テーマ別企業事例 思わず行ってみたくなる 人の心をつかむ「導く力」

地域やお店が注目されることで、新たなにぎわいを生み出そうと奮闘する人たちがいる。今号は、もともとある特徴を生かしたり、固定観念にとらわれないお店づくりに挑戦したりすることで、人を引きつけている事例を紹介する。

参加型のイベント企画で世代を超えて人が集まる商店街へ

モール505茨城県土浦市

長さ505m、3階建て構造で、すぐ横を高架道路が走っているモール505

茨城県土浦市に全長505m、3階建てという一風変わった商店街がある。その名も「モール505」。市民にはなじみのある場所だが、土浦駅周辺の衰退とともに人通りが減少している。そんな中、再びにぎわいを取り戻そうと力を入れているのが市民参加型のイベントだ。その効果は、徐々に広がっている。

珍しい構造の建物にさまざまなお店が並ぶ

土浦駅から徒歩5分。高架道路のカーブに沿って曲がりくねった鉄筋コンクリートの建物が続く。5棟の低層のビルが連結しているモール505だ。隣接する高架道路の下は池やベンチのある広場になっており、屋外ステージも設けられ、地元の人たちの憩いの場になっている。

「3階建てのビルが並んでいる独特の構造が珍しいからか、映画やドラマのロケ地として使われることも多いんですよ」と話すのは、管理組合法人モール505事務局長の高野薫さんだ。

昭和60年、国際科学技術博覧会が筑波研究学園都市で開催されることが決まり、土浦市は会場へ向かう交通の玄関口となった。高架道路を整備することになり、立ち退きする商店の新たな移転先として建設されたのが、この細長い商店街だった。

40年前は70万もの商圏人口を誇った土浦市。オープン当時も人通りは多く、市民にとっては最も親しみのある商店街だったという。だが、近年は郊外に大型ショッピングセンターが相次いで誕生し、人の流れが変わったことで空き店舗も少しずつ増えていった。

「駅前の衰退が続いていますが、もともと土浦は江戸時代から商都として栄えたところ。活気とにぎわいに満ちたまちへと再生するためにも、モール505に人を呼ぶことが大切だと考えています」と、商店会長で1階に入居するアパレル店・マイノリティ代表取締役の的場弘幸さんは語る。

まずは気軽に来てもらう

そこで、数年前から力を入れているのが、市民参加型のさまざまなイベントだ。

「こちらが一方的に実施するのではなく、誰でも参加できるイベントを企画しています。市民にこの場所になじんでもらうために始めたのです」(高野さん)

例えば、毎年8月に開催している「キララまつり」。福岡県小郡市の七夕神社からご神体を分祀してもらい、祭りの時期になると周辺に多数の竹を設置して短冊に願い事を書いて結べるようにしている。

「昨年は3000近い数の短冊が結ばれました。皆さんの願いが届くよう七夕神社へ奉納しています」と高野さん。キララまつりの期間中は、子どもから大人まで出場できるダンスコンテストなどのイベントを屋外ステージで行っている。

11月下旬から始まる「イルミネーションまつり」も、市民が楽しみにしているイベントだ。市内の小・中・高校に案内し、それぞれのテーマで自由にイルミネーションの作品をつくってもらっている。

「昨年で4回目になりましたが、年々作品のレベルもアップし、冬の恒例行事として定着しています」(高野さん)

また、毎年約2万5000人ものランナーが参加する国内屈指の市民マラソン大会「かすみがうらマラソン」では「ランナーズ・ヴィレッジ」をオープン。大鍋の炊き出しやご当地グルメコーナー、ドリンクの無料配布など、当日は商店街が〝グルメロード〟となり、ものまねライブをはじめとするイベントも実施している。

