定旅行業への参入促進
(略)
③留学生の就労ビザ要件の緩和、ワーキング・ホリデー制度の拡充
・外国人旅行者に対するホテルなどでの接遇の向上
・飲料部門やロビーサービス、客室部門なども含めたホテル業務全般の対する就労要件の緩和
・ワーキング・ホリデー制度の対象国の拡大
④職業実践専門課程在籍の留学生による資格外活動許可手続きの緩和
・文部科学省が認定する職業実践専門課程に在学する留学生について、資格外活動ができるように手続きの緩和
⑵新たな観光ニーズに対応する法制度の整備
①インバウンドの旅行手配を行うツアーオペレーターの質の向上
・訪日旅行の一層の品質向上と安全確保の観点から優良なツアーオペレーターについての登録制度の検討
②訪日外客の急増やニーズの多様化を踏まえた国際観光ホテル整備法の見直し
(略)
Ⅳ.観光立国の実現に向けた推進体制の構築・強化
1.観光振興に関する予算の拡充
・効果的な観光振興のためのワンストップの相談・情報提供体制の構築
・文化関連予算のより一層の拡充
2.観光関係省庁および国と地方自治体のさらなる連携強化
・内閣官房との連携による観光振興策の総合調整
・観光に関して各府省庁が実施する施策、予算、それらの効果などについて、ロードマップの作成による具体的な数値目標(KPI)の設定、毎年の施策推進状況の見える化
・地方自治体に対する観光振興への取り組み段階に応じたきめ細かな支援
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