事例1 地域の実情に合わせてキャッシュレス化を推進
木更津商工会議所(千葉県木更津市)/袋井商工会議所(静岡県袋井市)
9月に開催されるラグビーW杯を控えた静岡県の袋井商工会議所は楽天カードと提携し、会員店舗のキャッシュレス化を推進している。一方、千葉県の木更津商工会議所は地域通貨をつくり、地域経済の活性化を図っている。この二つの商工会議所の取り組みとその成果を紹介する。
ラグビーW杯前にクレジット決済環境の整備を急ぐ
袋井市には「ふくろい遠州の花火」「遠州三山」といった観光資源がある。年間400万人の観光客が訪れているが、「人出がある割に経済波及効果が出ていませんでした」と、袋井商工会議所専務理事の鈴木満明さんは話す。しかも、9月から10月にかけて「ラグビーワールドカップ2019」の4試合が市内のエコパスタジアムで開催されることが決まっている。
「そこでインバウンド需要を見込んだ域外需要の取り込みが課題となっています。対策の一つとしてクレジットカード決済システム導入の支援事業を開始し、駅前商店街や個店でのクレジットカード決済環境の整備を進めています」
同所は、かなり優遇された決済手数料を提示した楽天カードと提携。インバウンドの利用が多いと見込まれるVISA、マスターカードに対応したクレジットカード決済の導入を進めているが、「話題になっているQRコードを使ったスマホ決済を導入することもできます。お客さまがQRコードを読み取るタイプを選べば、店側は新たな端末を用意する必要はありません」(鈴木さん)。
2018年4月に同所が開いた導入説明会では、店のスマートフォンやタブレットで利用でき、楽天銀行に口座を開設すると最短で翌日に自動入金(そのほか金融機関でも翌営業日に入金可能)されることを説明した。同所を介して契約すると「手のひらサイズ」のカードリーダー1台を無償提供、懸案の手数料を特別に低く設定する特典も案内した。参加者(36事業所72人)はクレジットカード決済環境が手軽に構築できる点を評価する一方で、「情報機器システムは使用方法が難しくないかとか、現金の動きが見えなくて不安という声があがりました」(鈴木さん)。
当初は、20事業所に27台のカードリーダーが導入されたが、その効果は早くも現れた。一例を挙げると、運転代行業ではカード払いができることで代金の未回収を防ぐことができ、他社との差別化が図れたという。
「エコパスタジアムや花火大会などのイベント出店でもモバイル決済が可能になるので、売り上げ増が見込めます。店員が現金をさわらずに済むので衛生面でのアピールもできるでしょう」(鈴木さん)
一方、課題も明らかになりつつある。それはレジとの連動性など経理処理が複雑になる可能性があることや、新しいシステムが出てくるため、複数のシステム導入を検討しなくてはならない場合があるといったことだ。
「この地域の普及率はまだ低いのですが、導入の機運が高まっていることは間違いありません。時流にも後押しされて、キャッシュレス化は進むと思います」
鈴木さんは、導入支援事業の手応えを感じている。
あえて不便な地域通貨にして域内経済を活性化
木更津商工会議所、木更津市、君津信用組合は、18年10月1日から市内だけで通用する電子地域通貨「アクアコイン」の運用を開始した。スマホの専用アプリにアクアコインを1コイン=1円としてチャージし、QRコードを読み込んで決済する。
「お客さまが慣れれば現金よりも速く支払えるし、レジの作業も速くなります」。木更津駅前のベーカリー「クロワッサン 木更津ワシントンホテル店」の感想だ。利用者は30代が中心だという。 明治30年創業の老舗「味処宝家」でも導入が始まった。「最初のお客さまのときは少し作業に戸惑いがありましたが、すぐに慣れました。クレジットカードに比べて売り上げの入金が早いのも店としてはありがたいですね」(女将の鈴木まり子さん)
QRコード決済は普及し始めの段階にあるが、使い勝手については「案ずるより産むが易し」のようだ。
それでは「あえて限定的で不便なものにした」というアクアコインの目的は何か。
木更津商工会議所会頭の鈴木克己さんは、「市内に住む人が得たお金が市外に流出している現状では、地域が元気になるはずがありません。しかし流出を否定しても仕方ないので、地域でお金が回る仕組みを考えました」と導入の経緯を説明する。同時にアクアコインを通じてインバウンド需要や観光客の消費を取り込んで、地域内で回すことも目指しているという。
アクアコイン導入のハードルは低い。専用端末は不要で、スマホとQRコードだけあればいい。クレジットカード決済時に行う売上票の手渡しも不要だ。決済手数料はゼロで、換金手数料1・8%のみ。商工会議所会員などの加盟店は1・5%となっている。加盟店間の送金手数料は0・5%。換金申請の翌営業日に口座へ入金され、加盟店間の送金は24時間可能だ。現金決済に近い利便性を持たせている。
現時点のアクアコインのチャージの上限は10万円だが、将来は所定の手続きを経ることで上限を200万円にすることが可能になる。「そうしたら自動車購入時といった高額商品を購入するときにも使うことができるようになります」(鈴木さん)
決済のメリットだけではない。専用アプリに集客・販促機能を持たせている。GPSによる店舗までの道案内や店舗の宣伝、そして将来は店舗周辺の利用者に情報を通知するポップインフォ機能も使えるようになる。
「第二段階として、19年度以降はボランティアなどに参加するともらえる行政ポイントの提供を予定しています。20年度以降は行政サービスの使用料・手数料にも使えるようになる予定です」(鈴木さん)
加盟店は市内の391店(18年12月12日現在)、年度末までに500店舗、利用者1万人を目指す。地域の個店が中心だが、市内の大手コンビニでも使えるため、幅広い層に受け入れられそうだ。
「使い勝手はだいぶ解消されたので、今後は消費者が使いたくなるようなアイデアを盛り込んでいくことが課題です。アクアコインを通じて市民と市民がつながる温かいお金を目指したい」。それが導入を先導した鈴木さんの願いだ。
会社データ
名前:袋井商工会議所
所在地:静岡県袋井市新屋1-2-1
電話:0538-42-6151
HP:http://www.fukuroi-cci.or.jp/
※月刊石垣2019年2月号に掲載された記事です。
会社データ
名前:木更津商工会議所
所在地:千葉県木更津市潮浜1-17-59
電話:0438-37-8700
HP:https://www.kisarazu-cci.or.jp/
※月刊石垣2019年2月号に掲載された記事です。
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