ここにしかないものが買える場所に

イベントのときだけ人を呼ぶのではなく、平日もふらっと立ち寄ってみたくなる、そんな商店街を目指し、空き店舗を絵画などの作品を展示する場所として提供している。

「最近は空き店舗を合唱部の練習や受験生の勉強など地元の高校生にも利用してもらっていますが、なかなか好評です。子どものころ、よくモール505で遊んでいたから、ここを拠点に活動したいと出店を申し込んでくれる人もいます。そういう人をもっと増やしたい。そのためにも、若い人たちにまずモール505に慣れ親しんでもらう。それが今の私たちにできることだと考えています」と高野さんは力を込める。

モール505が誕生した当初から入居している的場さんは、大型ショッピングセンターとの差別化こそがモール505の魅力につながると話す。

「個人商店の経営者としては、ショッピングセンターと同じものを売っても仕方ないと思っています。値段で勝負しても首を絞めるだけ。むしろ、ここにしかないもの、ここでしか買えないものを販売することが、人を呼ぶ大きなカギになると考えています」

そのためにも、今後は特色ある商品を扱うお店を増やしていきたい。他のマネではなく自らの発想で何かを創り出せるお店を集め、新しいモール505にしていこうと的場さんたちは考えている。

「駅に近いのに生鮮食品が買えないとか、下着を売っている店がないというお客さんの声もよく聞きます。車を利用する人が多い地方都市では、駅前がかえって不利だと言われるのですが、その不利な立地をどう克服し、集客につなげるかが今後の大きな課題です」(高野さん)

明るい兆しもある。平成27年に、土浦市役所が土浦駅西口に移転することになったのだ。的場さんたち商店主は、駅前に再びにぎわいが生まれるだけでなく、新規客を獲得する大きなチャンスになると考えている。

課題もあるが大きな可能性も秘めている。それがモール505の底力であり、人の心をつかむ魅力につながっている。

多彩なイベントを企画/地球食堂てらすや

外国人の来店も多い「地球食堂てらすや」のオーナー・加登谷春満さん

モール505の2階でカフェレストラン「地球食堂てらすや」を営む加登谷春満さんも、商店街を盛り上げようと考えている一人だ。素材と健康にこだわった料理を味わえる店内では、平日の午後や週末の夜を中心に、音楽ライブやヨガ教室、ワークショップなど、さまざまなイベントを企画し、多くの人が訪れている。3月22日はシンガーソングライター・詩愛さんのライブを開催。お店に集まった人たちは、素敵な歌声の曲を聴きながら食事を楽しんだ。

新たな魅力とにぎわいを生み出した水辺のオープンカフェ

水の都ひろしま推進協議会 広島市

水辺の開放感と川風を感じながら食事が楽しめるオープンカフェ

瀬戸内海に面し、市内中心部を6本の川が流れる〝水の都〟広島。美しい水辺に恵まれている特徴を生かし、河岸緑地を活用した「水辺のオープンカフェ」を実施したことで、まちに新たな魅力とにぎわいが生まれた。各店舗は、多くの市民や観光客が利用する憩いの場となっている。

まちの特徴を生かした雰囲気の良い空間

水辺の開放感と、川から吹く風を感じながら各店こだわりのメニューを楽しむことができるオープンカフェ。店舗づくりは出店者が個性を生かし工夫している。一方、外観や看板などのデザイン・色調・配置・大きさは、河岸緑地に溶け込み統一感のある質の高い空間となるよう配慮。夜はライトアップし、雰囲気の良い空間を生み出している。

水辺のオープンカフェは、川沿いで営んでいる店舗に隣接する河岸緑地を利用した、一体的なオープンカフェの「地先利用型」と、河岸緑地に飲食店舗を設置する「独立店舗型」の2形態。現在は9店舗が営業している。

「川が多い広島市は、戦後から河岸に緑地を整備し、水辺を活かしたまちづくりに取り組んできました」と紹介するのは、広島市経済観光局観光政策部観光ビジネス担当主事の宮本貴司さん。市の地域資源である水辺の魅力を引き出すため、国・県・市が連携して平成2年に「水の都整備構想」を策定し、緑豊かな河岸緑地や親水性の高い護岸など、水の都となる基盤づくりを進めてきた。

