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テーマ別企業事例 あの日から3年。被災地は今

平成23年3月11日、突如、人々の生活を襲った東日本大震災。あの日から3年がたった。復旧から復興へ進む過程には、被災地の人々の努力はもちろんだが、全国からの多くの支援があった。今号は、商工会議所が取り組んでいる人材派遣、企業連携、遊休機械マッチングプロジェクトなどのさまざまな支援活動を紹介する。

人材派遣 専門知識を生かし復興に全力 京阪電気鉄道

日本商工会議所は、全国の商工会議所に呼び掛け、会員企業の社員を東日本大震災で被災した地域の自治体などに派遣。現在、民間企業4社から6人が、復興庁(1人)と自治体(5人)で専門技術を生かして復興業務に当たっている。また、仙台商工会議所(宮城県)と日商からも復興庁に職員が出向し、民間の視点で働いている。ここでは、大阪府の京阪電気鉄道から岩手県の山田町役場、宮古市役所に派遣されている3人の社員の活躍を紹介する。

鉄道路線が復旧できるよう調整

山田町役場 建設課 長瀧 元紀さん

休日は北東北を回っているという長瀧さん

地域や住民のための仕事

長瀧元紀さんが昨年4月から派遣されている山田町は、宮古市の南隣に位置し、震災で死者・行方不明者818人、中心の山田地区では全住宅の約半数、1300戸が全壊するなど、大きな被害に遭った。

今年4月に沿岸部を走る三陸鉄道が全線運転を再開するが、山田町を通るJR東日本の山田線は、宮古︱釜石(岩手県)間が今も不通で、復旧のめども立っていない。山田町は、平成23年末に復興のための土地利用計画を策定。周辺の土地と合わせてJR山田線の線路を約3mかさ上げし、元のルートで復旧することを打ち出している。

「主な仕事は、山田線が復旧できるよう調整することです。線路を敷くのはJRですが、陸中山田駅のかさ上げや、線路と交差する地下排水路の設置などについては、町側の計画においても鉄道特有の土木知識が必要になります。復旧のGOサインが出たときに町でも計画を進められるようにしておかなければなりません」

派遣先の上司である建設課の阿部秀一課長は、「鉄道は特殊な分野であり、知識がある人に来てもらって助かりました。JRとの協議の場でも互角に議論ができます。コンサルタントにも明確な指示を出せるので町にとって貴重な存在です」と話す。

自治体での仕事について長瀧さんは、「鉄道会社も公的な仕事なので、違和感はありませんでした。地域のため、住民のための仕事ができます。復興を担当できるのはありがたいです」と謙遜する。

長瀧さんは単身赴任。住居が不足しているため、被災地外の自治体から派遣されている職員と同様に応急仮設住宅で暮らす。30人弱の課で12人が自治体などからの助っ人。その中でも、長瀧さんは唯一の民間出身者だ。「応援がなければ、仕事が回らないのが現実です」と阿部課長は打ち明ける。震災前は、公共施設の維持管理がメーンの仕事だった建設課。震災後は、土木、建築、道路、区画整理とあらゆる業務が増えた。

「人手不足なので、技術的な仕事だけでなく、町民との調整も担当しています。復興事業のための用地買収で先祖代々の土地を大事に思う人からも合意をいただきました。また、現場に出る仕事もあり、電柱や電線の移設や土地の境界確認の立ち会いなど、何でもやっています」と長瀧さんは語る。

市役所の移転に向け鉄道会社との協議を重ねる

宮古市役所 都市整備部 福井 弘高さん/都市計画課 市街地拠点整備室 山田 泰永さん

休日は東北小旅行に公共交通機関を利用して出かけ、「鉄道とバスの路線区間や乗り換えの設定がうまく需要に合っていることに感心させられます」と語る福井さん

関係者の相互理解と何が必要かの見極めが重要

京阪電気鉄道で線路保守や立体交差化を中心に工務部門全般を担当していた福井弘高さんと、線路の設計や鉄道施設の維持管理、対外工事協議などを担当していた山田泰永さんの2人は、昨年4月から宮古市役所都市整備部都市計画課市街地拠点整備室に勤務。6人体制の部署で、中心市街地と津軽石地区の津波復興拠点事業やJR山田線の復旧、それに併せた法の脇地区の防集移転区域跡地の整備計画業務を担当している。

宮古市では現在、津波で浸水した市役所を浸水区域外にある宮古駅裏に移転する計画が持ち上がっている。併せて市の関連施設を集約して防災機能を強化し、中心市街地を活性化するのが狙いだ。

福井さんと山田さんは鉄道会社での実務経験を見込まれて、山田線の復旧に向けた整備計画の策定や、JR東日本との鉄道分野を中心とした協議を担当する。

「市役所の移転対象用地の大半がJRの敷地であることや、用地内にあるJRの施設を移転する必要があること、駅裏と駅前広場との連絡通路の設置を予定していることから、専門知識を生かし鉄道技術分野を中心にJRとの協議を重ねています」(福井さん)

福井さんは、業務を通じて、「復興に向けて関係者が心を一つにして相互のコミュニケーションを深めることや、限られた資源の中で何が必要かを見極めることが重要だと気付いた」という。

震災から3年近くたち、福井さんは、「ようやく高台移転や災害公営住宅などの工事が進んできた」と実感している。

さまざまな経験や人との交流が喜び

一方で、JR山田線は復旧の方向性は見えてきたものの、まだその方針が定まっていない。そんな中、福井さんは、「鉄道の役割をみんなで共有する手助けをしたい」と抱負を述べる。

「宮古駅裏への拠点整備計画に伴う測量・建物補償調査、関係協議のほかに、法の脇地区の山田線の復旧に伴う基本計画を調査する業務もあります。また、山田線利用促進会議や、山田線復興調整会議などにも参画しています」(山田さん)

山田さんは、被災地に入って最初に実感したのが、復興がなかなか進んでいないことだったと振り返る。

「被災の状況を目の当たりにして、まちや鉄道の復興に少しでも貢献したいという気持ちで日々業務に取り組んでいます。事業を進めるために、多くの問題や乗り越えなければならないこともありました。そんな中でも、いろいろな経験や人との交流を得ることができたことに喜びを感じます」(山田さん)

一方で、復興事業が長引くことで人口が流出し、高齢化問題などが顕在化している。復興してもこれから先も課題が山積であることを痛感したという。

全国の商工会議所の会員企業を代表して被災地で働く3人の鉄道マン。彼らが見て聞いて感じたことは、われわれにとっても大きな財産になるだろう。

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