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テーマ別企業事例 特集 新たな観光客を引きつけろ! にぎわい創出のカギは〝外国人〟

昨年、日本を訪れた外国人旅行者数は、政府が目標にしてきた1000万人を初めて超えた。しかし、全体で見ると、最大の観光国であるフランスの8分の1程度と、今後も〝新たな観光客〟を呼び込む取り組みが求められている。今号は、外国人のニーズに的確に応え、受け入れ態勢を整備することでにぎわいを生み出した事例や、最近の外国人旅行者の動向を紹介する。

ニーズに応えたまちの整備と積極的な情報発信を進めて誘客に成功

岐阜県高山市

高山の名所「古い町並」は、常に多くの観光客でにぎわっている

平成15年に始まった「ビジット・ジャパン・キャンペーン」以降、訪日外国人旅行者数は急速に伸びている。しかし、その20年近く前から誘客に力を入れてきたのが岐阜県高山市だ。外国人旅行者のニーズに応えたまちの整備と、海外に向けた積極的なアピールが功を奏し、昨年は初めて20万人を超えた。

高山の魅力を海外にPR

江戸時代の城下町や商家が保存された「古い町並」など、情緒豊かな景観から「飛騨の小京都」と呼ばれ、観光スポットして高い人気を誇っている高山市。昨年訪れた観光客は394万人を超え、そのうち外国人は約23万人と、前年から49%もアップした。

高山市が外国人の誘客に乗り出したのは昭和61年。運輸省(現国土交通省)から国際観光モデル地区の第一次指定を受けたのを機に、外国人が安心して一人歩きできる「観光のバリアフリー」を目指したことがはじまりだ。最初に着手したのは、複数の言語を併記した誘導案内板の整備。平成2年には、5カ国語(英語、フランス語、ドイツ語、韓国語、中国語)の観光パンフレットを作成した。「平成8年からは、隣接する白川村の合掌造り集落・白川郷が世界文化遺産に登録されたのを受け、『飛騨高山』の魅力をインターネットで世界に発信しています。そのころから、海外で開催される旅行博や国際観光展示会に出展するようになりました」と語るのは、飛騨・高山観光コンベンション協会会長で、高山商工会議所副会頭の堀泰則さんだ。

「最初に出展した台湾の台北国際旅展には日本からもいくつかの団体が来ていましたが、市単独で参加したのは高山くらいだったんじゃないでしょうか。そこで手応えをつかんだので、その後は台北のほか、韓国、中国、香港などにも行って、積極的に高山をアピールしました」

生の声を集め旅行者の〝不便〟を解消

観光のバリアフリー化を進める中で、堀さんたちが重視したのは、外国人旅行者のニーズを把握することだった。そこで、折に触れてヒアリングやアンケート、モニターツアーなどを実施。さまざまな方法で生の声を集めた。

「不便と指摘されたことは、大いに参考になりました。『案内板や標識が少ない』『トイレが見つけにくい』『店に入っても商品のことが分からない』『英語の看板やメニューがほしい』『観光案内所が閉まる時間が早い』など率直な声が聞けたので、その改善に取り組みました」

そこから生まれたものの一つに、「飛騨高山ぶらり散策マップ」がある。英語、フランス語、イタリア語、中国語(簡体字・繁体字)の5タイプ(現在は9タイプ)を作成した。特に工夫したのは、観光案内所、公衆トイレ、駐車場、金融機関、無料インターネットサービスなどの場所を、誰にでも分かるようにマークで記載したことだ。

「高山の人間は基本的にシャイだし、外国語が堪能な人も少ないので、まちで何か聞かれても満足には答えられません。でも、マップにまちの基本情報を盛り込んでおけば、仮にトイレの場所を訪ねられても『ここ!』と指差すだけで用が足ります。つまり、マップは外国の方だけでなく、受け入れる高山市民のためのものでもあるのです」と堀さんはメリットを挙げる。

たとえ言葉が分からなくても、こうして日常的に外国人と接していれば、徐々に度胸もついてくる。今では高齢者でも「Yes/No」「Thank you」「Hello」「Please」くらいは堂々と話すそうだ。

まちの人が片言の英語でも一生懸命に答えようとしている姿は、外国人旅行者にとってうれしいことだろう。環境の整備というハード面と、市民の〝受け入れる気持ち〟というソフト面の相乗効果により、まちの好感度や満足度がアップ。ミシュランガイドで「わざわざ旅行する価値がある」を意味する三つ星として掲載されたことも追い風となり、昨年の外国人観光客数は過去最高の数字を記録した。

伝えようとする工夫で安心して買い物してもらう

市内の各商店もさまざまな工夫を凝らしている。例えば、POPを活用して外国人の集客につなげているのが、雑貨、印伝、箸を扱う3つのお店を展開している「まるひゃく」だ。和風の商品ということもあり、以前から外国人が多く訪れていた。しかし、当初は商品のことを聞かれても、しどろもどろでまともに対応できなかった。そこで、商品説明を書いたPOPを置くことにしたのだ。

