小規模事業者の経営改善に成果を挙げてきたマル経融資制度が昨年、創設40周年を迎えた。日本政策金融公庫国民生活事業本部の平松幹弘融資部門長に同公庫のこれからの取り組みや商工会議所との連携などについて話を聞いた。
発足から40年、資金面をサポート
皆さまの期待に応える
──マル経融資発足40周年にあたって、公庫としてどのような取り組みを考えていますか。
小規模事業者経営改善資金融資(マル経融資)が昨年、昭和48年の創設から40周年を迎えた。商工会議所の皆さまが長年にわたってマル経融資などの普及・推進にご協力いただいたこと、会員の皆さまがマル経融資をご利用いただいたことに厚くお礼申しあげる。
わが国の経済は緩やかに回復しており、先行きについては、輸出が持ち直しに向かい、各種政策の効果が下支えする中で、家計所得や投資が増加し、景気の回復基調が続くことが期待される。一方、その実感は、小規模事業者には必ずしも十分浸透していない。より確実な成長軌道の実現が期待される。
こうした中、日本政策金融公庫(公庫)は、マル経融資などの資金面でのサポートにより、さまざまな経営問題や新たな展開に取り組まれている小規模事業者の期待に応えていくよう引き続き努力していく。
経営指導と金融が一体化
マル経融資は、小規模事業者を取り巻く環境が変化する中、政策金融機関として公庫が担う小規模事業者の円滑な金融支援を行う必要性が高まったことから、小規模事業者に対する経営指導と金融の一体化を図り、経営改善普及事業の実効性を高めるために、無担保・無保証の融資制度として昭和48年10月に創設された。
各地商工会議所の経営指導員による経営指導の実施を前提として、小規模事業者の融資申し込み後、経営指導員が調査を実施した結果を地域の事業者などで構成する審査会で判断の上、会頭の承認を受け、商工会議所が公庫に推薦。これを受けて公庫が融資する。経営支援と金融が一体となった画期的な融資制度であり、推薦から融資実行まで、スキームは40年経過した現在もほとんど形を変えていない。
1000億円超の年間実績
マル経融資の実績は、小規模事業者のひっ迫する資金需要に応える制度としての役割を果たしており、オイルショックやバブル崩壊期においても堅調に推移してきた。しかし、平成11年度以降、地方公共団体の融資制度や、特別保証制度の充実などにより民間金融機関の貸出が急激に伸びたことなどが影響し、減少に転じた。23年度、24年度は、①商工会議所における推薦目標設定・表彰など、経営改善普及事業の中での積極的なマル経融資の推進、②商工会議所と公庫の濃密な連携の推進、③地方公共団体のマル経融資に対する利子補給の拡大などの取り組みにより、実績が増加に転じている。
全国の商工会議所に推薦いただいた平成24年度の実績は2万2264件(前年度比111.9%)、1027億円(前年度比108.8%)となっている。また、今年度の実績は、25年4月から12月までで1万7400件(前年同期比98・4%)、944億円(前年同期比116・5%)となっている。今後も会員の皆様に引き続きご利用いただけるよう、サービスの充実を図っていく。
2000万円に限度額が拡大
柔軟な対応が可能に
──26年度からマル経融資の融資限度額が2000万円へ拡充されることになりますね。
小規模事業者の範囲が弾力化されたことに伴い、今年1月7日から、マル経融資の対象のうち宿泊業・娯楽業における従業員数の要件が5人以下から20人以下に緩和された。
また、平成25年度補正予算成立に伴い、今年の2月24日から、法定耐用年数を超過した設備を更新するための設備資金融資は、当初2年間、利率を0・5%低減できるようになった。この融資制度は、政府の「日本再興戦略(25年6月閣議決定)」のもとで設備投資促進を目的として拡充されたもので、マル経融資にも適用できる。
さらに、今年4月から、マル経融資の融資限度額を現行の1500万円から2000万円に拡充する予定である。利用に当っては、①推薦書に事業計画書を添付すること、②マル経融資の合計残高が1500万円を下回るまで半年ごとに1回以上経営指導員が実地訪問を実施すること、③事業計画書の策定支援などに向けた研修を受講した経営指導員が推薦に携わることが必要となる。これまでも多くの会員の皆さまに本制度を利用いただいてきたが、今回の拡充によって、より一層皆さまのご希望に柔軟に対応することが可能となる。
このほかにも、後述する創業関連融資など、さまざまな融資制度を拡充しているので、運転資金・設備資金が必要な際には、マル経融資とあわせて、ぜひご利用を検討いただきたい。
総合力で地域社会に貢献
各機関がノウハウ持ち寄る
──各商工会議所との連携強化の方向性を紹介してください。
公庫は、国民生活事業・農林水産事業・中小企業事業の3つの事業が連携して「総合力」を発揮し、地域活性化やビジネスマッチング、輸出支援を含めた商談会の開催などに取り組んでいる。特に地域活性化においては、公庫の各支店が、商工会議所や各地方公共団体などとともに創業支援やまちづくりの推進などを目的とする地域プロジェクトに積極的に参画し、地域社会に貢献できるよう努めている。
