テーマ別企業事例 地域に根ざし、共に歩む 〜愛される企業の秘密〜

事例4 安心安全を第一に熊本の食文化を全国へ

千興ファーム(熊本県)

馬肉を全国へ広げようと尽力する菅浩光さん(右)と内田雄治さん

200年以上前に馬肉の小売り「菅乃屋」からスタートした千興ファームは、安心安全の追求を最も大切にしている。それは、おいしい馬肉を多くの人に届けるためだ。熊本の食文化を全国に広めようと、食べてもらう機会の創出に力を注いでいる。

多くの困難を乗り越えて生まれた真のおいしさ

低カロリーでタンパク質を多く含む馬肉は、健康に気を遣う高齢者やアスリートなど、幅広い層から支持されている。同社がつくるおいしい馬肉は、熊本・福岡に展開する13の直営店で購入できるほか、レストラン「菅乃屋」でも食べることができる。

熊本に4店、福岡に1店を構える菅乃屋は、それぞれコンセプトが異なるという。「銀座通り店は、馬の素材を生かした料理。上通り店では見た目も楽しめるような創作料理を……というように、店ごとに特徴があります。西原店では、アメリカンスタイルでファミリー向けの店を意識しました。ボリュームもあって気軽に食べられる馬肉ハンバーガーを誕生させたのです」と常務取締役営業部長の菅浩光さんは振り返る。

平日の昼間でも、家族連れや会社員などでにぎわう西原店の馬肉ハンバーガーは、ジャンボサイズが大人気。「馬肉はあっさりして食べやすいので、牛肉の倍の量でもペロリと食べられますよ」と品質保証部部長の内田雄治さんが紹介するように、女性客にも人気の一品だ。

熊本の特産品として有名な馬肉だが、インターネット通販の普及によって今では日本全国で食べることができる。関心度も年々高まっているそうだ。

「関東や関西でも、馬肉のおいしさが広まっているように感じます。牛肉を支持する関西でもテレビ番組で紹介されるなど、馬肉の魅力を知ってもらえるようになってきました」と内田さん。「12年前の『午年』で馬肉への注目が一時は高まりましたが、その後低迷し、勢いが戻ってきたのはここ最近ですね」。この10数年の間、同社は大きな壁を乗り越えて地道に歩んできた。

平成8年にO-157が発生したときは、全国の消費者が生食を敬遠し、大きな販売先であった大手量販店での売り上げが落ち込んだ。そんな状況でも、生で食べるおいしさを広めるために、同社は努力を惜しまなかった。「生で食べることが法的に許されている馬のおいしさを多くの人に伝えたい。まだまだ小さい馬産業の拡大に向けて、やる価値があると思いました」と菅さんは語る。「安全かつおいしいお肉を、自信を持って提供することに力を注ぎました」。

常識を超えた挑戦で切り開いた新たな道

同社は新しい挑戦をスタート。これまでの「加工」という常識を超え、「冷凍」という販売スタイルで挑み、業界を驚かせた。

「チルド販売をメインにしていたので、冷凍という発想は、今まで右を向いていた馬肉業界がいきなり左を向くようなものです。私たちは、冷凍、解凍、保管、それぞれの技術を磨きながら手探りで始めました。『こんなんじゃダメだ』『果たしてお客さまに買ってもらえるのか』と何度も悩み、品質が安定するまでお客さまの前には絶対出さないと決めて取り組んできました」

こうして、同社は「素材×凍結×保管×解凍」の4つのポイントをコントロールすることで、生の状態と変わらないおいしさで提供することを可能にした。「冷凍によって、鮮度を止めることができるのです。そして食べる直前に解凍することで、最もいい状態で食べてもらうことができるようになりました」と菅さん。オーダーを受けてから調理をする飲食店などから発注されるようになり、次第に勢いを取り戻した。

菅さんは、平成23年に「熊本県馬刺し安全・安心推進協議会」の会長となった。協議会は、県内のと畜メーカーや馬肉専門店など40~50社が集い、県全体で冷凍の安全性について協議している。「馬刺しを全国に広めようという意志は皆同じです」と語る菅さんは、「業界を引っ張っていける存在でありたい」と、馬肉業界を活性化させようと取り組んでいる。「現状維持も大変ですが、次のことをやらないと食べてもらえる機会は増えません。と畜量では日本一のシェアを誇る業界のトップとして、私たちの使命は、まだまだ浸透していない熊本の馬肉を広めることにあると思っています」。

品質の良い馬を育てるため、環境づくりや肥育にもこだわりを持っている。同社では、と畜した後すぐに解体、冷凍処理することができ、最もよい状態の馬肉の生産が可能だ。O-157を機に、と畜・解凍・製造を一貫して行う生肉生産ラインをつくり、衛生管理において全国トップクラスを誇る処理工場を建設した。海外でと畜した肉を輸入し、加工するのとでは、鮮度も味も、臭みも全く異なるという。

「県外の人が、熊本で馬刺しを食べて『イメージが変わった』と言います。皆さん、本当のおいしさを知らないのです」と内田さん。気候に敏感に反応する馬は、大きな気温の変化や悪天候など、悪条件が重なると死に至ることもあるという。「餌や太り具合で、サシの入り具合が全く異なります。大事に育てることによっておいしい馬になるのです」。

馬肉に親しんでもらうさまざまな試み

工場は見学することもできる。「小中学生や教員、生肉販売員の皆さんに見てもらうことで、どのように馬肉ができているのかを知り、『命』をもらっているんだということを感じることで、食への感謝の気持ちを養ってほしいと思っています。地域の人たちに実際に見てもらうことで安全性を伝える機会にもなっています」と話す菅さん。「熊本の馬を全国に広め、熊本でなくてもおいしい馬肉を食べられるようにしたいです。そのためには、安全・安心を第一に、業界で共存共栄していくことが大切だと思っています。それが、地域の経済を潤すことにもなるのではないでしょうか」。

自分たちの誇るべきものをどのようにして広めていくか。千興ファームをはじめとした馬肉業界の挑戦によって、熊本の食文化が全国に定着する日はそう遠くないのかもしれない。

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