「外国人にウケそうな商品やおすすめの商品には、英語表記のPOPを立てておくことにしました。それ以外の商品も、説明を書いた小さな紙をレジに用意しておき、聞かれたら渡すようにしています。それを読めばどんな商品で、何に使うのかが分かるので、納得して買っていただけるケースが増えました」と代表取締役社長の奥洞洋一さんは効果を語る。

こうした取り組みの結果、現在、まるひゃくを訪れるお客の3~4割は外国人だという。言葉が通じないことでストレスを感じる外国人旅行者は多いが、POPを通して伝えようとする姿勢があるからこそ、安心して買い物してもらえるのだろう。

また、外国人を意識した商品開発に取り組んでいるのが、創業100年を超える和菓子処「稲豊園」だ。

「当店は季節に合わせた商品をつくっていますが、日本人には若草、黄、ピンクといった淡い色彩が好まれるのに対し、外国の方ははっきりとした色に目が行くようで、最近は色使いを工夫しています。昨年のハロウィーンやクリスマスには原色を使ったオリジナル和菓子をつくりましたし、今年の節分は真っ白なお多福と真っ赤な鬼の顔をモチーフにした紅白大福を店頭に並べたところ、大変好評でした。1つ買ってその場で食べられる方が多く、すぐに反応が分かるので工夫のしがいがあります。固定概念にとらわれず、自由な発想で和菓子をつくっていきたいですね」(代表取締役社長の中田專太郎さん)

中田さんは、新商品が完成するとフェイスブックにアップし、随時情報を発信している。日本特有の和菓子は外国人にとって興味のある食べ物だけに、情報を手掛かりにお店を訪ねてくる人も多いそうだ。

さらなるニーズに応え活気あるまちへ

地域を挙げたさまざまな取り組みにより、外国人に絶大な人気を誇っている高山市だが、まだまだ満足していない。

「当面の目標は年間30万人ですが、おそらくすぐに達成できるでしょう。しかし、その上を目指すには、さらなるニーズに応えていかなければなりません。その具体的なアクションとして、今年は外国人からの要望が多い無料Wi-Fiを市内に整備する予定です。また、店の閉店時間が早いという不満をよく耳にするので、各商店に営業時間の延長を働きかけていきたいと思っています。そうして少しずつまちが変わっていけば、もっと人がやって来るはずですし、人が来ればまちはさらに活気づきます。つまるところ、『観光=まちづくり』と思っています」と力強く語る堀さんは、外国人を誘客するためにはまちのオンリーワンを探し、世界に発信するのが一番だと考えている。

「特別なものでなくてもいい。むしろ日本人なら気にも留めないような当たり前のものが、外国人のツボにはまることがよくあります。それをインターネットやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を使ってどんどん発信する。どこかの誰かが目に留めて、話題にしてくれたら一気に世界に拡散し、思わぬところから観光客がドッと訪れるかもしれませんよ」

「歩いて楽しいまちだね!」

「まちはきれいだし、スモールタウンなので歩き回りやすいのがいい。お店もたくさんあって飽きない。お土産にはスイーツと『さるぼぼ』(飛騨地方の人形)を買っていきたいね」(浜松の友人に勧められて高山を訪れたという、アメリカ・シアトルからの観光客)

海外からの旅行者誘致へ 地域全体でおもてなしの向上を図る

埼玉県川越市

川越観光のメーンストリート、川越一番街商店街。景観は保たれ、訪れた人が江戸時代にタイムスリップしたような感覚になるまち並み

古くから城下町として栄え、「小江戸」と呼ばれる川越。都心から近くて便利な観光地として広く知られている。昨年の観光客数は630万人を超え、過去最高を記録した。また、近年は外国人旅行者誘致に向けた取り組みを進め、その数も増加傾向だ。

広域連携で長期滞在客を呼び込め

30年ほど前までの川越市の一番街は、どこの地方都市にもあるような軒を連ねた商店街だった。他と違っていたのは、古めかしいからと覆っていた鉢巻状のトタンや看板を取り除くと、そこに昔ながらの蔵づくりの商家が残っていたことだった。その価値に気付いた商店主は、昭和55年ごろから、一軒また一軒と覆いを取り外し、蔵づくりのまち並みを復活させたのである。

江戸との舟運で栄え、「小江戸」と呼ばれる川越には、喜多院をはじめとする江戸時代から残る寺院や、100万人規模の人出がある川越まつりなどの観光資源もあり、現在では、関東近辺のみならず全国から観光客が訪れるようになった。外国人からも、昔ながらの日本の景色を楽しめるまちとして人気が高く、昨年の外国人観光客数は、4万5000人に達した。

これまでも川越は、外国人旅行者を対象にした取り組みを積極的に行ってきた。街路に設置されている観光名所の案内板は、英語だけでなく韓国語と中国語も併記されている。観光案内のパンフレットも、英語、中国語、韓国語など多様な言語に対応。さらに川越市にキャンパスを置く東京国際大学の学生が、授業の一環で作製した英語によるパンフレットも定期的に発行され、多くの外国人旅行者が利用している。