14年7月には、内閣に設置された都市再生本部が「水の都ひろしま」の実現に向けた取り組みを都市再生プロジェクトに選定。市は「水の都ひろしま推進協議会」を10月に設立し、市民団体や経済・観光関係者、学識経験者、行政がメンバーとして参画した。

15年1月、ソフト面を重視した新たな取り組みの〝よりどころ〟として「水の都ひろしま」構想を策定。同年10月に構想の実現に向けた「『水の都ひろしま』推進計画」を策定すると、翌年3月に国土交通省から河川利用の特例措置に関する通達が出る。その適用区域として「水辺のオープンカフェの実施」を重点事業として位置付けた京橋川右岸と旧太田川(本川)・元安川の一部が指定された。

「この特例措置によって、これまで認められていなかった河川区域という公共空間での営業活動が社会実験として可能になりました」(宮本さん)

河岸緑地に隣接する店舗がオープン

こうして16年7月に、河岸緑地に隣接する地先利用型の店舗として、イタリア料理の「リストランテ フォンタナ」(ホテルJALシティ広島)と、カフェ「キャラントトロワ」(ホテルフレックス)がオープンする。

「2つのホテルは、地元の町内会を中心とした『まちづくり委員会』から委託され、まちづくりの一環として12年から非営利のオープンカフェを実施していましたが、特例措置を活用した民間の営業活動へと移行したのです」(同部観光ビジネス担当主任技師の和泉淳之さん)

17年3月にはカフェバーの「オーカフェ」(RCC文化センター)、さらに19年9月に洋菓子店の「ムッシムパネン」が加わり、現在は4店が営業している。

「地先利用型の出店条件には、事業協賛金の負担や周辺河岸緑地の清掃などに加え、水辺との連続性を高める『通り抜け通路』や公共的な空間の『公開空地』、誰でも利用できる『市民トイレ』のいずれかを整備することとしています」(宮本さん)

人の流れを生んだ独立店舗

一方、独立店舗型のオープンカフェは、施設そのものを河岸緑地内に設置し営業している。河川空間に民間事業者が常設店舗を設置するのは、全国初の取り組みだった。

立地場所は、複数ある候補地の中から、市内の中心地である八丁堀・紙屋町と広島駅を結ぶ場所を選んだ。通勤・通学者の多いエリアであるだけでなく、路面電車やバスから店舗が見える好ロケーションだ。

出店者は公募し、推進協議会に設置した選定委員会が「広島の特産品を使い、PRにつながる」などの基準により3社を選定。17年10月に営業を開始した。23年には、契約期間満了に伴い出店者を再募集。現在は地元の牡蠣生産者が直営する「オイスター・コンクラーベ 牡蠣亭」、誰でも気軽に立ち寄れる「カフェ レガロ」、本格的な紅茶が楽しめる「ティーガーデン プルプル」が営業している。

「広島駅と中心地は距離があり分断されていましたが、中間点にオープンカフェを設置し、利用してもらうことで人の流れが生まれました。各店舗には、まちづくり活動にも協力してもらっています」(宮本さん)

独立店舗型の出店者には、地先利用型と同様、事業協賛金の負担や河岸緑地の清掃を義務付けている。事業協賛金は、樹木へのイルミネーションの設置などに充て、水辺の夜景を演出。「オープンカフェができたことがきっかけで、近くに架かる歴史的建造物でもある京橋も、ロータリークラブの協力でライトアップされるようになりました」(和泉さん)。

地元の人にも観光客にも広島の魅力をPR

京橋川オープンカフェの一つ、「カフェ レガロ」を運営するレガロホテルシステム代表取締役の佐々木恭子さんは「目の前でホテルを営業していますが、カフェをオープンする前は、周辺の河岸緑地や道路は夜になると暗く、浮浪者やホームレス、風俗営業の客引きなどが多かったので、ホテルの周辺を明るく安全にしたいと思っていました」と振り返る。