例えば、茨城県の土浦支店は、古河商工会議所(茨城県)と古河市や、地元の士業団体など8つの支援機関と連携し、「古河創業支援ネットワーク」を結成した。このネットワークは、若者から女性、シニア世代の創業を考えている人や、創業後間もない企業に対して、さまざまな相談に応じる仕組みを取っている。
公庫が創業資金を融資し、商工会議所が相談の受付やセミナー、販路開拓を支える。市は公的な制度融資を案内し、税理士をはじめとした士業団体などはそれぞれの専門分野で支援する。
このように、必要に応じた他機関への紹介などで各機関の強みやノウハウを持ち寄り、お客様の目線に立って役に立つ取り組みや情報を提供することで、ワンストップサービスの実現が可能となった。
また、広島県の福山支店は、業務区域内の笠岡商工会議所(岡山県)と笠岡市や、笠岡市に本支店を置く5つの金融機関と共同で、起業の準備から事業が安定するまで継続的に支援できるよう、起業を目指す人を支援する組織「かさおか創業サポートセンター」を設立した。商工会議所が起業を目指す人の窓口となって、ビジネスプラン作成や法人設立の手続きなどの実務を担い、公庫をはじめとする金融機関が資金相談や融資に応じる。また、公的な助成金制度の紹介をする仕組みとした。これにより、起業家を各組織が手を組んで支え、起業しやすい環境を整えることができた。
創業の種まき、起業家増やす
高校生向けの出張授業も
──創業や、ソーシャルビジネスの支援により一層注力していくのですね。
「日本再興戦略」に、「開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率10%(現状は5%)を目指す」と掲げられている。公庫は、その達成の一翼を担うべく創業者や、創業後間もない企業の支援に積極的に取り組んでいる。融資による資金面の支援だけでなく、創業セミナーの開催や全国152支店の「創業サポートデスク」における事業計画書策定サポートなど、さまざまな形での支援を実施している。
また、新たな取り組みとして、平成25年度に全国の高校生を対象にした「創造力無限大∞ 高校生ビジネスプラン・グランプリ」を開催した。希望する高校には、事業計画作成のための出張授業を行い(82校で実施)、サポート態勢を充実させたことで、全国の高校から1500を超えるエントリーがあった。すでに第2回目の開催も決定しており、今後も、創業の種を幅広くまき、将来の起業家を増やすための取り組みを継続していく。
融資制度については、補正予算成立によって、さまざまな拡充を実施している(図表3)。例えば、無担保・無保証人の融資制度である「新創業融資制度」は、融資限度額を1500万円から3000万円に拡充(設備資金のみ)、創業資金総額における自己資金割合の要件も緩和された。また、金融検査上、資本金と見なせることを特徴とする「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」も、融資限度額を2000万円から3000万円に拡充している。
加えて、4月からは、認定経営革新等支援機関による指導を受けた創業者が利用できる「中小企業経営力強化資金」の融資限度額のうち、無担保・無保証人で利用可能な限度額が1500万円から2000万円に拡充され、女性・若者・シニア起業家については、さらに利率も低減される予定である。 今後も引き続き創業支援を積極的に行っていくので、創業資金を必要とする人には、ぜひ利用を検討いただきたい。
ソーシャルビジネスを支援
公庫は、高齢者、障害者の介護・福祉、子育て支援など、社会的課題をビジネスの手法で解決していくソーシャルビジネスの支援にも力を入れている。今年度は全国の主要都市でソーシャルビジネスセミナーを開催した。
融資制度についても、補正予算成立によって、新規開業資金の制度を拡充。「保育、介護サービス事業などを行うために必要な資金」や、一定の要件を満たすNPO法人などが事業を行うための必要な資金に対し、特別利率を適用することが可能になった。
ソーシャルビジネスは、地域や社会を取り巻く課題の解決に取り組んでおり、こうした事業者を支援していくことが地域・経済の活性化につながるものと期待している。
そのほかの融資制度に関して、詳しくは、事業資金相談ダイヤル(TEL:0120・154・505)まで、気軽に問い合わせをいただきたい。
このほか、公庫全体として、地域金融機関などと連携した中小企業・小規模事業者などの再生支援、海外展開資金の融資やスタンドバイ・クレジット制度の活用などによる海外展開支援、農林水産業の新たな展開への支援を実施している。
今後も、日本政策金融公庫では地域の身近な金融機関として、公庫の使命である政策金融機能の発揮に努めていくので、引き続き商工会議所・会員の皆さまの支援、愛顧を賜るようお願い申しあげたい。
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