しかし「まだ十分に川越の良さを彼らに発信できているとは思っていません」と、小江戸川越観光協会専務理事の中林明さんは、その潜在的な可能性を指摘する。

「アジア系の観光客は買い物を好みますが、欧米系の観光客は比較的滞在時間が長いという傾向があります。まちの景観や文化を楽しむということに価値を見いだす人も多いので、満足していただくための仕掛けが必要ですね」と言う中林さんは、着物がレンタルできる仕組みをつくった。着物を着てまち歩きを体験できるので、外国人に人気のサービスだ。さらに毎月18日を「川越きものの日」に設定。染め物や折り紙を楽しめるイベントを開催しているほか、着物を着て施設を訪れるとプレゼントがもらえるなど、さまざまな特典を用意している。

しかし、こうした仕掛けや仕組みづくりも、外国人旅行者誘致のためにはまだまだ十分ではないと中林さん。また、東京から近いというメリットは、逆に日帰り客が多いというデメリットでもあった。

「宿泊していただき、日本の文化や料理をより深く楽しんでもらいたいと思っています。例えば料亭で遊ぶ文化を復活させ、滞在時間を長くしたいですね。ここには明治末期にできた料亭がそのまま残っています。そこで庭を見ながら食事ができることも、もっとアピールしていきたいですね」と中林さんは抱負を語る。

また、昨年3月には秩父市観光協会と「観光連携に関する協定」を締結。お互いに交流を深めながら、両市の観光資源を一緒になって発信していく計画だ。「川越市に来ていただいたら、料亭で食事をし、翌日は、長瀞の川下りや秩父の札所巡りを楽しんでもらう。そんなコースも提案していきたいです」と言う中林さん。今後はさらに飯能市や入間市、日高市など、タイアップする地域を広げ、埼玉県西部地域全体で観光地としての魅力を高めていく考えだ。

これからはソフト面の活性化が重要

商店街も、外国人旅行者へのおもてなし力を高めようと動き出している。今では有名になった蔵づくりのまち並みが復活するきっかけをつくったのが、陶器店「陶舗やまわ」社長の原知之さんだ。原さんは今、NPO法人「川越蔵の会」の代表理事として、伝統的建造物の保存活動やイベント開催などに向けて奔走している。

最近では、一番街商店街に隣接する弁天横丁で、かつて芸子さんの置き屋だった一軒を借り受け、改修。そこでイベントや展示会を行い、新しい川越の魅力を発信していくことを計画している。しかし、原さんは何よりも川越の住民が元気になることが重要だと言う。

「これまではハード面の保存に目が向けられていましたが、これからは蔵づくりの店舗で何ができるのかといったソフト面の活性化が重要になります。この『蔵のまち』は、ここで暮らしが営まれているということが特徴です。単なる土産物を売るお店が連なる商店街になっては、魅力が半減してしまいます。住民が主体となったまちづくりも行っていきたいですね」と熱く語る。

商店街がつくる英会話教材で「もてなし力」アップ

商店街専用の英会話教材製作もその一つだ。これは、「英語の通じるまち・川越」を目指し川越一番街商業組合が、「スピードラーニング」のエスプリライン社と昨年9月に作製したものだ。

教材には、実在のお店も登場する。その中で出てくるお肉屋さんの社長が、川越一番街商業組合の理事長として教材開発をけん引してきた?崎正明さんだ。

「何度も外国人に道などを尋ねられることがあり、観光客を相手に商売する組合員が英語を話せるようになれば、川越のおもてなしのレベルが上がるだろうと考えていたときに話を持ち掛けられたので、ぜひつくってくださいとお願いしました」

地域が一体となって観光を盛り上げ、観光客に向けて発信力を高める。そのために、そこで暮らす人々が生き生きとし、まちそのものが活性化する。それが、川越の魅力を増幅させる。

川越市の外国人旅行者拡大を目指した取り組みは、これからも続く。

官民一体でクルーズ客を歓迎し、地域経済の活性化につなげる

鳥取県境港市

船が寄港するたびに地元の人たちが歓迎セレモニーを実施

日本海国内航路の要衝であり、中国、韓国、ロシアなどとの物流拠点としての機能も持つ境港。近年はアジアでのクルーズ客船需要を背景に、寄港する船の数や回数が増加傾向にある。昨年は17回入港、寄港乗客数は1万人を突破し、今年はさらに多くの乗客が境港を訪れる予定だ。これを地域経済の活性化につなげようと、鳥取・島根両県の枠を越えて周辺の行政や商工会議所などが一体となった取り組みが始まっている。

県境を越えて協力し合う態勢を整備

境港に寄港するクルーズ客船は朝に到着し、夕方出港する。大半の乗船客は、港に滞在する時間を利用し、最寄りの観光スポットである水木しげるロードを散策したり、周辺の皆生温泉、松江城、出雲大社、石見銀山などまで足を延ばし、観光を楽しんでいる。

大型船であれば、一度に上陸する外国人旅行者は1000人以上。そこで、こうした外国人客を含めたクルーズ客の受け入れ態勢を整え、地域経済を活性化させようと平成25年に設立されたのが、「境港クルーズ客船環境づくり会議」だ。

会議は、境港を管理する境港管理組合が境港を取り囲む鳥取・島根県や「中道・穴道湖・大山圏域市長会」を構成する5つの市(境港・松江・米子・安来・出雲)と各市の観光協会、商工会議所などをメンバーに発足させた。

