企業連携 大手企業と経営課題を抱える被災企業をマッチング 復興庁
復興庁が被災地の商工会議所と共同で実施している地域復興マッチング「結の場」。支援を申し出ている大手企業などと被災地の企業とを結びつけ、大手の持つヒト・モノ・情報・ノウハウと被災地企業が抱える経営課題をマッチングさせ解決に導く事業だ。
対話を通じ大手企業から本気のアドバイス
復興庁宮城復興局が平成24年11月から実施している「結の場」。民間企業からの出向者が多い同局の「企業連携推進室」スタッフがアイデアを出し合って始めた。
「これまで被災地の企業は一方的に支援を受けていましたが、これからは支援する側の企業と一緒に同じ方向を向き、ともに活動することが持続的な発展のためには必要だと感じました」と、仙台商工会議所から同局に政策調査官として出向している伊藤亨さんは語る。
復興庁には、大手企業のCSR担当の部署などから復興のために何か手伝えることはないかとの相談が寄せられていた。だが、同庁には被災地企業の詳細なデータはない。そこで、地元企業の事情に精通している商工会議所をカウンターパートに選んで事業を立案。手始めに石巻の水産加工業者を支援することになった。
初の「結の場」の当日、大手企業35社70人が石巻を訪問。地元の水産加工業者13社が7つのテーブルに分かれ、大手企業がそれらのテーブルを移動して回り対話を重ねた。各セッションでは、商工会議所職員が各企業の事業内容のほか、販路拡大や商品開発、人材育成などそれぞれが抱えている課題を説明。大手企業からは課題解決に向けたアドバイスやアイデアが出された。こうして検討・共有された課題に基づきマッチングが成立し、23のプロジェクトが活動を開始した。
一過性ではない継続した長い付き合いに
「ギフトの季節でも商品が売れなくなりました。時間がたつにつれ震災の記憶が風化してきていると感じます」と語るのは、石巻商工会議所業務課事業係長の大槻清勝さん。地元の水産加工業者は全て被災し、設備が復旧したとはいえ海産物の水揚げは震災前と比べて減少しており、生産ラインがフル稼働できない状況だ。
「せっかく生産を再開しても、すでに小売店の商品棚には他の産地からの代替品が入っていることが多く、再び扱ってもらうことは難しくなっています」(大槻さん)
復興庁から「結の場」を提案され、13社を参加させたのはそんな中のことだった。その結果、「共同通販プロジェクト」では、石巻の水産加工業者8社が共同で特産品を集めた「石巻・海のごちそう便」のパンフレットを支援企業のノウハウを活用し作成。通販で新たな販路を開拓するとともに、首都圏の観劇会の案内に同封するなど富裕層に狙いを定めた販売戦略を模索した。また、受注にコールセンターを活用するなど、中小企業1社ではできなかった対応が可能になった。
たらこを扱う湊水産の倉本治常務は、「結の場」に参加したメリットをこう語る。
「数千人の社員が勤務する大手企業の本社ビルで試食会や販売会を開催しました。試食会では全員にアンケートに答えてもらい、消費者の生の声をたくさん集めて、次の商品開発につなげることができました。なにより、多くの人に『石巻』を知ってもらうことができました」
また、石巻は人口が震災前の17万から15万に減っており、事業再開のネックの一つに人材不足が挙げられている。「もともと人数が少なく、営業担当が一人とか経理担当が一人だけという中小企業はざらにありました。その一人が戻ってこないと、誰も営業や経理の分かる人がいないのです」(大槻さん)
人材育成も重要な課題の一つだ。営業力強化やビジネススキル向上のための社員教育研修プログラムの提供などのプロジェクトもある。「結の場」をきっかけに支援企業と被災企業の長い付き合いが始まっている。
地元の視点で復興の最前線に立つ
復興庁 宮城復興局 政策調査官 伊藤 亨さん
現在、商工会議所やその会員企業から日商を通じて復興庁に派遣され、復興支援業務に従事している人は3人いる。そのうちの一人が仙台商工会議所から同庁宮城復興局に出向している伊藤亨さんだ。
外から見る古巣の活躍ぶり
平成24年2月に発足した復興庁。同年4月の企業連携推進室開設にあたり、民間からも職員を募集した。伊藤さんは同年3月から宮城復興局に勤務している。
「新しい役所なので、各省庁や民間企業からのメンバーで構成されています。職員の出身地も全国各地にわたります。1年目は、復興特区制度を担当し、県内の自治体と税制措置などの折衝をしていました。2年目からは『結の場』を中心とした企業連携推進室業務の企画や調整業務を担当しています」
役所の世界に入り、商工会議所を外から見ると、あらためてその役割の重要性に気付かされたという。
「復旧・復興の過程で、地域の企業の実情をよく知り、政府の施策・制度の情報を企業に伝えていたのは、商工会議所でした。特にグループ補助金を取りまとめた際の石巻や気仙沼、塩釜など沿岸部の商工会議所の活躍ぶりには、頭が下がりました」
地域復興マッチング「結の場」は、電機メーカーから出向している伊藤さんの同僚がリーダーとなり、まとめ上げた。
「年度途中で立ち上げたので予算が付いておらず、ゼロからのスタートでした。どのような連携ができるかを民間出身者が中心になって議論し、始めたプロジェクトです。復興庁に入ってくる大企業の情報と商工会議所が持つ地元企業の情報をうまくマッチできました」
「結の場」の成果を見て、今後さらに商工会議所同士の連携が重要だと感じたという伊藤さん。「今後は広域的な地域同士の連携を手掛けてみたい」と目標を話している。
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