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地域を支える観光 vol.2 確かなビジョンを描け

訪日外客数2千万人時代に

訪日外客は、昨年12月19日時点で1900万人を突破し、いよいよ、訪日外客2000万人時代が現実のものとなってきた。今後、政府のインバウンド観光振興はシフトアップされる。

来年度政府予算案の中で観光庁関係予算は前年度対比2・36倍の245億円であり、今年度補正予算と合わせると301億円となる。日本政府観光局(JNTO)によるプロモーション事業の強化に加えて、地域における受け入れ環境整備や国際競争力ある観光地づくりを進めて、訪日外客の地方誘客を推進する内容である。

地域は、今こそ、どんな観光地になりたいのかのビジョンを持って、ぶれない取り組みを実践していく覚悟が必要だ。スキーリゾートのニセコ、世界遺産登録前後で外国人宿泊者数が5倍に増加した高野山、航空路線の充実と外航クルーズ船の寄港回数増加によって訪日外客を伸ばしている沖縄、限界集落の古民家が外国人旅行者に人気で地域の高齢者が英語の勉強を始めて元気になっている徳島県三好市祖谷地区など、インバウンド観光の成功例が出てきた。

しかし、これらの地域の取り組みが他地域に全面的に参考になるわけではない。インバウンド観光は観光振興の一部であり、より市場の大きな国内観光とどのような相乗効果を持たせるかは、地域ごとの判断である。

皆さんの地域が訪日外客誘致に求めるものは、①国内観光とともに観光の柱とすること、②国内観光需要の補完、のいずれであろうか。もちろん、訪日外客を積極的には受け入れないという判断もある。

まとめ上げる司令塔が必要

①の場合には、本格的なマーケティングを行うことになる。誘客のターゲットを決め、競合相手を知り、自身が目指すべき目標を明確にする。その目標は関係者間で合意されている必要があり、一連の取り組みをまとめ上げていく司令塔が必要になる。

観光資源は与件(すでに与えられた条件)であるから、これと親和性の高いターゲットを選ぶことがポイントである。ターゲットへの訴求活動と受け入れ時のサービスの品質向上の積み重ねが、最終的に観光地域としてのブランドを形成し、新規顧客獲得コストを軽減する。

目標は、冷静かつ具体的に記述できるよう練り上げてほしい。訪日外客数と消費額はもちろん、地域が得る消費額がどのような利益をもたらし、地域経済を活性化するのかのシナリオも必要である。訪日外客による消費がどれだけ地域経済に歩留まるのか、地元企業の技術の維持・発展にどう貢献するのかという視点から検討すべきだ。

②の場合には、まず、主力である国内観光需要をしっかり分析し、どこをインバウンド観光で補完したいのかを明確にする必要がある。

日本人観光客の少ない時期に訪日外客を誘致したいのであれば、その時期に休暇・休日を取りやすい国・地域をターゲットとする観点も重要である。地域の観光ビジネスに新しい視点や仕組みを入れたいのなら、地域の若手経営者が中心となって、学び取りたいものがある国・地域との取引を増やすようチャレンジしてもらうのもよい。

魅力を高める相手と組む

①②いずれの場合も、世界遺産がある、ミシュランガイドで評価が高い、などのように一定の知名度があるなら、その無形の財産をプロモーションの足掛かりにしていくことができる。しかし、そうでない地域は、自地域の魅力を際立たせる良い相手と組むのが早道である。

東京から新幹線で1時間の新潟県湯沢町には、「東京雪遊び」という東京滞在の訪日外国人向けのオプショナルツアーを利用して、2015年に3万人ほどが訪れた。その中にはリピーターも含まれている。海外からの旅行者にとって数時間の移動距離は意外と平気なのだ。

スキーを楽しみに訪れた豪州からの観光客の中には、日本らしさを求めて京都に寄ってから帰国する人が多いが、他の地方都市にも日本らしい魅力は十分にある。また、彼らは、ニセコ↓白馬↓野沢温泉や妙高高原、そして、その先のフロンティアを目指している。こうした動きをする客層を捉えて、地域の魅力を発信してもらい、その後のフォロワー層を獲得していく方法もある。

ビジョンとターゲットが決まれば、誘客のためのプロモーションなどの手法にはマーケティング上の定石がある。多様なステークホルダーが存在し、企業と違って指揮命令系統がない地域においては、ビジョンへの共感が意識合わせの基礎になる。

受益者が率先してリスクをとって動き、本気を見せることが、地域の人々の行動のエンジンとなる。

(矢ケ崎紀子・東洋大学国際地域学部准教授)

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