「具体的にはまず、寄港する船の歓迎から始めました。着岸時に音楽隊による演奏、郷土芸能の披露、鬼太郎ファミリーや両県のマスコットキャラクターの着ぐるみなどで華やかに出迎えています。また、通訳を手配したり両替所を設置したりして、観光や買い物をスムーズに楽しんでもらえるサービスを提供しています。港を離れる際は物販ブースを岸壁に設け、お土産も販売しています」と事務局を務める境港管理組合の永見珠美さん。同会議は現在、「境港クルーズ客船おもてなしサポーター」を募集している。

「客船の出迎えや見送り時の伝統芸能の披露、乗客・乗務員との交流イベントの企画実施、通訳のサポート、出港のお見送りのいずれかで活動してもらえるようにしました。地元の人たちも巻き込んで『おもてなし』することで、イメージアップにつなげたいと考えたのです」(永見さん)

言葉の壁を気にせず必要なサービスを実施

船から降りた外国人旅行者が買い物をしてくれるのは、地域にとって非常にありがたいことだろう。ただ、これまで想定していなかった外国人客をどう受け入れていいのか、戸惑っている商店主が多いのも事実だった。そこで、同会議は地元の事業者を対象にした講習会を実施している。

「外国人の買い物需要や傾向を学ぶ講習に加えて、言葉の壁を気にせず十分なおもてなしができるように、あいさつや会計、電話対応など接客に必要な英会話を学んでいただいています」(永見さん)

ただ、境港へ寄港するのは中国や韓国、ロシアなどの客船も多い。乗船客は必ずしも英語圏の人ばかりではないだけに、さまざまな対応が必要だ。そこで、数年前から韓国語とロシア語の市民向け講座を開催している境港商工会議所は、今年新たに5カ国語(英語、韓国、ロシア、中国、日本語)の店舗マップを作製した。

「事業者に声を掛け、まずは30店を紹介しました。他にも、接客に必要なあいさつを5カ国語別にまとめた冊子やCDなどを作製し、マップの参加店に配布しています。さらに、外国人旅行者が快適にインターネットに接続できるように、Wi-Fi環境も順次整備していく予定です」と同所。今後も環境づくり会議を中心に官民一体となり、必要だと思えるサービスを導入していくという。

積極的な取り組みで売り上げがアップ

外国人旅行者の受け入れにいち早く取り組んできた事業者もいる。その一つが、回転寿司店の「大漁丸」を経営する喜満フーズだ。5年前からiPadを各テーブルに設置。7カ国語(英語、ロシア語、韓国語、台湾語、中国語、フランス語、日本語)に対応しており、外国人客はそれを使って注文できるシステムだ。

「iPadは画像がきれいなので、寿司のネタもおいしく見えるし、頼みやすいようで、外国人のお客さんは導入前の2倍に増えました」と代表取締役会長の田淵英志さん。パート・アルバイトのスタッフも外国人に対して誠意の込もった接客ができるよう、朝礼では外国語のあいさつなどを唱和しているそうだ。

慶応元(1865)年創業の蔵元・千代むすび酒造も、店舗にロシア語や韓国語のポップを取り入れるなど、外国人客の受け入れに積極的だ。代表取締役社長の岡空晴夫さんは、スタッフを接客英語研修に参加させるなど、店頭でコミュニケーションを取れる人材の育成にも力を入れている。「饒舌でなくても、気軽にあいさつするだけでお客さんの反応が違ってきますから」と岡空さん。境港のおもてなしを実感してもらえたら、それがそのまま購買にもつながるという。

「お客さんは母国語で話し掛けられるとすごく喜んでくれます。分からないことはボディーランゲージでも何とか大丈夫ですし」と、岡空本店店長の山本香さんは笑顔で話す。クルーズ客船が寄港するときは必ず岸壁に出店し、日本酒をアピールしているそうだ。

クルーズ客船だけでなく、国際定期フェリーや米子・ソウル国際定期便なども就航し、外国人旅行者のさらなる増加が期待される境港。地域を挙げた受け入れ体制の推進とともに、今後の躍進から目が離せない。

旅行目的地は全国へ〜訪日外国人旅行者の新しい傾向を探る〜

日本政府観光局 事業連携推進部長 亀山 秀一

昨年の訪日外国人旅行者数は1036万人となり、政府がビジット・ジャパン事業を開始して以来の悲願だった1000万人の目標を達成した。外国人旅行者の間では、東京、京都、富士山ほど有名でない場所にも徐々に注目が集まってきている。そこで、有名観光地以外で評価の高い場所や旅行の目的について、日本政府観光局(JNTO)事業連携推進部長の亀山秀一さんに聞いた。

日本政府観光局(JNTO)

外国人旅行者を日本に誘致することを目的に、昭和39年に設立されたインバウンド・ツーリズム振興の公的な専門機関。各国にある海外事務所のネットワークを利用し、観光宣伝、観光案内、会議や展示会誘致などの業務を行っている。

