インバウンドが過去最高を記録するなど、地方創生に向けた取り組みとして観光への注目度が高まっています。一方、観光の盛り上がりがもたらす恩恵は、一部の地域にとどまるなど、現状では日本各地に行きわたっているとは言い難い状況です。そこで本稿では、観光をいかに地域の活性化につなげていくかについて、東洋大学国際地域学部の矢ケ崎紀子准教授から解説します。(全5回予定)
政府の成長戦略における観光の役割が重さを増している。「『日本再興戦略』改訂2015」では、観光産業を地域経済の基幹産業へと再構築させることが明記された。
わが国の年間旅行消費額23・6兆円(2013年)は、米国、ドイツに続いて世界第3位である。大規模であることに加えて、日本人国内旅行(日帰り・宿泊)が9割の20兆円を占め、国内市場の割合が大きいことが特徴だ。
今年7~9月の訪日外国人旅行者による旅行消費は1兆円を超え、成長市場としてのインバウンド観光を有している。生産波及効果は48・8兆円と、経済波及の裾野も広い。
訪日外国人の地方誘客促進を
2003年に訪日外客誘致事業であるビジット・ジャパン・キャンペーンが開始された。その当時521万人であった訪日外国人旅行者数は、10年後の2013年に1036万人となった。今年は1~9月までで1448万人に達し、2014年の年計(1341万人)を既に更新してしまった。災害や疾病、あるいは、世界的な政情不安が発生しない限り、2020年に訪日外国人旅行者数2000万人という国の政策目標は今年か来年中には達成する可能性が高い。
しかし、訪日外国人旅行者の訪問先はいわゆるゴールデンルート、北海道、沖縄などの特定地域に集中しており、宿泊施設の需給逼迫(ひっぱく)が深刻な問題となっている。日本人のビジネス出張時にホテルが取れない状況も生じている。
人々は初めての外国では首都・古都・商都を訪問する傾向にあり、また、観光客は魅力ある地域に引き付けられることから、訪問地に偏在が生じるのは当然のことである。しかし、東京への集中度は、英におけるロンドン、仏におけるパリの度合いを超えている。今こそ、訪日外国人旅行者の地方誘客に真剣に取り組む必要がある。
国内旅行市場は20兆円規模
成長著しいインバウンド観光によってもたらされる旅行消費額は3兆円程度である。一方、日本人による国内旅行(日帰り・宿泊)は20兆円の市場規模である。将来的には人口減少の影響により縮小していくことが予想されるが、その影響はまだ先のことであり、当面は、旅行実施率の低下がマイナス要因である。
年間に一度も観光で宿泊旅行に行かない人が4割を超えている。旅行実施率を向上させるために、旅行商品の企画力や地域の魅力発信力を向上させる必要がある。幼少期によい旅行を経験した人は自分が親になった時に子どもに同様の経験をさせたいと思う傾向にあり、家族旅行は、旅行の拡大再生産のために重要である。
求められる本気の体制整備
観光を地域の基幹産業に発展させていくためには、それなりの体制が必要である。地域の魅力を磨き、訴求すべきターゲットに伝え、交流人口を増やし、とりわけリピーターを確保し、旅行消費の域内循環によって地域経済を活性化させ雇用を維持・創造するという一連の取り組みをマネジメントしていく体制である。これらのどれが欠けても観光振興による地域活性化は達成できない。
また、訪日外国人旅行者を含め、遠くから誘客するためには広域連携が必要である。距離を超えて誘客し、数日間滞在してもらい、リピーターになってもらうためには、多様で魅力的な観光資源が必要である。
観光振興による地域経済の活性化は、入込客数増ではなく、旅行消費額増によってもたらされる。わざわざ訪れてお金と時間を消費してくれる旅行者を獲得するためには、市場の動向を見極め、事業者のエゴ、地域のエゴを超えて、需要創造のために連携することが必要である。本連載の今後は、こうした取り組みの一助となるよう、具体的な事例を紹介しながら解決策を論じていく。
(矢ケ崎紀子・東洋大学国際地域学部准教授)
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