河岸は整備されていたが、人の通行や犬の散歩などでしか利用されていなかったという。

「駅と中心地の間にある川と緑の空間を上手に利用すれば、散策や読書、仕事の合間の一休みを楽しめるお洒落な空間として、もっと広島をアピールできると思いました。一杯飲みや、ラーメン、おでんといった屋台とは違う、点景となり得るオープンカフェだったことから参加を決めたのです」

誰もが入りやすいお店を目指している「カフェ レガロ」は、川に沿った面は扉を開放して水を感じられるように工夫。外の席は遠くから見ても点景となるように赤いパラソルと赤・緑のテーブル、椅子を配置し、夜は席にローソクを灯すことで暖かさ、やわらかさを演出している。

メニューは、来街者に広島をアピールし、地元の人には地産地消を再認識してもらおうと、県産豚肉(神石高原ポーク)などの料理や、お好み焼き風ピザ、「雨後の月」「亀齢」といった地酒を提供。デザートは全てオリジナルの手づくりで、瀬戸田レモンを使ったチーズケーキなどを考案している。

「窓越しの風景と違い、オープンカフェは水と緑という自然が身近にあります。自然の中で飲み、食べ、おしゃべりすることで、くつろぎやホッとする空間が生まれます」(佐々木さん)

平和記念公園のそばにカフェが誕生

20年8月には、元安川の河岸に「カフェ・ポンテ」が新たにオープン。テイクアウト方式の仮設型店舗として11年に設置されたオープンカフェ(オクトカフェ)を拡充し、京橋川オープンカフェ同様、河川利用の特例措置を活用した独立店舗型として営業を開始した。

店舗では、広島産の野菜や牡蠣、魚介類を使ったパスタなどのイタリア料理やデザートを楽しむことができる。また、平和記念公園の対岸に位置し、原爆ドームも100m程度の距離。他の8店に比べ観光客の割合が高く、平和記念公園を訪れる人向けに献花用の花や折鶴用の折り紙を販売したり、観光案内をしたりしている。

出店により店舗の周辺も歩きやすくきれいに

広島市経済観光局観光政策部観光ビジネス担当課長の篠原富子さんは「オープン後は、タウン情報誌や地元のテレビ番組などで〝カフェの好きな女性が行きたくなるスポット〟といったテーマで紹介していただきました。広島での知名度は上がってきたと感じています。全国誌の旅行ガイドでも取り上げてもらえる機会が増え、観光資源としても定着してきたと思います。川と緑があるまちの魅力を、地元の人が再認識するきっかけにもなりました」と、これまでの取り組みの成果を話す。

自治体の視察も多く、観光旅行のツアーに組み込まれることもあるそうだ。

また、以前は河岸緑地への不法駐輪が目立っていたが、オープンカフェの出店により大幅に減少するなど周辺環境の改善にもつながったという。

「店舗の照明で夜も歩きやすくなり、周りもきれいになったと地元の人から喜ばれています」(宮本さん)

出店者は「出店者会」を結成し、まちづくりにつながるさまざまな活動も展開している。近くの音楽大学と協力し、バイオリンやチェロ、ギターなどの弦楽器や管楽器による演奏会や、専門学校と連携したファッションショーを開催。町内会とは夏祭りなどで屋台を共同出店し、ヨーヨー釣りなどの出し物で集客している。

さまざまな効果を生み出した水辺のオープンカフェ。広島市は〝水の都〟の魅力をより引き出し、さらなるにぎわいの創出と地域の活性化を目指す。

道行く人の目を引きつける「文房具店に見えない」店づくり

井口文華堂 神奈川県横浜市

「もともと文房具屋にあまりいいイメージを持っていなかったので、とにかく見た目の美しい、おしゃれな店にしたかった。お客さまに『かわいい!』と言われると、もっとやってやろうと意欲が湧きます(笑)」と話す牧新生さん