韓国 大都市にない魅力を持つ地方都市に関心

秋田ポートタワー・セリオン

韓国では、テレビドラマのロケ地を訪問することがブームになった例があります。2009年の秋から冬にかけて放映されたドラマ『アイリス(IRIS)』が大ヒットし、ロケ地の秋田県に多くの韓国人が訪れるようになったことはよく知られています。11年8月にヒットしたドラマ『女の香り』の舞台になった沖縄県は、同年7~9月の韓国人宿泊者数が前年と比べて83%増加しました。バラエティー番組の海外ロケが旅行につながる例も増加しており、14年1月に人気番組『スーパーマンが帰ってきた』のロケが行われたことで、沖縄人気はさらに加速しています。

また、大都市では感じられない「のんびり」「ほんわか」という新たな魅力により、日本の地方都市への関心が高まっています。大韓航空が11年1月に始めた日本デスティネーション・キャンペーンでは、著名な日本人5人によるテレビ広告により、日なたぼっこをする猫駅長(和歌山電鐵貴志川線貴志駅のたま駅長)や、温泉に入るニホンザル(長野県の地獄谷野猿公苑)などの人気が出ています。

同様の例が、ハナツアー社の肥薩おれんじ鉄道乗車ツアーです。肥薩おれんじ鉄道は、八代(熊本県)~川内(鹿児島県)間を運行するローカル線ですが、この鉄道に乗って駅弁を食べるというごく普通の、しかし日本らしい体験がのんびり楽しめると人気を集めています。ローカル鉄道での旅行は、団体観光バスと異なり地域の雰囲気を肌で感じることができ、それが魅力の一つとなっているのです。

中国 大きな動きを生んだ数次ビザの発給

09年に大ヒットした中国映画『非誠勿擾』(邦題・狙った恋の落とし方)は、北海道がロケ地となったラブストーリー。映画が引き起こした北海道旅行ブームは中国全土に広がり、インパクトが大きければ中国でも流行を生み出せることを示しました。

11年7月から、個人観光で沖縄への宿泊が要件となる数次ビザの発給が始まり、12年7月には東北3県(宮城・岩手・福島)への宿泊を要件とする数次ビザも発給されるようになったことから、これらの地域への関心が高まっています。沖縄は上海や北京からの直航便が開設されるなど、大きな動きが生まれました。

また、中部・北陸の関係者が連携してプロモーションを展開している「昇龍道」の名を冠した中部縦断ツアーや、九州や沖縄を寄港地とするクルーズの人気も高まっています。

台湾 旅行の関心は全国各地へ

冬の雪や夏の広大な花畑など、台湾にはないものへの憧れから北海道は根強い人気を誇っています。また、沖縄ではレンタカーを利用した個人旅行も増加しています。富山県と長野県を結ぶ立山黒部アルペンルートや、紅葉時期の東北地方も人気があります。

11年のオープンスカイ協定締結以降、台北と日本の地方都市を結ぶ航空路線が大幅に増加しました。現在は、訪日旅行の関心も北海道から沖縄まで全国各地に広がっています。

香港 アジアで最も成熟した市場は目的も多様化

別府市街

訪日旅行の中でも個人旅行者の割合が高く、かつリピーターも多いことから、アジアで最も成熟した市場といえます。そのため、ツアーの目的地も北海道から沖縄までほぼ全国にわたって設定されています。

形態も多様化していて、函館・札幌、高山・白川郷、別府・阿蘇、沖縄などを自由にドライブしたり、黒部峡谷鉄道やアンパンマン列車などの観光列車を楽しんだりするなど、レンタカーや鉄道の利用者が増えています。さらに雪国でのスノーレジャーはもちろん、富士登山、各地で開催されるマラソン大会への参加、サイクリング、農業・漁業体験など、目的も多様化しています。

タイ イチゴ、リンゴなどの果物狩りが人気

北海道の各自治体や観光関係団体などによるタイでのプロモーション活動、旅行雑誌やテレビの旅行番組での露出、タイ語の北海道ガイドブックの登場などにより、雪体験ができる冬期だけでなく、夏期の北海道旅行が人気です。富良野のラベンダー畑などを訪れるタイ人観光客が大幅に増加しています。

また、タイ人はイチゴ、リンゴ、サクランボなど日本の果物が大好きです。果物狩りは、全国各地で人気の観光資源となっています。

13年7月に訪日観光のビザが免除になってから、タイ人の訪日意欲はさらに増しています。個人旅行者も増加していることから、地方への関心は今後一層高まると考えられます。

シンガポール 継続的な取り組みで中部地方への注目度がアップ

松本市から眺める山々

シンガポールでも07年ごろから北海道ブームが起きています。札幌や小樽、函館、富良野など道央・道南地域だけでなく、リピーターを中心に阿寒湖や釧路、知床など道東の人気も高まっています。当初は雪への憧れから〝冬の観光地〟としてのイメージが強かった北海道ですが、5月でも鑑賞できる桜や夏のラベンダーの人気も定着しています。

また、岐阜県をはじめとする自治体の継続的な取り組みなどにより、中部地方への注目度が高まっています。金沢、高山、白川郷、立山黒部アルペンルート、上高地に、白馬でのスキー・雪体験などを組み合わせたルートが人気です。

九州の知名度も高く、主要旅行会社は福岡のラーメンや熊本牛、鹿児島黒豚、久留米の果物狩りなど多種多様な食文化と、阿蘇山などの広大な自然、黒川や湯布院などの豊かな温泉文化などを組み合わせた各種パッケージツアーを販売しています。

