総務省は2020年8月4日、日本のICT産業における現状や課題をまとめた「令和2年版情報通信白書」を公表した。同白書では「5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築」と題した特集が組まれ、「5Gがもたらす社会全体のデジタル化」や「5G時代を支えるデータ流通とセキュリティー」といった内容を記述している。また、新型コロナウイルス感染症の影響についても「感染症の流行を契機として、ICTは、国民生活や経済活動の維持に必要不可欠な技術となり、これまでデジタル化が進まなかった領域にもデジタル化の波が押し寄せている」と分析している。特集では、同白書の概要を紹介する。
デジタル化の波、一気に 新しい価値の創造へ
はじめに
〇新型コロナウイルス感染症の流行を契機として、ICTは、国民生活や経済活動の維持に必要不可欠な技術となり、これまでデジタル化が進まなかった領域にもデジタル化の波が押し寄せている。
〇人の生命保護を前提に、感染症発生以前とはフェーズを異にする新たな社会・経済へと不可逆的な進化を遂げる。デジタル化・リモート化を最大限に活用することにより、個人、産業、社会といったあらゆるレベルにおいて変革が生まれ、新たな価値の創造へとつながっていく。
〇これまでもデジタル基盤整備およびデジタル技術活用を通して、サイバー空間とリアル空間の融合が進んでいたが、感染症の発生で、両空間が完全に同期する社会へと向かうとの指摘もある。今後は収束へ向け、第5世代移動通信システム(5G)をはじめとするデジタル基盤や、IoT・ビッグデータ・AIといったデジタル技術の活用が、今まで以上に重要となる。(図1)
第1部 特集5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第1章 令和時代における基盤としての5G
1.移動通信システムの進展
〇わが国の移動通信システムは、1979年の導入以降、約10年ごとの世代交代を経て、機能は大きく向上し、契約者数は飛躍的に増加。現在では、通信基盤から生活基盤へと進化。
〇わが国で本年から商用開始された5Gは、IoT時代の基盤として、さまざまな分野・産業で実装されることにより、従来以上の大きな社会的インパクトをもたらすと期待。
〇2019年4月の米韓を皮切りとして、各国でも相次いで商用開始。
2.通信市場の構造変化
〇IoTデバイス数は、IoT・AIの普及や5Gの商用開始などに伴い、特に産業用途やコンシューマー向けで大きく増加するものと予測。
他方、移動体通信サービスの契約数については、飽和状態に近づきつつあり、緩やかに成長していくものと予測される。
〇世界の携帯電話端末市場は、この10年間で市場シェアを有する企業の顔ぶれが大きく変化。スマートフォンの販売台数においても中国企業が台頭して市場シェアを獲得する一方、日本企業のシェアは縮小している。
第2章 5Gがもたらす社会全体のデジタル化
1.課題解決手段としてのICT
〇わが国は課題先進国と称されるように、諸外国に先んじて人口減少・少子高齢化が進んでおり、ICTを導入・利活用して、雇用や生活の質、労働生産性の向上を積極的に進めて行くことがかねてより求められてきた。
2.2020年代を見据えた取り組み
〇20年代を見据えた5G、キャッシュレス、多言語音声翻訳、顔認証などの新たな技術の導入、テレワークによる働き方の見直し、防災などの取り組みは、単にわが国のICTをショーケースとして世界に示すチャンスであるだけでなく、日本社会全体を変革するチャンスでもある。
3.新型コロナウイルス感染症が社会にもたらす影響
〇新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、新たな生活様式への移行が求められている。
〇企業におけるテレワークの導入(図2)のほか、行政とシビックテック(市民自身がテクノロジーを活用して社会課題を解決する取り組み)、民間企業との連携による人との接触リスクの可視化、学校での遠隔授業、遠隔医療の要件緩和などICTによる対面によらない生活様式への取り組みが一気に拡大している。
〇一方で、ICTの活用によるトラフィックの増加、セキュリティーリスクへの対応不足、電子契約への移行(図3)などの業務内容の見直しの必要性、公衆衛生とパーソナルデータ活用のバランスなどの課題が顕在化してきており、その解決の取り組みを推進していく必要がある。
4.5Gが促す産業のワイヤレス化
〇5Gの実装が幅広い産業・分野で進むことによって、業務の効率化や新たな付加価値の創出といった効果をもたらすことが期待される。
〇携帯電話事業者による全国向けサービスとは別に、地域や産業の個別のニーズに応じて、さまざまな主体が柔軟に利用可能な移動通信システムとして、ローカル5Gを創設。本年からローカル5Gなどを活用した課題解決モデルを構築するための開発実証を推進。
〇企業の5Gへの関心を尋ねたところ、いずれの業種も高い関心を示しているが、特に製造業の関心が高い。また、規模別では、大企業の関心がより高い(図4)。
〇また、産業用途における5Gとしてわが国と同様、ローカル5Gの制度を創設し、免許手続きを開始している国が存在。
第3章 5G時代を支えるデータ流通とセキュリティー
1.デジタルデータ活用の現状と課題
〇コンテンツの大容量化やIoTデバイスの普及などにより増大しているデータ流通は、5Gの普及により、さらに加速されると見込まれる。
〇IoTは15年に比べ、4~7倍の高い伸びを示現している(図5)一方、米国およびドイツの企業に比べると、わが国のデジタルデータ活用度は低く、さらに活用されることが望まれる。
〇新型コロナウイルス感染症対策でシビックテックを中心としてオープンデータの活用が推進されており、今後、多くの社会課題解決に役立てられることが期待される。
2.パーソナルデータ活用の今後
〇わが国においては情報銀行の認定などの取り組みが始まったこともあり、パーソナルデータの提供に不安を感じる消費者は2017年に比べ減少している。
〇今後、情報銀行・PDSや匿名加工情報がさらに活用されることが期待される。
3.5G時代のサイバーセキュリティー
〇併せて、5Gの普及に伴うリスクやサプライチェーンリスクなど、新たなサイバーセキュリティーのリスクに対応することも重要。
第4章 5Gのその先へ
〇30年代に向けて、既に先進諸国において5Gの次である「Beyond5G」の取り組みが始まっている。
〇わが国でも官民が一丸となって国際連携の下で戦略的に取り組むことが重要であることから、「Beyond5G 推進戦略」を2020年夏に策定。
〇国際競争力の確保に向けて、わが国が強みを持つまたは積極的に取り組んでいる技術(テラヘルツ波、オール光ネットワーク、量子暗号、センシング、低消費電力半導体など)の研究開発力を重点的に強化。
第2部 基本データと政策動向
第5章 ICT分野の基本データ
(図6)
第6章 ICT政策の動向
(省略)
本白書の本編と資料編は、https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/r02.htmlを参照。
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