今年で創業67年目を迎える文房具店・井口文華堂。1階に文房具・たばこ・ガーデニング用品、2階には雑貨など、さまざまな分野の商品を置いている。いわゆる〝まちの文房具屋さん〟を思わせない外観やセンスのある内装は、道行く人の目を引きつけ、幅広い層のお客でにぎわっている。

若い女性が「かわいい!」と口にする外観

井口文華堂のある神奈川県横浜市の日吉は、駅の東側に慶應義塾大学日吉キャンパスがあり、駅を挟んだ西側には4本の商店街が放射状に伸びる。その一つ・中央通り商店街の中ほどにお店はある。

ケーキ屋さんと見間違うような洋風の白いドア、大きな一枚窓、その前に並ぶガーデニング用品、たばこのショーケース……。ちょっと見ただけでは何のお店だか分からないが、興味を引かれて中に入ってみると、そこには文房具が並んでいる。さらに店内をよく見ると、ショーケースにはアンティーク家具が使われ、壁はレンガ造りでところどころにランプやレリーフなどの装飾が配されており、文房具店というイメージはない。

「店にいると、一日に5~6回は『きゃ~~、かわいい!』という若い女性の声が外から聞こえてきますよ」と代表取締役の牧新生さんは笑う。井口文華堂は40年以上、〝見た目の美しさ〟にこだわってきた。実際、外観や内装に引かれて入ってくるお客も少なくなく、一日の来店者数は平均500~600人、多いときは1000人を超えることもあるという。しかも若い女性だけでなく、男女を問わず幅広い世代が訪れるというのも特徴だ。

自分もお客も居心地の良い空間にしたい

井口文華堂が現在のようなお店へと変わり始めたのは、昭和47年ごろだという。牧さんが先代の娘・節子さんと結婚したのがきっかけだった。

「この家に来たころは、いかにもまちの文房具屋といった風情でした。店の前にはハンコのラックが出ていて、ガラス戸には『○○入荷しました』と書かれた画用紙が無造作に貼られ、狭く雑然とした店内は棚も床もほこりっぽい。ここに来る前は輸入した楽譜を扱う専門店に勤めていて、整然とした環境でデザイン性の優れたものを多く扱っていたせいか、『これはちょっとおかしいだろう!?』と思ったんです」

居心地の悪さを感じた牧さんは、手始めに倉庫をなくすことにした。文房具は品数が多いため、在庫をそろえるには広いスペースが必要になる。売り場の何倍も広い倉庫があったが、牧さんにはそれが不思議だった。文房具は注文すれば翌日か、遅くとも翌々日には商品が届くため、在庫が少なくなってから注文しても間に合うからだ。

「わざわざ店に倉庫を持たなくても、問屋を倉庫代わりに使えばいい。その分、店舗として使おうと思いました。当時は売り場を2倍に広げれば2倍、3倍にすれば3倍と、広さに比例して売り上げが伸びたので、その判断は正解でした」

昭和56~57年には、人に貸していた2階も店舗として使うことにし、外階段をなくして店内から2階に上がれるようにした。さらに出入り口の間口を広げ、店内を温かみのある木目調にリニューアル。それに合わせて、陳列棚を一般的なデコラ張りの什器からアンティーク家具に替え始めた。例えば、重厚なデスクに雑貨を並べたり、テーラーで使われていたワイシャツケースに半紙を置いたり、生地屋が使う反物ラックをファイル用の棚として使ったり……。多くが一点物であるため、少しずつ時間をかけて替えていった。

「アンティークというと高価なイメージがあるけれど、皆さんが想像するほどではありません。つくりがいいからどれも100年や200年は持ちますし、使い込むほど味わいが出るので、結果的にコストパフォーマンスは高い。蚤の市や骨董市などをまめにのぞいていると、思わぬ掘り出し物に出合います。これは何に使えるだろうと考えるのも楽しいんですよ」と牧さんは目を細める。