アメリカ 日本の伝統美や近代建築に関心

嚴島神社

東京~箱根~京都のゴールデンルートに金沢、高山、白川郷などを組み込んだツアーは、ここ7〜8年で定番商品となりました。朝市や和菓子づくり体験などを楽しめることから、特に日本の伝統美に関心の高い熟年層の人気を集めています。広島・宮島に足を延ばすアメリカ人も多くいます。

また、日本の近代建築や日本庭園への関心も高まっており、香川県の直島、滋賀県のMIHO MUSEUM(ミホ ミュージアム)、島根県の足立美術館(日本庭園)などを訪れるアメリカ人が増加しています。

カナダ 教育関係者の評価が高い平和都市・広島

ゴールデンルート以外で関心が高いのは、広島・宮島、高山・白川郷など。特に広島は、世界平和を考える上で重要な場所だと認識されており、カナダの教育関係者の間で評価が高いです。

中華系カナダ人は、里帰りの途中で日本に立ち寄る機会が多く、リピート率が高いこともあり、北海道や九州などを訪れる人も増えています。

オーストラリア 上質な雪と文化体験が人気を集める

富良野のラベンダー畑

スキー旅行先としての日本の人気が絶大です。オーストラリア国内やニュージーランドにもスキー場はありますが、上質な雪で本格的なスノーアクティビティを楽しむために北半球のスキー場まで行く傾向があり、口コミやプロモーション活動を通じて、雪質の良さやリフト代を含めた滞在費の安さ、時差が少ないことなどから日本の優位性が広まっています。特に、ニセコや白馬の人気は完全に定着しており、最近は富良野、ルスツ、志賀高原、野沢温泉、妙高高原、東北の安比や蔵王などにも関心が広がっています。

また、京都を起点に、高山の古い町並み、白川郷の合掌造り集落、そして加賀百万石の栄華をしのぶ金沢の各都市を2泊3日で周遊するルートや、伊勢神宮、海女による伝統的な潜水漁法、世界遺産の熊野古道での歴史探求のハイキングや高野山での宿坊体験など、ユニークな伝統文化を体験できるルートも人気があります。

イギリス スキー旅行市場の拡大に期待

北海道はパウダースノーを楽しめる世界有数のスキーリゾートであることが、イギリスのスキー関係者の間で認知されつつあります。12年11月~13年3月のスキーシーズンには、延べ6000人が北海道を訪れました。北海道の人気に歩調を合わせるように、長野、新潟を訪れるイギリス人スキー客も増加しています。今後、さらに訪日スキー旅行市場が拡大することが期待できます。

また、長野はスキーに加え、日本アルプスの雄大な景色や、妻籠のまち並み、善光寺での宿坊体験、地獄谷野猿公苑でのスノーモンキー見学が人気で、オプションとして旅館宿泊を組み込んだツアー商品も増えています。

フランス 美しい自然や伝統的なライフスタイルが魅力に

美しい自然や日本人の伝統的なライフスタイルなどへの関心が高く、阿蘇山、釧路湿原といったパノラマ風景や、囲炉裏(いろり)のある民宿、静かな温泉宿での団欒、朝市などが高く評価されています。フランスのメディアでたびたび紹介されている高野山も人気が定着しつつあります。

また、アウトドアへの関心も高く、日本に行ってハイキングを楽しみたいと考えるフランス人も増えてきています。

ドイツ 日本文化の体験に興味

宿泊というより、異文化体験が可能な施設として旅館の人気が高いです。温泉の露天風呂でくつろぎ、浴衣を着て、会席料理に舌鼓を打つ、というイメージが定着しつつあります。朝の和食は、本来ドイツ人には受け入れにくいものですが、伝統的な日本文化体験の一種と理解されています。

仏教も、神秘的で興味を持たれる対象の一つ。高野山は、関西の訪問先では京都や奈良に次いで人気が高く、宿坊に泊まって修行僧と共に瞑想にふけり、精進料理を体験することも目的の一つになっています。

また、永平寺(福井県)も禅の寺として人気が高いです。ドイツで「禅(ZEN)」とは禅宗ではなく、精神の癒やしや瞑想を意味し、神秘的な魅力を持つものと受け止められています。

積極的な訪日プロモーションを実施し観光交流人口の拡大を目指す

訪日外国人旅行者1000万人を記念し開催されたセレモニー

昨年、訪日外国人旅行者数は1000万人を達成しましたが、政府は今後、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、2000万人の高みを目指すとしています。

昨年末、JNTOは関係者とのより一層の連携の下、インバウンドのさらなる中核的役割を担うべきとの政府方針が明確に示されました。今後は伸長著しい東アジア、東南アジアをはじめ、欧州、ロシア、インドなど大幅な市場拡大が予想される地域でも積極的な訪日プロモーションを戦略的に実施していきます。

オリンピック・パラリンピック開催は、わが国が世界中から注目を集めるまたとないチャンスです。これを逃すことなくプロモーションを展開していきます。特に、東京、京都といった従来の定番観光地だけでなく、地方観光の促進を大きなテーマに掲げ、自治体などとの連携を強化していきたいと考えています。

