5G通信などのIT先端分野で米中の対立が先鋭化している。5月には米国政府が中国の通信機器大手ファーウェイへの制裁を強化した。また、これまで5G通信網整備のためにファーウェイ製品の限定使用を認めていた英国が、段階的に同社製品を排除する方針に転換した。今回の決定に伴い英国政府は、国内の5G通信網整備のために日本のIT企業に協力を求めている。それは、わが国の通信業界にとって、IT先端分野での成長を目指すための大きなチャンスだ。
英国政府の協力要請は、日本のIT企業と有力通信メーカーであるノキアやエリクソンとの競争を促し、英国がより有利な条件で交渉を進める狙いがあるとみられる。そのため、英国側の要請を単純に歓迎することは必ずしも適切ではないかもしれない。ただ、これまで当該分野で、海外の有力メーカーの後塵を拝することが多かったわが国メーカーにとって好機であることは間違いない。日本の通信業界はこのチャンスを生かし、世界経済の急速な変化に対応し、世界各国から必要とされる技術を迅速に生み出すことが求められる。重要なポイントは、米国からも中国からも必要とされる先端技術を自力で創造することだ。そのためには国内企業との連携を強化するなど、先端技術の開発力を高めるべきだろう。
近年、米国と中国は政治、経済、安全保障において世界のリーダー=覇権国の座を争ってきた。特に、5G通信網の整備をはじめIT先端分野で米中の通商摩擦がし烈化している。2019年5月には米国政府が、5G通信をはじめとするIT先端分野での中国の覇権強化を阻止しようと、中国の通信機器大手のファーウェイへの制裁を強化した。それに加えて本年5月に米国政府はファーウェイへの制裁措置を一段と強化した。米国の要請に応じて、9月以降、台湾の半導体受託製造大手TSMCがファーウェイへの出荷を止める予定といわれている。一方、ファーウェイ傘下の半導体開発企業ハイシリコンの開発力は高いのだが、製造能力は十分ではない。最先端の5ナノ半導体などの製造をTSMCなどに依存してきた。ファーウェイが、米国政府の強硬措置を打開できるかは見通しづらい。その状況下、英国政府は、27年までにファーウェイを自国の5G通信網から段階的に排除する方針を明確にした。それに伴い、英国は5G通信網整備への影響を最小限に食い止めるために、わが国通信業界に協力を要請した。
日本の通信企業の海外展開が遅れた一つの要因として、1980年代以降、変化への適応よりも現状維持を優先したことがある。現に80年代、米国は世界を席巻したわが国の産業政策を過度に保護的だと批判し、日米の半導体摩擦が激化した。86年には日米半導体協定が締結され、日本は米国の要請に応じて米国企業の半導体輸入を増やした。また、日本の半導体産業は韓国などに技術支援を行い、アウトソーシングによるシェア維持を目指した。その状況を悪化させたのが90年代初頭のバブル崩壊だ。日本経済が低迷する一方、韓国のサムスン電子などが日本のヒト・モノ・カネを用いて急速にDRAM市場でのシェアを獲得した。
今後、日本の通信企業が収益力を高めるには、幅広い専門人材やテクノロジーを積極的に活用し、5G通信機器を中心にIT先端分野での技術競争力を発揮すべきだ。個別企業が、かつてのように自社完結の発想で技術開発を進めるのではなく、よりオープンに新しい発想や技術の創出を進め、米中に依存しないオリジナルの先端技術を生み出すことだ。英国政府は、ノキアやエリクソン、韓国企業などとの競争を促し有利な条件提示を求め、通信インフラ整備の費用の引き下げや時間の短縮を目指そうとするはずだ。そのために、より多くの企業とのアライアンスなどを強化し、技術開発力の迅速な引き上げを目指す必要がある。その上で、独自の技術を生み出し信頼感を得ることができれば、日本の通信業界は、米中をはじめ世界から必要とされ技術力を高めることができるはずだ。
最新号を紙面で読める!