自分の部屋にいるような雰囲気を演出

店内のレイアウトにも牧さんなりのこだわりがある。通常、壁面に什器を置く場合、同形のものを一列に隙間なく並べるのが一般的だ。しかし牧さんは、形も高さも異なるアンティーク家具を、あえて15㎝ほど間を空けて並べている。その方が家具ごとに商品をまとめていることがひと目で分かる上に、凸凹感が自分の部屋にいるような雰囲気を演出してくれるからだという。

また、通路の幅を広くとっているのも特徴。一般的な文房具店では通路で人とすれ違うのもひと苦労ということも少なくないが、井口文華堂の場合はゆうに1m以上ある。おかげで誰にも邪魔されず、じっくりと商品を見ることができるのだ。かつて牧さんが嫌がっていたハンコのラックはどこへ行ったのか。

「今は店の奥に置いています。欲しい人は必ず奥まで入って来ますから、店の前に置くこともないでしょう。それにシャワー効果といって、売れるものを奥に置いておけば、その途中で別の商品を見て、買ってくれることも期待できます。店の前がきれいになり、売り上げもアップして一石二鳥です」

こうして着々と〝文房具屋らしくない店づくり〟を進めた牧さんだが、当初、節子さんは強く反対していたという。昔ながらの文房具店で育った節子さんには、違和感があったのだろう。しかし、特に用事がないのにお店に入ってくる人が増えたことや、棚から棚へと移動しては「かわいい!」と楽しそうな声をあげる若い女性客の姿を見るうち、次第に理解を示すようになったそうだ。

営業時間中に改装!?進化する姿勢をアピール

そして21世紀を迎えようというころ、再び店内の大きな改装に着手する。木目調で統一された店内の壁にレンガを張ろうと思い立ったのだ。通常なら業者に頼むところだが、牧さんはアルバイトの女性数人とともに自分たちでやることにした。しかもお店を営業したまま、お客が出入りする中で作業を進めていった。

「もちろん、一遍にやったわけじゃありませんよ。今回はこの柱、明日はこの壁といった要領で少しずつ張り替えていったので、特に営業の邪魔にはなりませんでした。むしろお客さまは面白がって見ていましたよ。若い女の子が作業服を着て、レンガを張る光景なんてなかなか見られないでしょう? 別に狙ったわけではないけれど、案外いいパフォーマンスになったんじゃないかな」

さらに出入り口のドアを「アンティークショップで一目ぼれして」(牧さん)購入した高さ2・5mもある白いアンティークドアに付け替えるのに合わせ、お店の外側を白いペンキで塗り、現在の外観へと生まれ変わらせた。

牧さんにインテリア全般の知識やDIYの経験があったわけではないが、やる気になればここまでできるのだ。自分のイメージするお店づくりを自らの手で行っている姿をお客に見せることは、「この店は常に変わろうとしている」というアピールにもなる。

「ハレの場」として期待して入ってもらえる雰囲気が大切

商店街の中でもひときわ目を引くお店となり、取り扱う商品も時代に応じて変えてきた。

例えば、たばこ。もともと創業当初から置いていたが、さほど力を入れていたわけではなかった。しかし、大学卒業後、井口文華堂に入社した息子の尚徳さんの発案で、新たに外国産の葉巻や紙巻きたばこを扱い始めた。日本ではあまりなじみがないが、世界にはさまざまな銘柄があり、それぞれ独特の香りが楽しめるそうだ。パッケージがまるでチョコレートのようにカラフルで美しいため、陳列してあるだけで目を引き、つい手に取ってしまう。

「たばこを扱う店は減っているので、時代に逆行していると思われるかもしれませんが、予想に反して売れるんですよ。周辺にたばこ屋がなくなっているからうちの店に来るというのもあるけれど、葉巻や紙巻きたばこを扱うようになってからさらに売れるようになりました」

珍しい商品といえば、和紙もそうだ。牧さん自身が好きなこともあり、普通の和紙から高級な手すき和紙、修復用和紙といった専門的なものまで取りそろえている。これらを必要とする人が固定客となって訪れているという。