また、プロモーションだけでなく、インバウンドに積極的に取り組もうとする地域へのコンサルティングなどを通じた支援も積極的に行います。さらに、日本を訪れた外国人が不自由なく旅行を楽しみ、満足して帰国してもらうためには、外国語表示やガイド、無料Wi-Fiなど受け入れ環境の整備が重要ですので、自治体などに働きかけていきます。

訪日旅行の促進をはじめとする観光交流人口の拡大は、今後の地域社会の活力の維持・増進に不可欠です。JNTOは全国の自治体、関係機関との連携を一層強化し、積極的に貢献していきたいと考えています。

買い物は日本の魅力が凝縮された観光コンテンツ

ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事 新津 研一

にいつ・けんいち 一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会専務理事、株式会社USPジャパン代表取締役社長。横浜国立大学経営学部、IFIビジネス・スクールを卒業。2012年に株式会社三越伊勢丹を退職後、ショッピングツーリズムの普及を目指しUSPジャパンを設立。日本百貨店協会外国人観光客誘致委員会アドバイザー、観光庁ビジットジャパンプラス2013メンバー、免税制度協議会WG座長なども務める。

日本が観光立国を目指す上で、外国人旅行者のニーズに応え、購買意欲を高めることは欠かせない要素だろう。では、外国人は何を買い、どんなサービスを求めているのか。そのために小売・飲食店がすべきことを、ジャパンショッピングツーリズム協会専務理事の新津研一さんに聞いた。

●一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会:https://www.jsto.or.jp

●Japan Shopping Festival:https://jsf.japanshopping.org/

「日本人」そのものが最大の魅力

家電量販店の集積する秋葉原では外国人旅行者を相手にする免税店が多く立ち並ぶ

外国人が考える日本の魅力とは何なのか――。平成15年から外国人の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を展開してきた観光庁がいきついた答えは「日本人」でした。日本人と交流し、日本人を知る。それが外国人旅行者にとって最も魅力的なことだとして、昨年3月に新しいプロモーション方針を打ち出したのです。

そこでは、日本を旅することでしか得られない3つの価値を挙げています。1つは、日本人の神秘的で不思議な「気質」に触れることができる。2つ目は、日本人が細部までこだわり抜いた「作品」に出合える。そして3つ目は、日本人の普段の「生活」にあるちょっとしたことを体験できる、です。

これらはそのまま「買い物」に置き換えることができます。すなわち、気質は「販売・接客」、作品は「商品」、生活は「品揃え」、です。そう考えると、外国人にとって買い物はまさに日本人を知る絶好のツールであり、日本の魅力が凝縮された観光コンテンツといえます。ですから、「どうぞ日本に来て買い物をして、日本人を体験してください」というのがショッピングツーリズムの考え方であり、新しい観光政策の骨子なのです。

急速に拡大する新しいマーケット

それでは、買い物を提供する小売・飲食店の業況はどうかといえば、昨年あたりから少しずつ上向いてきているとはいえ、近年苦しい状況が続いています。マーケットが内側を向いているため、隣の店同士、商店街の同業者、中心市街地vs郊外、小売店vs大型店でシェアを奪い合う構図になっているのです。

しかし、外に目を向けてみれば、まったく違った景色が見えてきます。例えば、昨年の訪日外国人旅行者の消費額の内訳を見てみると、44%は宿泊費や交通費ですが、32・7%は買い物、20・5%は飲食に充てられています。また、その売り上げも一昨年の3400億円から昨年は4600億円に跳ね上がっています。これは、たった1年で1200億円もの新しいマーケットが誕生したことを意味します。

訪日外国人旅行者の活動内容を見ても、「日本食を食べる」が95%と最も多く、次いで「買い物をする」が76・8%と、高い割合を占めています。特に、中国や韓国、台湾といった東アジアから訪れる人の目的は、買い物といっても過言ではなく、日本滞在中ずっと買い物し続けることも珍しくありません。しかも、これは一部の富裕層ではなく、一般の観光客の話なのです。

こうした動向から、今後日本が観光立国を目指す上で小売・飲食店の担う役割がいかに大きく、それぞれの頑張りが成功のカギを握っているということが分かるのではないでしょうか。

当たり前のことが心を動かす

では、どうしたら外国人旅行者を呼び込めるのか。「当たり前を見直す」ことは重要なキーワードの1つです。

例えば、買い物好きな東アジアの人に人気なのが、洗顔フォームや綿棒といった日用品です。「えっ、そんなものが!?」という品物を両手いっぱいにまとめ買いしていきます。なぜなら品質がいいからです。

また、日本ではお客が来たら「いらっしゃいませ」と声を掛け、店を出るときは何も買わなくても「ありがとうございました」と言うでしょう。外国人は、「私は何も買っていないのに、なぜこの店の人は深々と頭を下げるのか?」と驚き、感動します。

つまり、日本では普通の商品が彼らにとっては高品質な商品、普通の店は接客の素晴らしい店なのです。ですから、外国人の喜ぶ〝普通〟にいかに気付けるかが、小売・飲食店にとって今後を左右するといえるでしょう。

また、地理的な思い込みを取り払うことも重要です。日本人は東京や大阪を起点として、そこから自分のまちがどれだけ離れているかと考えます。しかし、外国人は必ずしもそうではありません。

例えば、台湾から東京に来るには4時間かかりますが、沖縄なら1時間で着きます。同様に韓国なら博多、中国は新潟や鳥取の方が、東京よりずっと近いのです。欧米から来た場合でも、今では外国人観光客向けの鉄道・路線バスのフリーチケットがJRから販売されているので、それを使えば遠方まで自由に足を延ばすことができます。われわれ日本人も、海外を旅行したら片道3時間くらい離れた観光名所を苦もなく見て回りますよね。同じように、訪日外国人も東京から北は青森・秋田、西は大阪、来年北陸新幹線が開通すれば金沢だって行くでしょう。つまり外国人にとって、日帰りできる範囲は全て東京なのです。

従って、どんなまちにも外国人がやって来る可能性があります。実際、観光地でも商業地でもないのに、「こんなところに!?」というケースは増えています。たまたま立ち寄ったまちで日本人の気質に触れ、作品と出合い、生活を体験できたら、そこから買い物や飲食につながる可能性が十分にあるのです。

改革のポイントは言語・決済・宣伝にあり

ところが、今の日本では受け入れ態勢が整っているとはいえません。それを改善していくポイントは①言語、②決済、③宣伝(情報発信)の3つに集約されると考えます。

まずは、言語。近年、日本では「おもてなし」がキーワードになっていますが、言葉の通じない相手におもてなしをするのは至難の業です。それどころか、外国人が店に入ってきたら、つい黙って一歩引いてしまう人が多いのではないでしょうか。そういう態度をとられたら、「私のことが嫌いなの?」と勘違いされる恐れがあります。このような場合、外国人同士のように接する必要はありません。まず笑顔とあいさつでウエルカムの気持ちを伝えることが大切です。言葉がダメなら、日本語で「いらっしゃいませ」「こんにちは」と言ってもいいです。外国人が心地よく店に入れる雰囲気をつくれば、彼らを呼び込むことはできます。

次に決済ですが、日本では基本的に日本円がないと買い物や飲食ができません。しかし、日本円に換金できる両替所は少なく、銀行は午後3時までしか開いておらず、コンビニのATMも使えない。そう考えると、クレジットカードが使えることが必須となってきます。手数料が高いため、小さな小売・飲食店までなかなか普及していないのが実情ですが、全国の商工会議所などでも、クレジットカード端末を安く導入できる仕組みを提供するといったバックアップをしてくれるところが増えているので、前向きに検討してみることをおすすめします。

宣伝は、個店ではなく商店街や地域がまとまって行うのがポイントです。日本人客なら隣の店はライバルかもしれませんが、外国人客に対しては仲間になるのです。例えば、「当店で買い物をしたら隣の店でも5%オフになりますよ」「向かいの店では今○○のセールをしていますよ」と教えてあげます。このように複数店が連携し、「個」ではなく「面」で対応する体制をつくれば、地域に外国人観光客を呼び込むことができ、観光客にとってもいい情報が得られて一石二鳥というわけです。

どれもハードルが高く感じられるかもしれませんが、まずは小さなことから工夫してみてください。

免税店制度の変更をうまく活用する

もう1つ、小売店の皆さまには、今年の10月から免税店制度が変わるということを頭に入れておいてほしいと思います。

免税店制度というのは、訪日外国人旅行者にバッグや衣料品、家電製品など特定の物を一定の方法で販売する場合、消費税を免除するというものです。ところが国内に約100万の小売店があるにもかかわらず、免税店はわずか4600店しかなく、日本での買い物の魅力向上に積極的とはいえない状況でした。そこで、10月からは全品目を消費税免税とし、誘客に取り組もうというわけです。

この改正のポイントは2つあります。1つは、小売店の免税店申請が促進されること。今までは外国人の集まるエリアで外国語対応ができることが申請の条件でしたが、外国語のパンフレットや商品解説のPOPなどを用意すれば申請できるようになります。免税店になるための申請は、かなりスムーズになります。もう1つは、お菓子や地酒など地域の特産品も対象になることです。これにより、地方にも免税店が増えて地域経済の活性化が期待できます。

「外国人が来るような店じゃないから関係ない」と思っていてはいけません。免税店になるとならないとでは、同じ商品に現段階でも8%、来年10月の消費税増税後は10%の価格差が生まれますから、外国人旅行者がどちらの店で買い物をするかは明らかです。つまり、免税店になることは販促策であり、ならなければ競争劣位に立たされることを意味するのです。さらに、免税店になれば観光庁がPRしてくれるという特典も付いています。今後、小売店を営む上で許可申請を出すのは必須となっていくでしょう。

これまで日本の小売・飲食店は、日本人客が100%という前提で商売をしてきました。しかし、現在でも1~3%は外国人客であり、2020年の東京オリンピック開催が決定したことで、今後ますますその割合は高くなっていくでしょう。急速に進むグローバル化に戸惑うかもしれませんが、世界中から訪れる外国人旅行者が快適に買い物や飲食のできる店になるチャンスです。その目標に向けて早く準備を始めた店が勝つ、と断言します。

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