「当店の売り上げの大部分は、大学ノート、ガムテープ、模造紙といった一般文具です。それらの品ぞろえを充実させるのはもちろんですが、実用品ばかりではつまらない。そこで普通の文房具屋では手に入らないようなもの、例えば『鳩居堂』の和文具や『G.C.プレス』の便せんや封筒といった由緒あるメーカーの商品にも力を入れてきました。それらを壁の目立つ場所におしゃれにディスプレーしているのも、他店と差別化する戦略の一つなんです」

こうして外観、内装、ショーケース、商品、ディスプレーに至るまで徹底的に「見た目」にこだわり続けた結果、来客数を順調に増やし、固定ファンもつかんだ。売り上げも時代に左右されることなく右肩上がりを続け、現在では年商2億円に上る。

「私は店というのは『ハレの場』だと思うんです。ですから文房具屋に限らず、喫茶店でも本屋でも、入って気持ちいい空間であることが基本だし、そこに来るとハレの気持ちになってもらえるような店でなければいけない。商品も大事ですが、まずは入りたくなるような雰囲気かどうかが重要。今後も見た目や美しさを意識しながら臨機応変に変わっていきたい」と言い切る牧さんのお店づくりに「ゴール」はなさそうだ。

井口文華堂の魅せるテクニック

“まちの文房具屋”らしからぬ装飾

灯油で火をともすアンティーク・ランプが店内のところどころに。ランプの明かりで照らされたレンガが美しい

隠れた主力商品

日本製のたばこよりも幅を利かせている外国製の葉巻や紙巻きたばこ。色とりどりのパッケージは見た目もかわいく、手に取る人も多い

レイアウトの工夫

形も高さも違うショーケースをあえて間を空けて配置。その凸凹感が「ホッ」とする雰囲気を演出

アンティーク家具のアイデア利用

テーラーの仕立て台をレジ台として使用。塗りが剝げた風合いも独特の雰囲気を醸し出している

アートの力でさびれた問屋街に活気を取り戻す

河原町文化開発研究所 熊本市

問屋街の外観。中にはレトロなアーケードが続いている

熊本駅から市電に乗って河原町を訪れると、タイムスリップしたようなレトロな景観に出合う。そこには、かつて問屋街として栄えた建物が残っている。それらが醸し出す魅力に引かれた若者たちが集まり、雑貨店やカフェなどを運営。古い建物に新しいアイデアが取り込まれ、ここは、つい足を止めてしまう場所だ。

異空間に魅せられて集う若者たち

戦後の1950~60年代、繊維問屋街として栄えた河原町。だが、時代の変化とともに空き店舗が増え、かつてのにぎやかさは消えて建物だけがさびしく残った。しかし、レトロな建物が並ぶ異空間が多くの若者の心をとらえ、現在は雑貨店やカフェなど、個性的な店が軒を連ねている。

問屋街は2階建ての小さな建物が並ぶアーケードのつくりで、奥まで続く狭い路地を進めば進むほど、趣を深く感じることができる。レトロな雰囲気に加え、安い家賃で入居できることや、一店一店が小さく、手づくりの店を出せるなどの特徴が若者を引き付け、入居者が増えているという。さびれてしまった繊維問屋街に、若いクリエイターを呼び込んで河原町を盛り上げようとする動きが始まったのは十数年前。当初は10人ほどが入居を希望し、以来、少しずつにぎわいを取り戻しているのだ。

喫茶店「GALLERY ADO」を営んでいる黒田恵子さんも、河原町の空間に魅了された一人だ。熊本市出身の黒田さんは、以前は東京で働いていたが、この場所に出合って自分のお店を持つことを決心した。そこには、若いクリエイターたちを応援したいという気持ちがあったという。

「東京にいたころ、表現者には彼らを支える環境が大切だと感じたのです。この場所に店を構えることで、そういう人たちをお手伝いしていきたいと思いました」

注目を集めるためにイベントを通じて発信

黒田さんはお店をオープンした平成16年に「河原町文化開発研究所」を発足させ、現在所長を務めている。

「私がここに来る前にまちを盛り上げようと取り組んでいた方々の思いを受け継ぎ、『これからは自分たちでやっていかなければいけない』という意識をもって、研究所を立ち上げました。このまちをにぎやかにするためにできることは何かを考え、まずはあまり知られていなかった河原町の存在自体を知ってもらうことを目的に、イベントを開催することにしました」

月1回、河原町の商店が協力して、「河原町文化市場」をスタート。通りを歩行者天国にするなどしてお客を呼び込んでいった。しかし、自分のお店をまかないながら運営していくのは難しいとの声も聞かれ、1年足らずで終了してしまった。以後、形を変えながらさまざまなイベントを企画したが、どれもなかなかうまくいかなかったという。商店主だけでの運営には限界があった。

「まちの再生という目標を掲げて始めたものの、意識の差があるので難しかったですね。研究所が発足してから5年後、月に一度のイベントを復活させようと『アートの日』を企画しました。商店の皆さんの負担にならないようにすることを約束し、スタートしたのです」

アートの日の特徴は、オリジナルの表現物の出品。出展者は問屋街の好きな場所にブースを設け、自分の作品を販売することができる。出展料は「気持ち」程度。口コミでクリエイターがクリエイターを呼び、出展者が増えていった。

自然とにぎわいが生まれる

最初は黒田さんら研究所メンバーが電話で参加を呼び掛けるなどして、3人の出展からスタートしたという。当初から運営費はほとんどかからないものだった。「とにかく手間のかからないイベントにしようと考えていました。こちらで用意するのは、灯油代くらいでしょうか(笑)。あとは出展者の皆さんに自由にこの場所を活用してもらって、出展料もお気持ち程度しかいただいていません」。

また、『かわぞう』というフリーペーパーを作成し、今月のアートの日の様子や周辺のお店の情報を掲載。活字と写真で動きをつけて伝えるPRにも力を入れた。「『行ったことはないけど知ってる!』と言ってくれる人が増えました」と振り返る黒田さんは、アートの日の魅力についてこう語る。

「つくり手本人が説明しながら販売するので、お客さんとのコミュニケーションも生まれますし、問屋街の狭さが出展者同士の距離を縮めて自然と会話が弾み、活気づいているように感じますね。クリエイターの中には内気な人も見られますが、自分で説明して販売する環境が一人一人に責任感を伴わせています。作品を買ってもらうということは、人に認められるということです。対価を得る大切さをクリエイターたちに感じてほしいですね」

さらなる広がりを目指し活動範囲を拡大

今では商店主の人たちも関心を寄せて見守っているという。「アートの日には通常よりも早く開けるお店もあります。各店にもお金が落ちて、良い効果が生まれています。『月1じゃなくてもっと増やしてくれないか』との声も寄せられるので、検討中です(笑)」。

6年間アートの日を続けてきた今、黒田さんが感じている課題は、運営側と出展者の交流を深めることだという。「双方がスキルアップしていくために、イベント後には交流会を開いて意見交換する場をつくっています。また、今後はこのイベントを外に広げていきたいとも思っています」。

河原町を多くの人に知ってもらうためにスタートしたアートの日。近年は外に向けた活動を始め、熊本市動植物園で開催するなど、河原町に来ることができない人たちも楽しむことができる取り組みにも力を入れている。

また、研究所自体のステップアップも図りたいと黒田さん。「研究所メンバーの中には普段はサラリーマンとして働いている人もいます。皆ボランティアで活動してくれているので、アートの日のやり方自体をパッケージとして確立させて、対価を得られるものにしていきたいですね」。

地元の情報を紹介するWebTVでアートの日が「コミュニティビジネス」として取り上げられるなど、黒田さんたちの活動が地域に反響を呼んでいる。「私たちの自主的な活動を身近な人に知ってもらって、『すごいことやってるね』って言ってもらえるようになりたいですね」。

黒田さんの夢は「アートの日の出展者からスターを輩出する」こと。その日が楽しみだ。

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